第13話「タダじゃすまない進級試験 ①」
四神隊の仕事は頻繁にあるというものでもない。どちらかといえば少ないほうだろう。
単なる難事件なら第一神隊が解決するし、それ以上に困難な事件も基本的に光神隊が解決してくれるからだ。
隠密性が大事な時や、何よりも迅速さが優先される時。事件そのもの、犯人そのものを闇に葬らなければならない時にこそ四神隊は必要とされる。
けれどそんな事件が毎日のように発生するわけもない。そもそもケイアン王国の領土は他国に比べても小さいほうだし、治安だっていいのだから尚更だ。
それでも4人もいるのは不測のことが起こる可能性を考えてのこと。四神隊の仕事は事件によっては他国へと赴くことだって少なくない。他国へ向かえばはやくても数週間は帰って来られないし、四神隊が常に揃って家にいるということはほとんどない。
むしろ大陸全土、広範囲をたた4人で行ったり来たりすることを考えれば相当な重労働だ。
ドラゴンの事件から約1ヶ月。
「ライ、次の任務よ」
四神隊と王からの任務の窓口をつとめるハル・ケイアンから次の任務を言い渡された。
「魔物の巣窟で不穏な空気?」
いつもの任務とは少し違い、いつもの任務に較べれば酷く曖昧でふわついた理由。
第一王女の狙う暗殺者を暗殺しろとか、幾重にも張り巡らされた警備隊の捜査網をくぐりぬけてきた連続殺人鬼を行動不能にして警備隊に引き渡せとか、国にとっての超重要人物を秘密裏に護衛しろとかそういった具体的な任務ではない。
「ここのところ巣窟に入っての魔物の討伐を失敗する冒険者が増えてるんだけど……突然変異なのかなんなのか、普通よりも何倍、何十倍も強い魔物が出てきてるんですって」
「それの調査?」
「出来れば捕獲も、だって」
聞けば聞くほどライの疑問が深くなっていく。
「光神隊向けじゃ?」」
魔物の巣窟の領域はあまりにも広大だ。それこそケイアン王国の領土よりも数倍、下手をすればもっと広いかもしれない。
そこに巣食う魔物の数だってはんぱなものではない。いくら四神隊隊員を務めているとはいっても所詮ライは一人の人間でしかない。
光神隊数名と第一神隊が向かったほうが効率面でも安全面でも優れているはずだ。
訝しげな目で見つめられたハルも、それには同意見のようで、同調しながら頷く。
「うーん、私もそう思うんだけど」
――ルクセント君がどうしてもって。
小さな声で付け足した。
ルクセント・ケイアン王のことを君づけて呼ぶのは相変わらずのハルの癖だ。なんでも昔、同級生だったとかなんとか。
ライは相変わらずだなと思いつつも、腑に落ちない王の命令にやはり首を傾げる。
「うーん」
「でも、わざわざライを指名したのはなにかあるんじゃない?」
ハルの言葉に、それでも渋るライだったが王の命令に逆らえるわけもない。
「はぁ、最近こういうのが多い気がする」
文句を垂れつつも、最後には小さくうなだれるのであった。
ケイアン王国で王が住む都、ケイアン都市。王都とも呼ばれるこの都市にはケイアン王国を代表する学園が存在している。
トウハ学園。
優秀な者のみが入ることを許される王国でも随一のエリート学園。各都市からこの学園に入学するために困難な入学試験を受けに来るといわれている。
学園の特性上、ほとんどが貴族以上で構成されており、平民でこの学園に入学できる人間は数少ない。貧民に至ってはいない年が当たり前。入っても素質の違いに絶望を感じ、身分の差から圧倒的差別を受けて学園を辞めていくのが普通。
そんなトウハ学園でも、当然のように季節は過ぎ行く。1年生だったものは2年生に、2年生だったものは3年生へと進級しようとしていた。
ただし、そこはエリートが集う場所といわれるトウハ学園。進級するに当たって困難な試験が用意されている。
