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ライ、雷、来!  作者: ごぼてん
16/22

第14話「タダじゃすまない進級試験 ②」



 ケイアン王国の領地。その西側に隣接してうっそうと広がる広大な森。あまりにも広大なこととあまりにも多種多様な魔物が生息していることから未だにその広さを調査し終えていないという、通称『魔物の巣窟』。

 討伐をいくら重ねてもいなくならないのはここが魔物の発生源だからではないかとも言われている。

 ケイアン王国は隣接しているというだけあって、魔物からの侵入にそなえて厳重な警戒態勢が常に敷かれているが、逆に魔物の巣窟に入る分には誰かの許可を貰う必要はなく、日々冒険者や生態を調査しようとする人間などが魔物の巣窟に入っている。


 もちろん帰ってこない人間も多数いるわけだが、そこは自己責任なので仕方がない話。

 そしてここに冒険者ランク3のクエストを受けているパーティー二組が魔物の巣窟を目の前に最後の荷物の確認をしていた。

 シルク、ライとロイド、ウィンのパーティーである。


「……それにしても遠いもんだね」

「そ、そうですね」

 

 ロイドが疲れたように呟き、それにウィンが同意した。ケイアン王国の領土に隣接しているといっても、当然ケイアン王国のど真ん中に位置するケイアン都市に隣接しているわけではない。馬車で数日、馬車が立ち寄る最後の都市から数日。

 合計一週間。

 それだけの日数がかかってしまった。トウハ学園の進級試験の期限まではまだ猶予はあるが、ギリギリで出発する人間は下手をすれば往復する交通時間だけで期限切れになるかもしれない。


 ――ダルクを呼びたい。


 ライと契約したダークドラゴンで名前はダルク。そのダルクを呼びたいとライが内心で何度も思っていたことはさすがに誰にも言っていない。

 ダルクからは不可抗力以外ならば別の人間は乗せないとも釘をさされていたので、ライとしては仕方のないことでもあった。


 ――しかし。


 荷物に忘れ物がないかを確認した終えたライがトウハ学園の進級試験の内容を思い出して舌を巻いていた。


『カースドボアの討伐』


 カースドボアとはおそろしいまでに執念深い猪系の魔物。突進力は猪系種では並だが、大きいサイズだと全長5mにも及ぶため、油断していれば避けきれないことも多々ある。しかもその赤い牙は呪われており、その牙に傷をつけられれば体が麻痺して動けなくなる。

 獰猛で人を見かければ襲ってくるため危険度は高い。冒険者ランク3というだけあって油断していいクエストではない。


 ――学生が受けてクエストなのか?


 そんな想いを捨てきれずに三人の様子を見るが、3人ともカースドボアという魔物に恐れている態度はない。

 ウィンは緊張しているようだがそれはロイドやシルクと一緒という意味合いが強そうだし、シルクは特に気負いもなく、だがある程度の緊張はあるという理想的な態度。ロイドに至っては完全にマイペースを保っている。


 トウハ学園は学生の身分でありながら冒険者クエストの実習が毎週あるような学園だから彼女達もクエストを受け慣れているのはライも予想出来ていた。だがここまで自然体でいられるものだとは思っていなかったため、心底感心していたりもする……ロイドに至っては光神隊との二足のわらじのため、驚くべきことではないのかもしれないが。


「さて、準備はどうだい?」


 ロイドの問いかけにライを含めた3人が同時に頷く。


「じゃあ、行こ――」

「――まさかまた黒髪のクズと一緒にいるとはな、シルク?」


 ロイドの声を遮り、誰もが聞きおぼえのある声が響いた。


 ――やっぱり来たか。


 まずはライが振り返る。シルクももう聞き飽きた声なのかもしれない、声だけで誰かわかったらしく嫌そうに振り返った。ロイドとウィンは同タイミングで同じように振り返る。その顔には特に感情が表れているわけではない。


「っ!?」


 誰が来ていたかを知り、慌てて跪くウィン。ライもそれに(なら)って(ひざまず)く。都市の外では本来そこまで形式ばった態度を取る必要はない。だからこそライは跪かなかったのだが、平民であるウィンが跪いておいて貧民に位置するライが跪かないというのはあってはいけないことだ。


