第1話「ボーイミーツガール①」
雲ひとつない空が広がっていた。
散歩している人間がいたら全員が言うだろう。「いい天気だ」と。
旅をしている人間がいたら全員が言うだろう。「まさに旅日和だ」と。
暑過ぎず、もちろん寒いわけもない。気温は丁度いい具合だが、日差しが少し肌に熱く、ただそれも緩やかに吹き続ける風のおかげでむしろ心地がいい。湿度に関してもカラッとしていて、この国に住むものならば万人が頬を緩めるほどに素晴らしい天気。
そんな素晴らしい天気の下、一人の少女が異質な空気をふりまいて街道を歩いていた。
草原に包まれた一本道のこの街道は魔物の出現もめったになく、出没したとしても穏やかで臆病な魔物ばかりだ。
それ故、街と街をつなぐこの街道は大人の散歩コースにも使われるほどに穏やかで国内でも有数な観光スポットとして有名な道でもあった。
だから、一人の少女が街道を歩いていることはなんら不思議でもないし、注目を引くところでもない。その少女が実際に万人が振り向くほどに文句のない美人だったとしても、それは寧ろこの街道に似合っていて異質な空気などうまれるはずもない。
ではなぜか、それは簡単。今の彼女の風体を見れば一発でわかるからだ。どこにでも一般的に見られる旅装束ですっぽりと頭で覆い、背には大きな荷物袋を背負っている。
これだけだと単なる旅人だが、ここからが違っていた。
旅装束の隙間から覗かせている2丁の魔道銃。この大陸を統治する6つの国。その内の一つであるケイアン王国だけの、しかも一部の特権階級にしか出回っていないとされる一品だ。
さらに彼女が徒歩用に使っている杖も単なる歩行をサポートするためだけとは思えないほどに凝った意匠がなされている。
そして最後に決定的な異質な要素。それはなによりも彼女の目つきである。
まるで目の前に許せない敵がいるかのような、敵意の視線。彼女自身、相当な実力者なのだろう。その怒りの気配だけで人を殺せそうなほどに禍々しい気配を放っていた。
と、少女はふと足を止めた。
「……この辺、かな?」
言葉と共に息をつく。
穏やかで、心を暖かくすらさせてくれるこの街道。この街道を通るためだけに訪れる人間も、ほんの数日前まではいた。それが、いまや少女以外誰もいないというありさまである。
「なにが『まかせておけ』よ。お父様ったらそんなことだけいって何の対策も練ってないなんて」
なかなかの気迫を紡いでいる彼女にしてはどこか甘い、拗ねたような口調の独り言。
――確かに相手は一筋縄ではいかない。だが、だからこそ早めに決着をつけなければならないのではないか。
父は賢い。
何事も理性的に判断し、あらゆる問題に迅速に対応し、あらゆる難事をいつの間にか解決している。巷では四神隊などという部隊が暗躍しているなどという下らない噂が流れるほどだ。
それなのに今回はそんな賢い父の判断とは思えないほどにこの問題への対応が遅い。
少女は自分を後押しするかのように頷き、周囲を見回して人影を確認。
「本当に誰もいないんだ」
寂しげな言葉を呟き、今度は少し草原へと足を踏み入れる。大きな深呼吸を繰り返しながら、それからゆっくりと歩を進めていった。
――旅人や商人。彼らがここを通れなくなった原因をただ一人で解決するために。
彼女が街道から草原へと身を移して約2時間が経過した。
彼女自身が後衛タイプであることに加えて今回は少し重装備。様々なアイテムや兵器を見につけている。それ故か既に疲れ気味の様子だがそれでも彼女は止まらない。
普通ここまで疲れたなら休むのが当たり前。そんな状態で標的と出会っても殺されてしまうだけだからだ。ならば彼女はそんなこともわからないほどに旅に慣れていないのか、それとも愚かで向こう見ずな性格をしているのか。
もちろん、どちらでもない。確かに彼女は旅になれているとはいえないが、それでも学園の実習で何度か街の外へと遠出もしているし、そういった状況での魔物の討伐も経験済みだ。
だったらなぜ休まないのか?