そして、今年の2年生に用意された進級試験は少々変り種のものだった。
『同身分(同色)以外の人間とパーティーを組み、冒険者ランク3のクエストをクリアすること。ただしパーティーは2人編成に限り、メンバーは学園以外の人間と組んでも良いこととする』
冒険者ランク3とは冒険者がギルドで受けるクエストの難易度を示していて、ランクは1~9まで存在しており、数字が高いほど難しい。
3なら簡単かと思われるかもしれないが、そうではなく、3にもなれば冒険者として中級者向けのレベル。
はっきりいって無茶苦茶に近い。
しかも、しかもである。
同身分とは組んでいけないとあるが身分差による差別は激しいこの王国で、誰が別身分の人間とパーティーを組みたがるだろうか。
ケイアン王国にいる人間は4色に分類されている。
王族の金。貴族の赤。平民の青に、貧民の黒。
つまり自身以外の色である3色から1色を選ばなければならない。
この進級試験をうけるにあたって、王族の身分の人間はいい。最も希少価値のある身分で、実際に優秀でもあるのだから組みたがる人間も多数いることだろう。最悪でも家が名家なのだから適当な冒険者を雇うのも難しくない。
貴族も最悪金を積めばどうにかなるだろう。だが、ただでさえ学園内において数が少ない平民の生徒はそうはいかない。金を雇って冒険者を雇うのは難しいし、王族や貴族をパーティーに誘えるはずもない。かといって貧民を誘うのでは冒険者ランク3のクエストをクリアするのは難しいし、何よりも彼らの心情が否定するだろう。。
今年の2年生に貧民は一人だけ、正直、その貧民の進級は実質不可能な卒業試験だろうと噂されている。
「はー」
そして、ここ。
全身分解放区に存在する冒険者ギルドの建物を目の前にして。
トウハ学園の制服に身を包み、ため息を吐いている少女がいた。トウハ学園生にしては珍しく青髪青瞳で、要するに平民だということが見て取れる。
ため息の理由はいわずもがな、進級試験のせいといったところだろう。
「どうしよう」
少女の名前はウィン・トクリコン。
成績は優秀なのだがあまりにも弱気な性格から学園でも友人が少ない。誘う人間にアテもなければ誘われることもない。アテがないのなら自分で依頼を出すしかない。平民以外の人間に一緒に進級クエストを受けてもらえるように。
だが、そんな財力などトウハ学園の学費だけで精一杯の彼女にどうにかなるはずもない。
完全な手詰まり。八方塞がりの状態だ。
「はー」
本日何度になるともしれないため息を落とし、うなだれる。
「おや、ウィン君?」
と、そんな彼女に声をかける優しい声。
「っ! ろ、ロイドさん!?」
いきなり名前を呼ばれたことにより驚きに身を震わせた彼女だったが、自分を呼んだ人物を見て、さらに驚きの声をあげた。
「君もメンバー探しかい?」
「あ……う、うん。そんなところ、かな?」
疑問系で肯定するウィンにロイドは首を傾げる。だがすぐにわかったのか、頷き「相手が見つかりそうにないのかい?」と呟いた。
「……うん、私って攻撃力ないし、人と話すのも苦手で友達とかもいなかったから。今回の進級試験を受ける条件が厳しくって、どうしようかなって」
――1人だけ心当たりのあった友達にも先約があるって断られてしまったし。
ウィンの声色が徐々に弱々しくなっていく。ロイドも何と言えばわからずに視線をあちこちにめぐらせて困ったような表情をして固まっている。
「じゃあロイドと組めばいいんじゃないの?」
新たな声が参入してきた。
「え!?」
また新たな声にこれまた同じように背を震わせて、これまた同じように驚きの声を発した。
「し、シルクさん!」
「こんにちは、ウィンさん」
「あ、はい……こんにちは」
