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ライ、雷、来!  作者: ごぼてん
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第2話「ボーイミーツガール②」

 人間は血統で魔力の高さが決まる。

 魔力の高い両親から生まれれば魔力の高い子供が生まれ、魔力の低い人間から生まれれば魔力の低い人間が生まれる。これはどうしようもない事実で、その魔力量によってその人間の髪と瞳の色が決まるとされている。


 魔力の高い順に金、赤、青、黒。

 細やかな魔力の差によってはそれぞれの色に濃い薄いの差がでるが、大まかに分けてしまえばこの4色。

 そして、その色による差を徹底的に敷き詰めた国があり、それがケイアン王国である。


 ケイアン王国。

 金色の王族が治めている国。

 赤色の貴族。

 最も人数が多く、青色の平民。

 そして、魔力要素などほぼないとされる黒色の貧民、


 そんな血統と魔力の高さ――正確には血統により現れる魔力の高さを表した髪と瞳の色――で身分が決まる国。そういった血統色主義ともいえる背景からして大陸中を見回しても唯一無二。住んでいるのが人間のみで、原則的に他国の人間の長期滞在を認めておらず、それ故に他国との商業も一部の地域でしか認められていない国。


 この国の慣習として、エルフやドワーフといった亜人への差別や蔑視につながるようなものはないが、婚姻も人間同士でしか認められていない事実もあり、間違いなく大陸中では最も閉鎖的である。

だが閉鎖的であるが故か、国防において他国の追従を許さないほどに国費を割いており、その恩恵か、ケイアン王国の治安は良く、大陸では1,2を争うほどに国民が住みやすい国と大陸中の人々に評判されている。


 そんなケイアン王国の都のケイアン都市、さらには王族の直系血族が住むとされるケイアン邸。あくまでも邸といわれているように決して城ではない。

 貴族邸よりももちろん頭ひとつ分高く、邸の大きさも他の追従を許さないが、ただそれだけ。王が住む定番のイメージたる城に比べれば高さも大きさも、敵襲から身を守る塀や堀もない。なにより王が住んでいるとは思えないほどにものものしさがない。

 だからこそ『城』ではなく『邸』。


 そのケイアン邸の執務室にて一人机に向かって羽ペンを動かす初老の男がいた。金髪に金色の瞳。年のころは50前後だろうか、どこか疲れた表情をしている以外はどこにでもいそうな温和な顔立ちをしている。見た目は普通だが、これでもケイアン王国の王――ルクセント・ケイアン――である。


 ――と。


 コンコンコンコンと、窓からのノックが室内に響いた。

 ルクセント王はペンを止め、背後にあった窓に視線を送る。


「……」


 動こうとしないルクセント王に、またコンコンコンコンと4回のノック音。そのノックの回数に王は首を怪訝な表情を見せ、少しだけ考えて何かを思い出したかのような晴れやかな表情になった。

誰かはわかったが、それでも合言葉はまだ必要だ。


「色」という端的な言葉を投げかける。

「ロバの耳」

「よし、入れ」


 窓が開き、そこから入ってきたのは仮面の男。黒頭巾と黒の衣服。

 現在は既に夜。ただでさえ人の判別がつきにくいにも関わらず、これだけ黒一式の服をしてこられたらぱっと見て誰にも見つけることは出来ないのではないだろうか。

 そんな感想を王に抱かせた仮面の彼は、ルクセント王の心情にも気付かず、すぐさま窓を閉めて王の前にひざまずいた。


「珍しいな、久しぶりすぎてノック4回を繰り返すのが誰か一瞬わからんかったぞ」


 苦笑しながらも「いい、楽にしろ」と言葉をかけるのも忘れない。

 声をかけられた彼は無言のままに頷いて立ち上り、それからフードを脱ぎ、仮面を外す。現れたのは、まだ少年といっても差し支えのないような顔立ちをした黒髪に黒の瞳をした男。


 お世辞にも高いとはいえない身長、どこか陰気さを漂わせた風貌、顔だけみればどこか幼いにもかかわらず、見ようによっては成年しているようにも見えるのは彼が醸し出している雰囲気からだろうか。