答えは単純、休まないのではない。休めないのだ。
「っ!」
急に草むらの中から飛び出してきた2頭のベアウルフめがけて魔道銃を1発ずつ撃ち込み、それがそれぞれの目と後ろ足に当たった。
反射的に後退した魔物たちに、彼女は杖を掲げて「爆ぜ討つ雷『ライトニング・ボム』」
魔法を放った。
彼女のもともとの力量に加え、杖により威力が増した魔法力があらゆる敵を焼き尽くし吹き飛ばす雷へと姿を変えて彼らに襲い掛かった。
並みの魔物なら跡形もなくなっていてもおかしくないほどの呪文に、さすがのベアウルフも黒コゲ状態になり、その場で崩れ落ちた。
「ハァ……ハァ」
肩で息をして、少女もついに座り込んだ。
これまでの乱戦に近い連戦。しかもどこから現れたのか、この街道ではありえないレベルの魔物たちが出現している。彼女でなければ既に死んでいてもおかしくない。
へとへとになりながらも荷物袋の中から体力、魔力、スタミナ、疲労などあらゆる全てを一瞬で全快させるという稀有な回復アイテム、エリクシルを飲み干して立ち上がる。
「……よし」
普通は逃げるべきこの状況にも彼女は動じない。まるで死に往くかのように断固たる決意をもって、また前へと進む。
最初は見晴らしの良かった草原も、今では彼女の身の丈を越えるほどに伸びていてほとんど視界が利かない。
周囲に気を配りつつ、歩を進め、それでもまだまだ標的の魔物を見つけるのは時間がかかるだろうと考えていたその矢先だった。
うっそうとしていた視界が広がり、そこにそれはいた。
――圧倒的気配。
今までに遭遇した魔物とは一線を画すその存在感。巨大な体躯を大地に横たえ、一定のリズムで寝息を立てている。人など一呑みにしてしまうであろう巨大な顎から覗く牙は恐ろしく大きく、鋭い。
まるで山のように威圧感を備えるソレはただのドラゴンではない。
――だ、ダークドラゴン!?
ドラゴン種の中でも最硬の黒鱗で身を包み、光属性以外の全属性……つまりは4属性をその身に秘めているドラゴン。
現在、この大陸において実際に確認されたことのあるドラゴンの中でも最強と呼ばれる種類だ。
「……ぅ」
決死の覚悟でここまで訪れた彼女だったが、目の前の現実に一歩あとずさった。それは彼女の覚悟が揺らいだとかではなく、本能的な一瞬の恐れ。
逃げ出したくなる足に活を入れ、少女はキッと足を前へと踏み出した。
と。
ダークドラゴンが目を開けた。ばっちりと合ってしまった目に、少女は身を硬くして「……我ニ用カ、ニンゲン?」
ダークドラゴンの声が降り注ぐ。
頭上からの言葉に彼女は反射的に身構え、そして問答無用とばかりに杖を掲げて襲い掛かった。
異変。
空気の振動、いやここまでの威力なら既にそれは衝撃に近かった。反射的に身構えたときには大きな火炎が空に咲き、その轟音が耳を震わせる。ついで、髪を揺らす熱風と大地の揺れ。
そしてそれら一連の異変は一度ではなく、幾度となく発生していた。
――ドラゴン、かぁ。
幸運にもドラゴンに襲われなかった隊商を見送った任務帰りの一人道だった。
護衛をしながら、しかも自分の正体を隠したまま最強の魔物といわれているドラゴンを撃退するという無茶な任務を言い渡された時は絶望しか感じなかったが、それは杞憂に済んだ。
いつもの過酷で殺伐とした任務とは違い、今回のソレは実に穏やかで、ありていにいってしまえば楽そのもの。
だから……いや、それに加えて現在の状況も重なったからだろう。
それを見つけたのは偶然で、だが考え方によっては必然だった。