ご丁寧に頭を下げあう二人……とはいっても関係を知らない人から見れば王族と平民。シルクが頭を下げるのもおかしければ、先ほどからウィンがシルクとロイドに普通に話すのも異常。学園外では普通に身分差があれば礼をとらなければならないのが通例だがシルクとロイドはまさにその例外にあたる人物で寧ろ普通に会話したがる人間だ。
それを知っているからこそウィンは普通に会話をしているのだが、それはともかく。
ロイドがシルクに尋ねる。
「それで、さっきの言葉の意味は?」
問われて、シルクはキョトンとした表情を見せた。
「ロイドも決まってないし、いいんじゃない?」
むしろ何か問題でも? といわんばかりのシルクの表情にロイドは考え込むように黙りこんだ。だが、下手をすれば決まってしまいそうな方向に、黙っていられないのがウィンだった。
「だだ、駄目ですよ! ロイドさんなら私よりももっとたくさんの優秀な人にパーティーに参加してもらえます! わわわ私なんかじゃその、足手まといになっちゃうし……」
声の勢いが良かったのは最初だけ。すぐに尻すぼみ状態になって最後にはほとんど聞こえないような声量に落ち着いてしまった。
そんな、ウィンらしいといえばウィンらしい様子にシルクは少しばかりの呆れ目を表情に浮かべた。
「学年では10指に入る成績で、平民でも最高の成績を修めている人とは思えない台詞ね」
ロイドが隣でうんうんと頷き、ウィンは慌てて首を振る。
「い、いいいえいえいえ! 私なんか、そのいっつもまぐれですし、ギリギリですし! その、奇跡です! それに私は戦闘だと攻撃方法をもってないのでとてもじゃないですけどロイドさんのお役に立つことなんてできそうにないんじゃないかなって……」
「……ロイド的にはどう?」
「ん……ウィン君ならこちらとしても問題はないんだが、今日はシルクの仲間集めじゃなかったのか……というか個人的には助かるけど僕よりもシルクとウィン君が組んだほうがいいんじゃないかい?」
「え?」
首を傾げたウィンが、ロイドの言った言葉を理解してまた慌てて首を振る。そのまままたさっきと似たような言葉を言おうとする前に先にシルクが笑った。
「私とウィンさんが組んだら色んな男の人に言い寄られそうだからやめといたほうがいいかも」
「あぁ、シルクも相当だけどさりげなくウィン君も人気高いからね」
二人の言葉に、今度はウィンは首を傾げた。
「わ、私シルクさんみたいに男の人に誘われたことなんてないです、よ?」
嘘だ。
いや、ウィン的には嘘ではないのだろう。その瞳に映るのは純度100%の純粋な色。だが、ウィンを少し離れたところでみていればわかる。
彼女は他人に異様なほど敏感だ。
男性に話しかけられればすぐに逃げ出すし、成績が優秀で実技だって悪くないのにオドオドしていて、友達を作る気配もない。
容姿は十分に可愛い部類に入るのだろう。弱気な垂れ目と泣きぼくろ。腰まで伸びる綺麗な青の髪。男ならば庇護欲を掻きたてられること請け合いだ。
男には実際もてている、が、臆病な性格が幸いしてそれを味わう前に終わっていく。同性の友達が少ないのは嫉妬が多いからで、ウィンが弱気でなめられやすい性格をしているのも多分に作用している。
おそらくウィンと普通に話せる学園の人間は目の前のロイドとシルクを含めて、片手が数えられるくらいだろう。
そんなウィンの言葉を聞いてシルクがロイドに確認を。
「ね、こんな鈍感な娘だから。ロイドが一緒にいてあげたほうがいいんじゃない? 変な言葉に引っかかってキャーとかなりそうなんだけど」
「……うーん、ウィン君なら実力的にも十分だから断る理由はないが、そうなるとシルクはどうするんだい?」
「えっと、あの」
――私の意志は?