「お前の照れ屋っぷりには流石に呆れそうだぞ、シルク」

「別に、あなたに呆れられても構わないから。ガラハム君」


 シルクがやはり冷たくあしらう相手はそう、ガラハム・ヴィクタス。シルクと意地でも組もうと周囲の人間を威圧するなどしていたようだが結局はライにパートナーの座を奪われた男。

 ガラハムの隣にはまた、というかやはり、というか青髪の男が控えていた。


「ふん、まぁいいシルク。今日はロイドが近くにいるみたいだし、俺がお前を心配してやる必要はないだろう」

「別に頼んでないけど?」

「まあ来年もどうせ同じクラスになるんだ、来年からはもっと積極的にお前を誘ってやるから。安心してお前も素直になるんだな」

「……」


 相変わらず会話がなりっているかどうか微妙な会話だ。シルクはそれには答えずに渋い顔をし、丁度その瞬間にはガラハムはシルク達に背を向けて「では先に行っているぞ」と森の中に入っていってしまった。


「いつも思うんだけどあの人はどういう思考構造をしてるの?」


 シルクの呆れ声が3人に響き、彼らは一様に渋い表情を見せる……険しいような、哀れむような、なんともいえないような顔をしたライ以外は。


「……あー、ごほん」


 仕切りなおすようにロイドが咳払いをして「今度こそ、行こう」と再度提案した。もちろん反対するものはいない。こうして彼らは魔物の巣窟へと足を踏み入れたのだった。





 鬱蒼とした森が広がっていた。最初はどこにでもある普通の森といった風景だったのだが、彼らが歩き出して約10分。

 すぐに森の様相が変化し始めた。太陽の光が薄くなるほどに葉を茂らせた大木、腰に届かんばかりに伸びた雑草。どこか冷たい空気が広がり、そこかしこから魔物の気配が漂い始める。

 普通の森とは違う、圧倒的な魔物の生息数。

 いつも通りの空気といえばその通り。だが、少し違う。


「……?」


 まず最初にそれに気づいたのはライ。


 ――死臭?


 ライにとっては嗅ぎなれた匂いが僅かに漂っている。それも普通の数じゃない。

 この森に入ったトウハ学園の生徒たちが迂闊な真似をして帰らぬ人となったのかもしれない、そう考えるがすぐに自分の考えを否定。

 トウハ学園の生徒達はこの森に入り慣れている。それにランク3のクエストに関しては今回が初めてでもないとシルクから聞いている。


 数人が死んでしまったならばわかるが、明らかにそんなものじゃない。もっと大量の死臭が漂っている。

 それに、もっといってしまえばシルクたちはおそらく学生の中でもここにきたのは最速の部類。今朝に出されたばかりの試験なのだ、まだまだ期間までの猶予もあることなので、そもそも今日はじっくりとパートナーと作戦などを話し合っているのが普通。シルクたちよりも早くに進級試験を受けにこの森に入った学生がいるとは考えにくかった。

 要するにこれはおそらく学生のものではなく別のクエストを受けていた冒険者たちの匂い。


 ――まさか俺の任務関連か?


『普通よりも何倍も何十倍も強い魔物が出てきている』


 それの調査を任されたライだったがさすがにこんな入り口付近で出る類の魔物だとは考えていなかった。

 だが、それならばこの死臭の数にも納得できる。

 まだ死体にはお目にかかってはいないが、このまま歩いていけば半刻とかからないうちにお目にかかってしまうだろう。いや、それくらいならば問題はないが例の強くなってしまった魔物と鉢合わせになってしまう可能性だって高い。