国へと帰る最中のことだった。普段なら一直線に国へと帰るところを今日は別のルートを通って帰ることを選択していた。特に理由もないのにわざわざ遠回りのルートを選んだのは、さっきもいったように穏やかな気分がそうさせたわけでもあったが、それ以上に王国付近のドラゴン騒動のせいで例の街道のひと気が全くないということもあった。
黒髪であることや所属している部隊のこともあって、普段から人通りの多いところには顔を出さないようにしている俺にとっては、大手を振ってその街道を通れるチャンスなどもう来ないかもしれない。
こんな気持ちも大きく働いていた。
人気のない街道を通り、俺にしては陽気に鼻歌をくちずさみながら。
――また、異変。
見つけてしまった。
「……人!?」
視界の最奥、空の端。
青い空に燃ゆる火炎。まるでちぐはぐな空の中でドラゴンと対峙するたった一人の少女を。
ドラゴンといえばほとんど伝説級の魔物。その強さもさることながら、その賢さやむやみに人を襲わないことなどから神聖な生き物として扱う地方だって存在している。
そんなドラゴンと少女がどうして戦っているのかはわからないが、最近ドラゴンがケイアン王国へと寄る予定だった商隊を実際に襲ったという情報が国内で流れていた。もしかしたら少女もそういった商隊の護衛で戦っているのかもしれない。
すぐにでも助けに行かないとまずいだろう。少女はなかなかに芸達者のようで自在に空を飛び、小さな体を生かしてドラゴンの攻撃を避けてはいるものの、それだけだ。回避しかできていないし、時たま飛び出す攻撃も、硬い鱗に阻まれて功をなしていない。あのままでは殺されるのも時間の問題だろう。
――だが。
ほんの少し迷った。
ドラゴンにしては大分小さい。サイズにして8m程度。生まれて100~200年ぐらいといったところだろうか。千年単位で生きるドラゴンからすればまだまだ若いといっても差し支えないだろう。あのサイズなら俺でもどうにか出来るかもしれないが、問題はその後だ。
相手がドラゴンならこっちも全力で戦う必要がある。となると、その場を乗り切ったとしても色々と面倒なことになる気がする。
仕事柄、目立つとうなことは控えなければいけないからだ。
「……」
と、ここまで考えてふっと力を抜いた。
幸いこの周囲に彼女の以外の人間はいないことだし、人目を気にする問題はあまりないかもしれない。
一応、顔や頭を見られるのは困るので黒い頭巾をかぶり、さらに顔にはピエロのような仮面をつけておく……最悪でもたった一人の人間にばれたくらいなら大した問題にもならないだろうし。
「ま、見捨てるわけにもいかないよな」
自分で自分を鼓舞するために精一杯の独り言を吐き出して、全速力で駆け出した。
ついに少女が地に伏すことになった。アイテムも魔法力も、そして体力も尽きた少女にはもう立ち上がる力すらも残されていない。
小柄とはいえ、相手はダークドラゴン。むしろ少女はよくもったほうだといえるだろう。
「サラバダ、人間ヨ」
動けなくなった少女に、ダークドラゴンがトドメをさそうと少女の目前に降りたった。
「ごめんなさい、お父様……それに――」
諦めたように吐き出された言葉が、小さく地に落ち、少女の胸にかすかな思い出がよぎる。
――あの時のあの人にまた会いたかったな。
12年も前のこと。
まだ少女が身分と色の差を理解せず、とある一人の人間を傷つけてしまったこと。少女にとっての思い出の人。
そんな郷愁を心に秘めて、それでもそんなことをダークドラゴンが気にするはずもない。少女を食い尽くさんと大きく開かれた顎に、少女は成すすべなく身を固くして――
「……」
――ずん。
一拍の間の間があき、それからまるで地震のように大きな衝撃が地に落ちた。
「大丈夫か?」
「……え?」
――人の……声?