か細い声がウィンから漏らされるが、二人には残念ながら聞えていなかったらしい。
「私は……どうしよう。一度ライ君にお願いしに行こうかなぁ」
シルクが少しだけ表情を緩めたのに気づいたのはこの場には幸い誰もいなかったが、それを聞いていたウィンが首を傾げた。
「あの……ライって……貧民区画の、病院の?」
と、ここで二人が「「え」」と声をそろえてウィンへと首を向けた。
「知ってるの?」
「あ、はい……あそこは平民でもよくお世話になってる方多いですし、私のおばあちゃんがライさんによくお世話してもらってて、私もライさんには何度かマッサージの仕方とかも教えてもらいました」
貧民区画の病院に平民が通うというのは本来ならありえないことだが、あそこに住む人間は基本的に貧民ではない。病院長のハルと看護師のフィリアは赤髪で、ハルの夫のコウは青髪、薬剤師のシノビに至っては金髪。ライ以外には黒髪の人間など存在していない。
様々な色がそろっているからこそ貧民達だけでなく平民達も病院に来るらしい。
「あそこは有名なのか、知らなかったよ」
笑うロイドにシルクも頷く。
「うん、ちょっと驚いちゃった」
ウィンがおずおずと首を傾げて、不思議そうに声を発した。
「むしろ私的には王族血縁者のお二人があの病院のこと知っていることに驚きですけど……どうしてライさんのことを知ってるんですか?」
「……」
「……」
「……た、たまたまって素晴らしいな、シルク!」
「そ、そうねロイド。私もそう思う!」
明らかに動揺しまくっている二人だが、そこは人付き合いになれていないウィン。
「たまたまですか」
まさかの納得の表情を見せた。
安心したのか、ほっと息をついた二人。だがすぐに「あれ?」と首を傾げるウィンに背をふるわせた。
「シルクさんがどうしてライ君を誘うんですか? だって彼は黒髪で、シルクさんは金髪で……」
さっきまでおどおどしていたのに好奇心には弱いのかもしれない。ガンガン食い込んでくる質問だ。
だが確かに何も知らない人間からすればおかしな話だ。シルクならもっといいパーティーを募集できるだろう。普通魔力が弱い黒髪の人間を仲間にしたいとは思わない。
シルクは困ったように頬を引きつらせて、すさまじく苦しい言い訳を。
「か、彼はその、一時期私の使用人をやってたことがあったから、気心が知れてて楽というか?」
「あ、ああ! そうなんだよ! 僕もライとはその時に仲良くなったから知ってるんだけど、確かそうだったね!」
声が明らかに上擦っている。のだが「あーなるほどです」とまたもやウィンは納得した。
「それで、二人はどうするの?」
これ以上突っ込まれては身がもたないとでも考えたのか、シルクは話を元に戻した。
「ぅえ!?」
まさか話を戻されるとは思っていなかったのかウィンが顔を真っ赤にさせて驚きの声を放った。その様子にロイドは微かに笑みを浮かべて肩をすくめる。
「そうだな、シルクが組まないなら是非ウィン君に組んでも貰いたいけどね。学園で誘ってくれる女性たちはどうも、ね」
若干に顔をしかめながら呟いた言葉にはどこか実感がこもっていて、冗談で言っているわけではないことが簡単に見て取れた。
シルクも学園だともてるがロイドも負けてはいない。それはそうだろう。常に学園のトップを走り続け、光神隊にも学生ながら所属している。学生ということでまだ学業優先だが学園を卒業したら確実に光神隊でも相当な地位に就くとも噂されているぐらいのロイドだ。
しかも非の打ち所のないほどのルックス。瞳の色が碧色ならエルフといわれても違和感がないほどの人間だ。
それでいで性格は地位にも現在の実力にも驕ることもなく常に上を見ている。女性にも優しい。実力も努力の意思すらも足りない男性には多少厳しい側面をもつことと若干マイペース過ぎる感性をもつが、それも欠点というよりは個性といったほうが近いようなもの。