 ――さて、どうしたものか。


 4人の最後尾で歩きながらも、最大限の警戒モードに。


「……これは」


 呟いたのは先頭にいたロイド。

 おそらくはロイドも気づいたのだろう。ロイドが女性陣にはばれないようにライへと視線を送り、ライもそれに頷く。


 ――ロイドには俺の任務のことを言っておいたほうがいいか。


「……あっと、悪いんだけど」


 ライが気を引くように声をあげた。


「「?」」


 シルクとウィンが同時に立ち止まってライへと振り返る。


「ちょっと用を足してきていいか?」

「「っ!?」」


 その言葉にシルクとウィンが顔を真っ赤にさせた。シルクが「い、いってらっしゃい!」とライの背中を叩くようにして追い出す。


「全く、ライ君ったら」


 と小さく呟くシルクと、顔を真っ赤にしたまま俯かせているウィンに今度は先頭のロイドが便乗。


「すまない、僕も行ってくるよ……しかも大きいほうだから5分ぐらいかかるかもね」


 はっはっはと爽やかな口調でとんでもなく下品なことを言う。


「……いってらっしゃい」


 度を越えたのか、もはや呆れ顔になったシルク疲れたような声で呟いてロイドの背中を見送る。ウィンにいたっては石になったように固まってしまっている。


「……」

「……」


 元々警戒心を高めてこの森に入っていた彼女達だったが、男二人のせいで集中力がそがれたらしく凛々しかった顔から一転、沈黙が気まずいような顔になっていた。

 シルクは社交性が高いので基本はどんな人間とも会話が成り立つはずなのだが、なにせ相手が悪い。ぽりぽりと頬を掻いて、そっとウィンに視線を送るが、全くもって動いていない。


 ――話しかけても驚かれそうだし、どうしようかな。


 どうしたものか、と悩むシルクだったが突然ウィンが「あの」と声をかけた。


「はい!?」


 まさかウィンから声をかけられるとは思っていなかったため不意をつかれた形になる。驚きのあまりに素っ頓狂な声になったシルクにウィンが「あ、ご、ごめんなさい!」と頭を下げる。


「あ、ううん。私こそごめんなさい。それで?」


 同じく謝りつつも話を促すとウィンが息を吐き「ロイドさんはいつも今日みたいな感じなのでしょうか?」


 と戸惑いがちに。


「え?」


 その意図がわからなかったシルクに、ウィンはモジモジとさせながらまた顔を俯かせて蚊の鳴くような声で言葉を続ける。


「その、学園だといつもとても紳士な態度をとってらっしゃいますから……し、新鮮といいますか、不思議、といいますか……ああごめんなさい、自分でもなんと言っていいのかわからないんですけど」


 一言で表すなら小動物。


 ――カワイイ。


 同性ながらもそう思ってしまったシルクだったが、いつまでのその余韻にひたっているわけにもいかずにすぐに平静を装って答える。


「学園を離れるといつもあんな感じ、かな? よくも悪くも不器用だから、ロイドは」


 ふっと力を抜いて、何かを懐かしむような表情を見せる。その顔があまりにも穏やかで、ウィンは彼女自身でも何かを思う間もなく、自然と思ったことを口にしていた。


「やっぱりお二人はお付き合いしてるんですか?」

「……はい?」


 ――聞き間違い?