おそるおそる目をあけた少女の目に映っていたのはひっくり返って目を回してしまっているダークドラゴン。
「……え、あれ?」
少女は心底不思議そうに首をかしげ、それから自分に手を差し出している黒装束とピエロの仮面を被った人間に気付いて、おそらく混乱したのだろう。
首を右往左往さえ、顔を青くさせたり赤くさせたり……少女自身でも気付かないほどにうろたえ、そしてそれからゆっくりとピエロの仮面の男の手を取り首を傾げた。
「これ……あなたが?」
少女を立たせた仮面の男はその問いに答えることなく少女の背を押し出した。
「逃げるんだ、はやく」
「?」
意図が分からずに首を傾げる少女に、仮面の男は少し声に焦りを滲ませる。
「ダークドラゴンはただ目を回してるだけで、すぐ起き上がってくる」
仮面の男の言葉の意味を少女も悟ったらしい。顔を青くして「で、でも」と小さく口ごもる。なかなか動こうとしない少女に、仮面の男は小さなため息を吐き出して、言う。
「俺一人ならどうにかなるけどさすがに君を守りながらだとこいつに勝てる自信はない……わかった?」
遠まわしの邪魔だから帰ってくれという言葉に少女は恥ずかしさ半分悔しさ半分の表情になり、それから頷いた。その様子に、仮面の男は満足そうに少女に背を向け、それからいつの間にか立ち上がろうとしているダークドラゴンに体を向けた。
慌てて走り去ろうとした少女だったが2、3歩走り出したところで一旦停止。
「私、シルクっていいます。あなたのお名前は? いつかお礼をさせてください!」
その声は残念なことに仮面の男の耳には届かなかったのだろう。仮面の男は鋭い声で簡潔に答えた。
「いけっ!」
それと同時にダークドラゴンが大咆哮をあげ、追従するように仮面の男も身構えた。その背中に、少女はぐっと拳をにぎり、静かに一礼。そのままその場から逃げ出すのだった。
少しずつ遠のいていく少女の気配に、ダークドラゴンが最初に口を開いた。
「モウ……イイノカ?」
その言葉に仮面の男は驚いたような声色に。
「待っててくれたのか」
「馬鹿ヲ言ウナ。ヤット動ケルヨウニナッタ……ソレダケノコトダ」
ダークドラゴンが僅かに目じりを厳しくした。傍からみたらひどく恐ろしい光景にも見えるがおそらく怒っているわけではないのだろう、と仮面の男は推察する。
「さて、本当は話し合いで解決したいんだけど」
「モットマシナ嘘デモ覚エタラドウダ?」
その答えは即ち戦闘する気に満ち溢れているということで。
「ま、信じてもらえないよな」
がっくりと肩を落とした仮面の男だが、彼もまた本気で信じてもらえると思っていたわけではない。戦わずに済めば儲けものという程度の発言であって、その覚悟はもちろんできていた。
「イクゾ」
「……いつでも」
仮面の男の返事が終わるかどうかのタイミング。ダークドラゴンがその大きなアギトを開けたその瞬間のことだった。
吐き出された大火炎。全てを呑み込み燃やし尽くす灼熱のそれ。骨も残らないだろうと思われるほどの火炎が広がっていた。
だが――
「ナニ!?」
仮面の男は炎の中からまるで無事な姿で踊りだす。頭に被っていた頭巾が燃えつきて仮面の男の黒い頭髪があらわになっていたが、それだけ。
――距離にして10m以上はあったはずの距離がいとも簡単に潰されていた。気付けばダークドラゴンの懐で正拳を振り下ろそうとする彼がいて。
驚きに目を染めるものの、だが人間の拳一発程度と考えたのだろう。気にせずに尻尾で弾き飛ばそうと、振り回すもそれらの複雑な軌道を全て回避。
「ム」
鬱陶しそうな表情を見せたダークドラゴンに、拳が命中。
「!!?」