まさに女性からみれば完璧と言っても過言ではない人間。
それが彼、ロイド・ブレイズ。
そんな彼だからこそ進級試験が決まった時は色んな女性から誘われていた。もちろんその時はほとんど学園内の騒ぎにも近いような状態だったのでシルクもウィンもそのことは知っている。
「……何が駄目だったんですか?」
ウィンが不安そうな、それでいて不思議そうな顔で尋ねる。ロイドが実力を重んじる性格というのは学園の人間ならば誰もが知っているだろう。
もちろんロイドを誘った女性の中には実力者だっている。ウィンよりも優れている人間だっていただろう。
なのになぜ自分なら許されるのかわからない。
もちろんロイドならウィンとて大歓迎だ。ただでさえパートナーに困っていたのに、組んでくれる人がいるとは実にありがたいこと。それも実力者で名高いロイドなら文句などあるはずもない。
「……基本的に僕を誘ってくれる女性たちは少し危機感がないというか、もちろん実力はあるのはわかってるんだけど、その、どうも目的が進級じゃなくて……そのほら、別のことにありそうにしか見えないというか。それでいて本当にやる気も実力ある人たちっていうのは大体僕以外のパートナーが決まっていたものだからね」
ロイドがやはり暗い顔で言う。
ロイドの言いたいことがわかったのか、ウィンが頷いた。
「モテるっていうのも楽じゃなかったんですね」
――あなたが言うことじゃないけどね。
という言葉を呑み込んでシルクが口を挟む。
「それで、ウィンさんはどうする? ロイドはかなり優良物件だと思うけど」
「えっと……その……よかったら、その宜しくお願いします」
美少女が俯き、ぼそぼそと言う姿は男が男ならば確実にピンポイントで撃破されている威力を誇っていただろう。
だが、ロイドとて簡単な男ではない。
「うん、こちらこそ宜しく頼むよウィン君」
すさまじい威力の笑顔爆弾を投下するのだった。
「……はぁ」
自分の容姿をわかっていない二人に、シルクが疲れたようなため息を軽く漏らしたのはお約束といったところか。
余談だがシルクもライに対しては度々こういう態度をとっていることは……まぁ知らぬが仏である。
疲れたようにため息をついたシルクだったがロイドとウィンのパーティーが決定したことは彼女にとっても喜ばしいことらしく顔をほころばせている。
「そういえばシルクさんはライさんを誘うんですか?」
「え、そ、そうね……誘おうかなって思ってる」
ウィンがシルクへと話を戻した。
「シルクさんなら実質一人でもランク3ぐらいのクエストならクリア出来そうですもんね」
――そっか、それなら戦えなくても一緒にいて楽な人と組むほうがいいのか。
と小さい声で呟く。
シルクは少しだけむっとした表情を見せつつも、それでも普通の人間はそう考えて当たり前なので何も言わずに「そうね」と頷いた。
だが。
「私、てっきりガラハムさんと組むと思ってました」
ピシリ、と。
明らかに異様な雰囲気が場を支配した。
「……どうして、そう思ったの?」
「え、えとその……えっとだってそれは――」
「――それは?」
明らかにシルクの空気が変わった。
地雷を踏んでしまったことに気づき、シルクが視線でロイドに助けを求めるも、ロイドはシルクの様子が変わったことにすら気づかずに「?」と首をかしげている。
「だってガラハムさんが大きい声で『俺がシルクと組む、文句のある奴は出てこい』って言ってました」
「……それで私と組んでくれる人いなかったのね」
苛立ちを隠そうともせずに呟いた。
ガラハム・ヴィクタス。ライの頭を足蹴にしたという、シルクにとって今や嫌悪感しか見出せない人間だ。
本名シルク・ケイアン。学園内ではシルク・ブレイズとして名乗っているシルクだがもちろんのこと異性からモテる。さらにいえば同性からも好かれている。