 シルクがすさまじく怪訝な顔をするが、ウィンのなんともいえない表情からして聞き間違いではないことを察せさせられる。

 ため息をつき、それから心底ウンザリしているかのようにシルクは言葉を落とす。


「ただの幼馴染よ、それ以下でもそれ以上でもない……これでいい?」

「あ、やっぱりそうなんですか」


 なんともいえないような声色で呟くウィンに、シルクは神妙な顔を作る。


「……というかウィンさんって」

「はい?」

「結構グイグイくるのね」


 言われて気づいたのか、目を見開き「あ」と小さな声を漏らす。それから慌てて頭を下げた。


「ごごごごめんなさい!」

「いえいえ。いいんだけどね?」


 と意地悪にいうシルクが、今度は攻守交替だとでも言うつもりか、ウィンへと顔を寄せて耳元で囁く。


「そういうウィンさんはどうなの? いい人とかいないの?」

「わわ、私ですか!?」

「そうそう、私とロイドの関係に疑問をもったってことはウィンさんも実はロイド狙いとか?」


 やはりシルクも女性。

 楽しくて仕方ないといった感じでウィンの頬をつつくそのサマは、まさに女性たちが繰り広げるガールズトーク。


「そそそそんな私は別にそんなのありません! そそ、そもそも男の人を好きになる以前に誰かとお話するだけでき、緊張してしまって!」


 早口でまくしたてる言葉に嘘が感じられずにシルクは若干つまらなさそうに、だが仕方なさそうに頷き「そうよね」と肩を落とした。

 その隙をついて今度はウィンからの一言がシルクに向けられる。


「そ、そういうシルクさんは、じゃあ好きな人とかどうなんです!?」

「ぅえ、わ、私!?」

「そうです! なんだかシルクさんのライさんに対する態度ってちょっと他の人とは違う気がします」

「そそそそんなわけないじゃない!?」


 どもりまくりである。

 その反応にウィンの目が光った……ように見えた。


「……あれー、さっき『ロイドさんとはどういう関係なんですか?』って聞いた時とは少し反応が違う気がしますけど?」


 いやらしい笑みを浮かべてシルクへと問いかける。


「ぬぬぬ、ウィンさんって結構意地悪ね」


 どういう反応をすればいいのかわからなくなってそっぽを向いたシルクの言葉に、ウィンは所在無さげに肩を落とす。


「……すいません」


 さっきまでのいやらしい笑みが急になりをひそめてしまった。


「……どうかした?」


 いきなりの態度の変化である。流石に不思議に思って質問を発した。ウィンはなんともいえない顔で首を横に振る。


「違うんです、その……こんなに人とお話できたのって、久しぶりだから……つい嬉しくなっちゃって……その、お気に触ってしまったならごめんなさい」


 素早く頭を下げたウィンに、シルクの目が驚きの色に彩られた。どうすればいいか分からずに固まってしまうこと数秒。ため息をわざとらしく落として、ウィンの肩へと手をかける。


「っ」


 シルクに触れられたせいだろうか、ビクリと体を震わせた。シルクはまたため息を落として「顔をあげて?」


 とどこか優しい声色で呟く。


「……はい」


 逡巡を含ませつつも顔を上げたウィンの目に飛び込んできたのは柔らかい笑みを浮かべたシルクの顔。


「え」


 今までのウィンが全くもってみたことのない表情。今まで様々な人間に邪険に扱われてきた彼女が初めて見る優しい人間の顔。

 それがあまりにも美しく、柔らかく、安心させられる。ウィン自身でも驚くほどにシルクの表情へと吸い込まれていく。


 ――と。


「へ?」


 いきなり頬をひっぱられた。


「ヒ、ヒルフはん?」

「私はウィンさんがこんな一面をもってるって知れて嬉しかった……どうして謝るの? 私たちってもう――」

「あ、ご、ごめんなさい!」


 問い詰められるのだろうかと悲しい顔でまた謝罪をするウィンだったがウィンはその謝罪の言葉に耳を貸さずに自身の言葉を続ける。


「――友達、みたいなものじゃない?」

「ぅ……え?」


 はじかれたように顔をあげて、一気に呆けた表情になった。そんなウィンの様子がシルクには小動物のようにも見えて自然と口角が上がってしまう。


「私の幼馴染のロイドとパーティーを組んでくれた。私がライ君を誘うのについてきてくれた、私と一緒に行動してくれてる、えっと、あと恥ずかしいけど女子同士のガールズトークだってもうやったし……友達じゃ、駄目?」