「お久しぶりです、ルクセント王」

「うむ。元気にしていたかライ……と聞くのも今更だな」


 そうやってまたもや自分の言葉に苦笑するルクセント王に、仮面を被っていた少年、ライの表情もかすかに崩れる。が、それも一瞬の出来ごと。


「報告したいことがあります」


 この言葉とともに2人の表情が真剣なそれへと変化した。


「パイプ役のハルを通さないところを見ると相当急ぎの用件のようだな」


 そもそも彼を含めた四神隊がここに直接来ることなど急を要する事態以外にはありえない。ルクセント王はため息を一度落とし、それから机の脇においてあった紅茶を口につけて尋ねる。


 その質問に、ライは先ほどと同じように無言のままに頷き、口を開いた。


「最近ケイアン王国を襲撃していたドラゴンに関してです」

「……なに?」


 ルクセント王の動きが止まった。口をパクパクとさせ、それから慌てて続きを促す。


「まず、子供をさらわれたそうです。それも二頭」


 あくまでもおちついたライの言葉に、ルクセント王の顔が真っ青になった。


「まさか、その犯人がわが国の者だと?」

「はい、そのドラゴン曰くこの王国へと帰途にあった商人達から既に一頭は取り戻したとのことです」

「……決定的ということか、だからケイアン王国へ立ち寄ろうとする商人達を襲っていたのだな」

「はい、そのようです。ただもう一頭は見つかっておらず、それ故にケイアン王国で目を光らせていたとのことでした」

「なるほど」


 ドラゴンという存在はあらゆる国にとって単なる強い魔物という存在ではない。強く賢く、人語をも操り、時には神聖視すらされることもある。

 そのドラゴンの子を自国の人間がさらったなど、下手をすれば他国との外交問題にすらなりうる。これは迅速に解決しなければならない問題だ。

 その言葉と共にルクセント王は沈黙して、誰もいない虚空を見つめている。


「……」


 その間、ライは身じろぎ一つせず王の次の言葉を待ち続けている。これはライが訓練された兵士だからとかそういった理由ではない。王が虚空を見つめるのは思考している時の癖なのだ。この時の王の集中力は凄まじいものがあり、ライに出来ることは少しでも邪魔をしないことだけ。それをよくわかっているからこそ黙りこみ、王の次の言葉をじっと待っている。


「ドラゴンから子供を二頭攫ってしかも未だに逃げおおせている。ということはうちの商人と手を組んだ者がいるか……優秀な冒険者と考えるのが妥当か? もしももう一頭がわが国にいたとしたら既にドラゴンが見つけていないとおかしい……別の国、ギ武国にいるとふんだ方がはやそうだが……あの国だと真犯人の特定は難しいか……もしまだわが国の人間が関わっていたら大問題となるな」


 ブツブツと長い長い独り言を漏らしたルクセント王が「よし」と頷き、顔をあげた。


「ラ――」


 ――イ。


 その名を呼ぼうとして、部屋には誰もいないことに気付いた。いや、正確には誰の気配もないことに気付いた。


「む、誰か来るということか」


 困ったように頬をかき、ゆっくりと椅子に腰をかける。それと同時に廊下を走る音が彼の耳に届いた。次いで、コンコンと正面の扉にノック音が響く。わざと大きく息を吐き出して、ほんの少しだけ間ともたせる。


「シルク・ケイアンです、お父様」


 その言葉に、ルクセント王が怪訝な表情になった。


「シルクか、入れ」

「はい、ありがとうございます」


 礼儀と共に扉が開かれシルクと呼ばれた少女が室内に入ってきた。

 王族にしては少し短い、肩まで伸びた金色の髪。見たもの全てを魅了するかのような金の瞳。どこか優しい目つきをしており、可愛らしくもあり美しいともとれる顔だち。

 彼女の名はシルク・ケイアン。ルクセント王の娘にしてケイアン王国の第二王女である。


「ふむ、今夜は珍しい客が多いな」


 いきなりの王の言葉に、シルクはなんのことか分からずに「え?」と首を傾げる。


「いや、すまん。こっちのことだ」


 笑いながらも、手で『適当なところへ座れ』という指示を出すルクセント王の言うとおりに動くシルク。


「それでお父様――」


 言葉を続けようとしたシルクを遮り、ルクセント王が言った。


「――お前も、ドラゴンのことか?」


「!」


 ――なぜそれを?