少し短い、肩まで伸びた金色の髪。どこか優しい目つきをしており、可愛らしくもあり美しいともとれる顔だち。
ルックスも良ければ王族の血縁にあたるブレイズ家ということになっているのだからお家柄も良い。さらには誰にでも分け隔てなく付き合う気さくさ。平民にすら友人が多い。成績だって常に学園2位。それも魔法に関して言えばロイド以上。
これでモテないはずがなかった。
「えと、組んでくれる人がいなかったというのは?」
ウィンが不思議そうなものを見る目で首を傾げた。
「そのままよ。急に私を誘う人がいなくなったと思ったら私が組もうといってた女の子も急に無理になったって断られて」
「ガラハムが恐かったんだろうね」
「そういう事情なら仕方ないわよね」
シルクが疲れたようにため息をつく。
ガラハムの家はケイアン王国でも有数の大貴族。その権力は王族血縁者とも並ぶといわれるほどだ。
そんな大貴族に大々的に宣言されて、それで断れるほどに身分を気にしない人間がケイアン王国にいるはずがない。
「……ライ君、誘うのやめたほうがいいかな?」
天を仰ぎ、悲しそうに呟く。
ただでさえライには一度自分といたことで迷惑をかけている。また誘ってガラハムにでも見つかったら大変なことになることを懸念しての言葉だった。
弱い顔を見せたシルクに、だがロイドが肩を叩いて明るく笑う。
「とりあえず誘ってみようか」
「でも」
「全部事情を話して、それからライに決めてもらえばいいんじゃないかい?」
「……」
よほどライの頭を踏まれたときの印象が強いのだろう。ソワソワして、それでも尚も表情がかたく、ライを誘っていいのか迷っている。
そんなにシルクを見ていられないと思ったのか、ウィンが笑いかけた。
「シルクさん?」
「え?」
「ライさんだって子供じゃないです。嫌なら嫌っていうと思います……」
「そう、かな……私王族で、ライ君は黒髪だからそういうの気にして断れなくなるとかないかな」
「ないね」
ウィンではなくロイドが断言した。
「ライは親しくなったら身分に囚われた行動をしないっていうのはシルクも知ってるんじゃないかい?」
そのことを、ロイドはライの病院で知ったし、シルクも彼と二人で過ごして実感していることだ。
「あ、それは……うん、そうかも」
「なら、とりあえず行ってみてもいいんじゃないかい?」
「……」
それでもなかなか動こうとしないシルクに、ウィンが近寄りその手を握った。
「え、ウィンさん?」
「行きますよ!」
そのまま手を引っ張り走り出す。
「ちょ、ちょっと!?」
焦るシルクの声に、ウィンは笑顔で強引に引っ張っていく。
「シルクさんが私みたいに引っ込み思案じゃだめです! もっと前向きに当たって砕けましょう?」
「いや、砕けたらだめなんじゃ」
冷静な言葉をロイドが呟き「あ!?」とウィンが顔を真っ赤にさせる。
「ご、ごめんなさい」
と謝罪し足を止めたウィンだったが逆にその手を引っ張られることに気づいた。
「し、シルクさん?」
「フフ、ありがとう、ウィンさん。私誘ってみるから、もうちょっと私のこと引っ張ってくれないかな?」
笑うシルクに、ウィンは顔を明るくさせて「はい!」とその手を引っ張りかえてして走り出す。
「さ、行きましょう!」
「ええ!」
こうして女子二人が駆け出した。
「……あれ、また放置?」
最近ライとシルクに会話で置いてけぼりにされたことを思い出して遠い目をするロイド。背中にどこか哀愁を漂わせ、ロイドはそれでも彼女達の背中を追うのだった。
昼。
病院では休憩時間に差し掛かっていたのか、丁度ライが外にいたので簡単に声をかけることに成功していた。
シルクにロイド、それにウィンという一風変わっている組み合わせにライが目を丸くしていたのは当たり前といえば当たり前だが、そういった会話もそこそこにシルクは本題を切り出した。