 そっと微笑んだ。


「……だ」

「だ?」

「駄目じゃないです! 嬉しいです!」

「……よかった」

「これから宜しくね、ウィンさん」

「こちらこそで宜しくお願いします、シルクさん!」


 美少女二人が楽しそうに笑い声をあげる。そこに一切の偽りの感情はなく、二人の声が(かしま)しく弾む。

 ……というかここが魔物の巣窟であるということをわかっているのか、そう問いかけたくなるほどに彼女達の華やいだ声がこの森に響いていた。





 鮮やかな色が舞う会話を楽しむ女子二人。そこから少し離れた木々の奥。さすがに会話の内容までは聞こえてはいないが、楽しそうな声が彼らの耳に響いていた。


「女性陣は楽しそうだな」


 ロイドが力を抜いて笑い、ライも同様に笑顔を浮かべていたはずなのだがすぐに険しい顔つきになった。


「あった」


 指を差し、ロイドを先導する。慎重に草むらを進み足元を確認。隠れていて見えづらいが、そこにあったのは確かな血のあと。


「……強い魔物、本当なのか?」


 ロイドの剣呑ともとれる声色に、ライも頷く。


「間違いない。ガラハム・ヴィクタスももし先に進みすぎていれば危ないかもしれない」

「だが、どうするんだい? 一応僕たちはそれぞれパーティーを組んでいる。別行動をとるわけにはいかないだろう。ウィン君もいることだし」

「……その通りだ」


 ライが顔に苦悶を浮かべてロイドがそれに首を傾げた。


「君はガラハムのことを嫌っていないのかい?」

「……?」


 ロイドの質問の意図がわからずに首を傾げる。


「あいつに良い感情をもっているとは言いがたいけど、別にそこまで嫌いになるようなことをされた覚えはないかな……どうしてそんなことを聞くんだ?」

「いや、シルクから聞いたが頭を踏まれたりしたんだろう? 今日だって君のことをクズ扱いしていたし」


 逆に質問されて少し焦ったのか、声を上擦らせながらロイドが答えるが、ロイドの言葉にライは心底不思議そうに言う。


「貴族が貧民の頭を踏むのも普通だし、クズ扱いなんて常識だろ? 俺は別に貴族嫌いというわけでもないし、嫌いというほど嫌いじゃない」


 ――シルクの弁当を奪ったことを考えると嫌いに近い感情はわきあがるけど。


 最後にだけ感情の篭った言葉を付け加えたが、それ以外は本当に平坦な声色だった。

 頭を踏まれて普通だと答え、クズ扱いを常識と答える黒髪の友人。しかもそれを理不尽だとか考える素振りすらない。

 身分社会の縮図。これがケイアン王国の姿なのだと考えるといたたまれなくなってしまうロイドだが今はそういったことに心を囚われていていい時ではない。

「そうか」と小さく呟いて話題を現状の問題へと戻した。


「それで……どうするんだ?」

「そう、だな……とりあえずガラハムのことは置いておこう。本当なら今すぐにでも森を出て行ってもらいたいが――」

「――それじゃ彼女達は納得しないだろうね」


 ライがロイドの言葉に無言で頷き、肯定を示す。


「だからさっさとカースドボアを狩ってしまって3人でこの森から出て行ってくれ。後は俺がなんとかするから」

「でもそれだと!」


 反論しようとしたロイドの顔に手をかざしてそれを止める。


「お前にはお前の、俺には俺に任務がある、違うか?」


 その問いにロイドは「な」と言葉を詰まらせた。言いづらそうに視線をさまよわせ苦虫を潰したかのような表情になって、だがゆっくりと答えた。


「君の言うとおりだ」

「だったら俺の心配なんかしないで、シルクの心配をしてやってくれ」

「……わか、ってる」


 納得がいっていないように頷くロイドの肩を軽く叩く。


「ロイドは人がよすぎるよな」

「……友達の心配をしてるだけさ」


 ライの呟きになぜか憮然として答える。それがライには少し嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。


「ありがとう」

「ああ」


 こぼれたライの感謝の言葉にロイドが頷き「そろそろ彼女達のところへと戻ろうか」とライを促したときだった。


「うおおおおおお!?」


 一際大きな炎が森の中で舞い上がり、次いでガラハムの声が響く。それからほどなくして――


「――が、ガラハム君!?」


 シルクの声が響いた。





『イービルツリーの討伐』


 イービルツリーとは普通の大木のように擬態しておき、近づいた獲物を捕食する魔物。根っこを足代わりにして歩くことも可能で、その際の移動速度は決して遅くない。大木を振り回す打撃力は高く、地中深くに張る根っこを切ったり幹ごと両断しない限り、いくら枝葉を切っても再生する。総じて物理には強いが弱点があり、一定以上の火をつけられると簡単に燃えつきる。