 といった顔をする彼女に、ルクセント王はため息を。


 ――そろそろ腹芸くらいおぼえてもらいたいものだが。


 腹芸とまではいかなくてもせめて顔に感情が出ることだけは直さなければならない。等と考えつつも今はそれどころではない。


 さらに口を開こうとしたシルクを手で制して黙らせる。


「ふむ」


 虚空に目をやり、考えること約十秒といったところか。


「ライ、出てこい」

「……らい?」


 意味がわからずに首を傾げたシルクのすぐ横。まさにいつの間に、といったところだろう。


「はっ」

「え? ええっ? ……嘘!?」


 全然わからなかったと呟くシルクの言葉を、ライは華麗に無視してルクセント王へと疑惑の視線を向ける。


「そんなうらめしそうな顔をするな、ライ。これから一緒にドラゴンの子供を助けに行くことになるのだからな」


 その言葉の途端、一瞬だけ空気が止まった。


「……」

「……」


 同様の思考停止と共に一言。


「は?」

「へ?」


 王の一方的な言葉にライとシルクが同時に間抜けな声を発した。

 全く同じタイミングの言葉だったが二人の混乱具合に関しては実は全然違っている。

 片や事情の全てを把握していて、なぜシルクが自分と一緒に行くことになるのかがわかっていないライ。

 片やドラゴンと戦っている一人の仮面の戦士を助けるために兵士を貸してほしいとだけ言いに来ただけであって何の事情も知らないシルク。


「ど、どういうことですか、ルクセント王」

「ちょ、ちょっとお父様」


 同時に抗議する2人に、王は面倒くさそうに息を吐いてからまずはライに顔を向けた。


「相手の目的がわからないことと、これが露見すれば外交問題になりうること。これらから迅速かつ目立たずに、要するに少数精鋭で行動する必要があるのはわかるな?」

「はい」


 ライとてこの仕事についてから約2年が経過している。今回のドラゴンの子供奪還もそういった、いわゆる少数精鋭で動かなければならない事態だということぐらいは把握している。


「つまりは、そういうことだ」


 思わず「はぁ?」といいそうになった自身の口を閉ざして、ライはただ静かに頷いた。シルクが信じるに足る実力をもっているのだろうという思考にたどりついたのか、それともただ諦観の境地に至ったのかはライ本人にしかわからないが。


「それで、シルクよ」

「はい」


 今度はシルクへの説明だ。顔を向け、視線をあわせて、そしてルクセント王は言った。


「光神隊でも特に優秀な彼……ロイド・ブレイズだったか? アレもつける。リーダーはもちろんライだ」


 テキパキと。全くもってシルクへの説明がない状態で次々に宣言されていく決定事項。


「え? え?」


 ――説明は?


 そう言おうとしたシルクの言葉をまた遮って、王が宣言した。


「詳しいことはライに全部聞け」


 ――え、丸投げ?


 ぼそりと漏れた言葉はライのものだ。おそらくは反射的に呟いてしまったのだろう。誤魔化すようにわざとらしい咳をしている。


 そんな姿が少しだけおかしくてシルクがクスリと微笑んだ。まさかシルクに笑われるとは思っていなかったライは驚きの顔で反射的にシルクを見やり、シルクはシルクでそんないきなりに顔を向けられるとは思ってなかったせいで、お互いの視線ががっつりとぶつかった。


 距離にして1mもないであろうか。お世辞にも異性に慣れているはいえない二人からすれば、それは信じられないほどに近い。そんな距離で2人の視線がぶつかれば必然的に――


「――っ!」

「――っ!」


 顔を真っ赤にして俯いた。これまた同時である。


「……」

「……」


 突如として黙り込んだ二人に、王が一人静かに固まって肩を落とす。


「……なんじゃいこの疎外感。王様は無視ですかそうですか。そうですよね所詮こんなおじん生きてる価値ないですよね若い人たちと同じような空気吸っててごめんなさいねハハハ……こんなおじんなんか所詮王じゃなきゃあなたたちみたいな若い人と話すことすら許されませんよねーハハハハハハ」