驚くほどの衝撃をダークドラゴンの身を貫いた。
「グ……ガガ」
呼吸すらできずにもがき、数歩後退したところでさらに天と地が一回転。ダークドラゴン自身、なにが起こったのかすらもわからずに背中から大地に叩きつけられていた。
いくら硬い体をしていても衝撃自体が通らないわけではない。まるで体の内部から破壊されるようなその攻撃にダークドラゴンが体をふらふらさせながら立ち上がろうとして、その隙に仮面の男がダークドラゴンの背に乗り、所詮は人間でしかない大きさの掌を背中の鱗に置いていた。
何かよからぬ予感を覚えたダークドラゴンが慌てて空に羽ばたいて体から落としてしまおうとした瞬間。
「ッ!?」
それはまるで体内で爆弾を爆発させたような感覚といえば正しいのだろうか。そんな、体験したことのないようなどでかい衝撃がダークドラゴンの体内を駆け巡った。
「……バ、カな」
苦しそうに呻きそのまま地面に倒れこんだダークドラゴンの体は既に言うことを聞いてくれない。四肢が震え、翼は動かず、首から上以外が吹っ飛んでしまっているような錯覚を覚える。そんな空恐ろしい状態。
「俺の勝ちでいいか?」
仮面で表情は見えないが、それでもどこか嬉しそうな声色の彼に、だが、ダークドラゴンは諦めない。
「マサカ我ガ……コンナ、トコロ……デ!」
全く言うことを聞こうとしない己の四肢を強引に大地につき立て、動こうと尚も、もがく。その姿に首を傾げたのは、もちろんダークドラゴンと対峙していた仮面の男だった。
「なぜだ?」
体中が黒の衣服で覆われており、外見からは全く年齢のわかりそうにない仮面の男のその仕草は先ほどの彼が見せた戦闘力とは比べ物にならないほどに稚拙だった。
――マダ若イノカ?
ほんの一瞬だが脳内に流れてしまった全く関係のない思考に、ダークドラゴンは苦笑しながらもそれでもどうにか動こうと体を悶えさせる。
「いくらダークドラゴンでも、また数分は動けないと思う」
「マダ、ダ! マダ……シヌワケニハ……!!」
必死になって動こうとしているダークドラゴン。今のこの状況を見れば仮面の男の圧倒的優位を逆転できる要素などゼロに等しいことなど傍から見れば一目瞭然。いや、むしろダークドラゴン自信も既にわかっていることだ。
首から上しか動かないこの状況。残された攻撃手段はブレスか顎によっての直接攻撃か。どちらにせよ大口を開ける必要があるのだが、仮面の男はその一瞬があれば10mもの距離を潰せるほどの瞬発力をもっている。10mあってもブレスを吐こうとした瞬間には攻撃されてしまったというのに距離にして1mもない今で大口を開けて攻撃など出来るはずもない。
「我ガ子ヲ取リ戻スマデハ……」
その悲痛な声。
「マダ!」
悲痛な想い。
まるで同情を禁じえないようなこの状況にあって、仮面の男はどこか呆けたような、それでいて空気をぶち壊す言葉をいとも簡単に投下した。
「別に殺す気ないけど」
「……エ?」
「……」
「……」
沈黙。
「ク、クク……黒髪ダロウ?」
「それは関係ないと思うんだが」
仮面の男にとってはよくわからない質問に、またダークドラゴンは声を失う。
「…………」
「…………」
「…………エ?」
「『エ?』じゃなくて」
「アノ女ノ仲間デハナイノカ?」
「あの女……ああ、さっきの子か。いや、たださっきの子が殺されそうだったから助けに来ただけだけど」
「エェ~」
ダークドラゴンとは思えないような、威厳もへったくれもないような声が自然と漏れていたのだった。
一気に空気が弛緩していく中、仮面の男が言う。
「『我が子を取り戻す』とやらについて……聞かせてもらおうか?」