「俺と進級試験を受けて欲しい?」
「うん」
手を後ろに組み、どこかそわそわとした態度でライを上目遣いに見つめる。シルクの威力満点の視線に晒されたライは戸惑いと照れを滲ませつつも後ろのロイドとウィンに「えっと」と声をかける。
「場所は魔物の巣窟で受ける試験は冒険者ギルドでランク3のクエスト。試験条件は(身分)色違いのパートナーと二人でクリアすること」
「ランク3?」
驚きの声を漏らすライの声をスルーして、今度はウィンが慌てて口を開く。
「えと! ガラハムさんがシルクさんの邪魔をして、それで、その、シルクさんとパーティー組んでくれる人がいなくなってしまったらしいん……です」
しっかりといえたことに自身で満足したウィンが「ふぅ」と息を吐く。それを可笑しそうに見つめながら「なるほど」とライも呟く。
「駄目……かな、このままだと私ガラハム君と組まなきゃいけなくなっちゃうかもしれなくて」
「……」
トウハ学園の制服の袖を触りながらライへと尋ねるが、ライは黙ったまま顎に手を置いて考え事をしている。
――魔物の巣窟なら俺の任務と場所がかぶるのか、丁度といえば丁度だが。
四神隊としての顔がライの心に軽くもたげてくる。
ライの様子に、シルクはごくりとツバを飲み込んで静かに待ち続ける。ウィンとロイドも同様だ。やがて目を開け、3本の指を立てた状態の手をシルクの顔に突きつけて困ったように言う。
「条件が3つあるんだけど、大丈夫か?」
「条件?」
ライの言葉にシルクが首を傾げる。
「一つ、俺は戦闘に力を貸せない……わかってるとは思うが俺は黒髪で3人と違って戦闘手段をもってないからだ」
一瞬だけウィンに視線を送り、すぐにシルクへと目を合わせる。
ウィンがいる手前、本音では話せないということだろうがもちろんシルクもそれぐらいはわかっている。
それにそもそもこれはライには関係のない試験。組んでさえもらえれば戦闘で手助けをしてもらうつもりは彼女には毛頭なかった。
シルクが頷くのを確認したライが次の条件を出す。
「二つ、シルクがクエストの目的を果したのを確認した時点で俺は単独行動を取りたい」
「「「え?」」」
これにはシルクだけではなく、後ろで聞いていた2人も驚いた。だがそれを察知していたのか、彼らが口を開く前にライが言う。
「シノビ……うちの病院の薬剤師に作ってもらいたい薬があって、そのための薬草を取りに行きたいんだ。場所はそういった専門家しか知らないところにあって誰にも教えてはいけないという協定もあるし単独行動をとりたい」
それっぽいことを言ってはいるが、これは完全に嘘。そんな協定があるはずがない。
任務のことを言って、シルクやロイドについてこられても困る。なによりそもそもウィンの目の前で言うわけにもいかない。
ライの言葉に、シルクが心配そうな表情を見せたのは一瞬。すぐに3人ともが「なるほど」と納得しで頷いた。少しばかり素直すぎて心が痛くなったライだったが出来るだけ気にせずに3つ目の条件を提示する。
「3つ目、ロイドとウィンに頼みだが俺たちと一緒に行動してもらいたい」
「「え?」」
ウィンとシルクがまたもや驚くが今度はこの二人だけ。ロイドは険しい顔をして「それは言われなくてもそうしていたさ」と声を落とした。
「えっと……え?」
わけがわかっていないウィンにロイドが言う。
「ライが途中でいなくなったとして、帰り道がシルク一人だと危険だからね」
ロイドも肩をすくめて、ライも頷く。
「ウィン君はそれでいいかい?」
急にふられて驚いたウィンだったがすぐに頷く。
「えっと、はい。問題ないです」
その言葉に満足したのか、ライは頷き、シルクへと手を差し出した。
「なら、宜しくシルク」
「うん!」
二人の手が固く握られたのだった。