 初々しすぎてストロベリーな空気すら振りまきそうな2人の様子に、ルクセント王が激しくネガティブに拗ねてみたり。正直気持ち悪いとしかいえない呟きである。


 ――ある意味たくましいですね、その妄想。


 などとライとシルクは少しだけ考えたのだがもちろん口には出さない。表情だけは取り繕って二人同時に頭を下げた。


「も、申し訳ありません、ルクセント王」

「ごめんなさいお父様」


 なんだかんだですぐ謝った二人に、王はさっと表情を引き締めてすごい今更に偉そうに言う。


「あとはまかせたぞ、ライ」

「任務、了解しました」


 跪き、頭を垂れるライ。この辺は二人共、反射的な動きなのだろう。ルクセント王による命令とライによる洗練された兵士の動きと。

 あまりにも当然のように厳と行われたそれは弛緩しかけていたはずの空気を元どおりのそれへと復活させる。


「シルク、無茶はするなよ?」

「わかっております」


 シルクも、二人の空気に引っ張られたのか、真剣な表情で頷いた。


「では、二人共、がんばってこ――」


 ルクセント王が締めの言葉を発しようとした時だった。


「――そうじゃなかった!!」


 いきなり声を張り上げたシルクに、ルクセント王とライが首を傾げる。そんな二人の様子にも気付かす、シルクは随分と慌てた様子で声を張り上げる


「大変なんです、お父様」

「ふむ?」

「?」


 訝しげな表情をみせた王と、側で控えているライ。


「ダークドラゴンとたった一人で戦っている人がいるんです! ……しかも、たった一人で!」

「なに?」


 目を見開いて、さすがに驚きの表情。


「……あれ?」


 焦りの色を浮かべたルクセント王とは対照的に、どこかのんびりと首を傾げたライ。


「だからはやく応援を呼ばないと!」

「……それはいつのことだ?」

「え?」

「もし数時間以上経っているのなら……残念ながらこちらの犠牲が増えるだけのことだろう」

「そ、それは……でも!」

「――!」

「――!!」


 二人の口論が激化する様子を、ライは興味なさげに聞いていたのだが、フととある事実に気付いた。

 キーワードは『ダークドラゴン』『殺されそうな少女をかばった』『一人で戦う』『仮面の男』だ。


 ――それ、俺のこと?


 ライからしてみればどう考えてもそうとししか思えない。必死になって仮面の男を助けて欲しいと訴えているシルクを見て、なにかわかったのか、ひっそりと手を打った。


 ――あぁ……俺が助けたのってシルクだったのか。顔とか全然見てなかったから気付かなかったな。


 自嘲気味に顔を少しだけ伏せた。未だに彼女たちの口論は止まる気配はない。あくまでも冷静に返すルクセント王の言葉に、シルクはほとんど強引な感情論を繰り出している。これではまだ二人の口論が終わるのに時間はかかるだろう。


 ――シルクは変わってないんだな……素直で、感情的で、それでいて綺麗で。


 温かい想いがライの胸に去来する。

 ライはシルクという少女を知っている。もう10年以上前のこと、正確には12年も前のこと。公園で泣いていた女の子を助けた。


 それだけのこと。たったそれだけのことだ。時間にしたら半日程度。それ以降のライは国を追い出されていたので、彼女と会うはずもなく、気付けば10年以上の年月を経ていた。


 ――それでも未だに色あせずに残っている。


 シルクという少女が王女という立場にいる人間だったと教えられ、この都市でライが四神隊に所属するようになり、本当に王女という立場にある彼女を知って、もう触れ合うこともなく生きていくんだなと諦めた。