 弱点があると聞くと大したことがないと思われるかもしれないが、そんなことはない。火炎系の魔法は光系魔法と治癒系魔法の次に難しいとされており、自由に使いこなす人間はそう多くはない。

カースドボアと同じく冒険者ランク3のクエストに指定されるだけあって難敵とされている魔物だ。


 これが俺――ガラハム・ヴィクタス――の受けたクエストだった。

 たしかに強敵だが火炎系魔法は俺の最も得意とする魔法だ。実際これまでにも、学園の実習や第一神隊の任務を通じてイービルツリーと対峙したことがあるがこの俺の火炎系魔法で簡単に倒すことが出来た。

 だから、今回もイービルツリーを見つけて、あとは火炎系魔法を放てばそれで終了。木炭になったイービルツリーをギルドにもって帰って進級試験を突破。


 たったそれだけ。

 たったそれだけのことと思っていた

 そうやって自分よりも成績が優秀なロイドやシルクを抜いて一位で突破すればシルクが優しかったころのシルクに戻ってくれる。

 それは疑うべきことではなく、当然のことだった。

 学園に入りたての頃は優しかったシルク。何度か実習もともにしたこともあった。成績だって勝ったり負けたり、まさに5分5分。一人、ロイドだけは別格だったが、それでもロイドの背中だって今のように霞んでいたわけではない。その背中を追いかけていた。


 2年生になって第一神隊にスカウトされた。そこで色々と教わった。第一神隊として、そして貴族としての正しい価値観。正しい態度のあり方。

 学園生活と警備隊の二足のわらじを履いているうちに気づけば成績では二人の背中がかすむようになってしまった。実習でもそうだ。実際に決闘したらそこまでの差があるとは思えない、だが成績の差は如実に現れていた。


 それが、きっとシルクにとってはがっかりすることだったんだろう。シルク・ブレイズにとってガラハム・ヴィクタスはふさわしくない人間。そう思われてしまった。

 だから何度誘ってもなびいてくれない。相手がいないように仕向けて、もう俺を誘うしかないような状況になっても俺を誘おうとしない。それどころか明らかに足を引っ張るであろう黒髪の男とパーティーを組んでいた。


 俺と組むのを照れているのもあるかもしれない、それももちろんあるだろう。なにせシルクは素直じゃないから。

 だがきっとそれ以上にあいつはそれだけ俺にがっかりしてしまった。期待していた分、それだけがっかりした時の衝撃も大きかった。だからシルクは今の俺に声をかけようとしない。


 ――そう、絶対にそうだ。


 だから、優秀な成績を出すしかない。

 そう思って森の奥へと侵入し、やっと見つけたイービルツリー。従者に前衛を任せて火炎魔法をぶっぱなす。それだけで終わり……そのはずだった。


「はじかれただと!?」


 ――ありえない。所詮は木。なのに火をはじいた?


 葛藤の間に従者がイービルツリーの葉に取り込まれた。


「っ!」


 ――まずい。


 反射的に腰の剣を取り出すが、目前にまでイービルツリーが迫っていた。


 ――動きも速すぎる。


 気づけば既にイービルツリーの太い枝が迫っていた。ぶんなぐられて吹き飛ぶ。体を襲う衝撃と浮遊感。すさまじいまでの衝撃に意識が遠のいてしまう。


 ――くっそ……くっそ……シル……ク。


 好きな女の名前を心の中で呼び、そのまま意識が飛びかけたところでまたもやすさまじい衝撃。今度は背中からだ。


「っが」


 呼吸が止まり、だがそれが逆に気付けになってしまった。


「――ん!?」


 ――あ、誰だ?


 誰かの声が耳に響いていた。だがそれがなぜか耳に届かない。一度覚醒しそうになったはずの意識が、再度体に訪れたバラバラになりそうなほどの痛みでまた沈んでいく。


「ガラハム君!?」


 シルクの声が聞こえた気がした。



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