 その彼女が、今ライの目の前にいる。必死になって王へと訴えかけている。

 なんともいえない感情が彼の中で渦巻いていた。


 激化する口論。だが全ては王の冷静な一言で一刀両断される。彼女の表情は既に涙目だ。それでもまだ諦めずに口を開こうとするシルク。

 その様子にライは小さく息を吐いて「仕方ない」誰にも聞こえないような声で呟く。


「――!!」

「――! ――!」


 もちろん終わるはずもない議論をぶったぎるようにライが言う。


「それなら大丈夫ですよ」


 言葉のままに仮面を懐から取り出してそれをシルクに見せ付ける。


「……」


 その見覚えのある仮面をシルクが見つめること数秒。それを睨み、暫しの間黙り込む。そしてやっとそれが指し示す事実に気付いた。

 それを見て取ったライが言葉を続ける。


「だから、ほら。もう応援を出す必要はないんです」


 ライの言葉など聞いていないのか、シルクは仮面とライを交互に見比べ、そして。


「ええええーーーーー!!」

 まるで超音波のような声量である。慌てて耳を塞いだ王とライの様子などまったく気にせず、シルクはほっと息を落として「よかった」と一言。


「……ほんと、よかった」


 涙声で繰り返される、シルクによる安堵の言葉に、ライも小さな微笑みを落とすのだった。





 ケイアン王国の治安機構である警備隊は第三神隊、第二神隊、第一神隊、光神隊の四部隊に分かれている。


 都市内の警邏活動や軽犯罪に対応し、平民や貧民からなる『第三神隊』。

 第三神隊では対応できないような重犯罪事件などに対応し、貴族・平民からなる『第二神隊』。

 第三・第二神隊の指揮をとり、時には第二・第三では対処できないような難事件に対応して、貴族の中でもエリートのみで構成されている『第一神隊』。

 そして、国内だけでなく国外でもその実力が有名な『光神隊』。絶対に失敗の許されないような事件に対応し、誰もが解決を諦めるような問題すら解決する超エリート部隊。彼らは王族の血縁に縁のある者のみで構成されており、それ故に20名にも満たない人数で構成されている。


 それらが、誰もが知っているケイアン王国警備隊。だが、実はもう一つ。王を含め、トップの立場を誇るほんの一握りの者にしか知らされることのない幻の部隊がある。

 それが、ライが所属する『四神隊』である。

 秘密裏に処理する必要のある事件、もちろん汚れ仕事すらも彼らの仕事に含まれる。幻の部隊とされるだけあって所属しているのはたったの4人、窓口役を含めて5人しかいない。


 人数からすれば小規模でしかない部隊だが、彼ら一人一人の力は正に一騎当千ともされており、またこの部隊に限っては身分の一切は関係しておらず、それぞれの隊員がとった弟子に継承されていく、いわゆる世襲制のようなシステムで四神隊は構成されている。この部隊の存在を知っている人間を一人でも少なくさせるための処置であるが、それはともかく。


 ライが窓から去っていった後、ルクセント王から四神隊について聞かされたシルクはライのことを考えていた。


 ――知らなかったな。


 黒髪に黒の瞳。これらは強力とされる魔法の一切を使えないとされている貧民たちのものだ。そんな生まれで、しかもどう見てもシルクと同年代であろう年齢の少年が、四神隊という幻の部隊に所属しているというのはどれだけすごいことなのか。

 考えただけでも尊敬が止まらないシルクの胸にはまた少し、別の感覚が芽生えていた。


「ライ君ってなんだか――」


 吐き出しかけた独り言を中断。ベッドでゴロンと一回転しながらも悶々と考える。


 ――まるで思い出のあの人みたい。


『12年前、シルクという迷子の女の子を助けたことある?』


 聞いてみたい、だけど違っていたらそれはそれでこわい。


「うー」


 その長い髪をワシャワシャとかき乱した。


「明日から色々と大変だし、もう寝よっと」


 少人数で旅に出ることなど、シルクにとってはじめての経験である。にも関わらず全く関係のない思考をもったまま、彼女は床についたのだった。


 ――いきなりドラゴンの子を奪還しなければならなくなったという初旅への不安を一つも覚えていないという意味で、彼女の神経は随分と太いのかもしれない。



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