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ライ、雷、来!  作者: ごぼてん
13/22

幕話「壮大過ぎた夢物語」



 四神隊は4人で構成されている。

 全員の共通点をあげるならハル・ラクアスの病院で全員が働いており、さらに共同生活を営んでいるということ。


 一人はライ。黒髪で整体師として。歳は17歳。

 一人はフィリア・バハート。赤髪で看護師として。歳は24歳。

 一人はシノビ・ツキカゲ。金髪の彼は薬剤師として。歳は23歳。

 一人はコウ・ラクアス。青髪の彼はハルと同じく医者として。四神隊隊長でもある彼はハルと夫婦でもある。既に50という年齢だが四神隊隊長の肩書きは伊達ではなく、未だに三人の隊員を寄せ付けない戦闘力をもっている。


 四神隊以外にもハル・ラクアスの病院で暮らす人間が二人いる。

 もちろん一人はハル・ラクアスその人。病院の院長で、四神隊の窓口役もやっている女性だ。そして、最後の一人はコウとハルの息子、サムス・ラクアス。


 彼らは日々を生きている。

 各々の思いを胸に。

 そして、今。


 ハルの病院には三人の四神隊、ライとフィリアとシノビの3人がいた。ライとフィリアは先日からいたがシノビも今日帰ってきたのだ。

 彼らは今日も闇夜を走る。

 その圧倒的力をケイアン王国のために、そして己が思いのために振るい続ける。





 ケイアン王国に潜む闇。

 誰かが言う。

『人とは闇だ。闇とは人だ』

平気で友を裏切り、親を殺し、子を喰らう。

 それが闇以外の何であろうか。



 ケイアン王国を照らす光。

 誰が言う。

『人とは光だ。光とは人なんだ』

 友を助け、親に恩を返し、子に愛を注ぎ込む。

 それが光以外の何であろうか。



 光あるところに闇がある。

 逆もまた然り。

 光がなければ闇はない。

 逆もまた然り。

 人とは闇で、人とは光。

「ならば拙者が照らそう、人の闇を。拙者が得た光はそのためのものでござる」





「誰か! 誰か!」


 闇夜の中を女性が走っていた。泣けども叫べども人はいない。それも当然ここは都市の中ではない。魔物がどこにいるとも知れない森の中。

 女性の背中に荒い息遣いが迫っていた。

 それは豪胆な脚力で地を駆け、草葉を踏み潰し、女性の背を追う。


 魔物だ。魔物の名はジャイアントオーク。オークの中でも特に知能がないとされるが、その分獰猛。巨大なわりに俊敏性に優れ、実は器用。夜目もきくし、嗅覚も聴覚もすぐれている。怪力に関しては当然のように申し分なし。頭が悪すぎること以外は非常にハイスペックといわざるを得ない。

 まさに、一般的に知られているオークの種類の中では最悪の部類に近い。

 そして、その少女を食い殺さんとするオークの後ろからはまた別の声。


「フハハハハ、喰らえ、殺せ、奪い取れ! たかが人間風情が我等を殺そうなど100年はやいわ!」


 空を飛び、まるで遊ぶかのように恐怖の言葉を投げかける。

 まるで呪いのように耳に届くその言葉は恐怖で頭が回らないはずの女性の頭になんの違和感もなく刻まれていく。


 徐々に失われる正気と勇気と気力と体力。

 呪言の恐怖に支配される。正気を失う。

 (つまづ)きそうになって体が痛む。勇気を失う。

 オークの巨体が迫り来る。気力を失う。

 呼吸するのも苦しくなってきた。体力を失う。


『村を襲ったジャイアントオークの討伐』

 それが、彼女が受けた討伐依頼だった。正義感に燃え、仲間と共に意気込んで入った森の中、蓋を開けてみれば知性の低いジャイアントオークによる闇討ち。

 闇討ちされようが本来の彼女とその仲間達の実力なら対抗できるはずだった。


 女性はよく逃げているといっても過言ではないだろう。仲間だった冒険者達には囮にされて、一人で矢面にさらされつつもそれでも未だに生きている。

 既に元・仲間達はこの森の中にはもういないだろう。

 仲間達4人となら勝てるかもしれないが、さすがに一人ではどうしようもない。逃げるのが精一杯だ。


「っ」


 そして、遂に限界がきた。

 女性の脚がとまった。


「うぅ」


 女性の目に涙が浮かぶ。恐怖だけではない。仲間に裏切られた悲しみも、襲われた村の人間たちの恨みも晴らしてやれなかった悔しさもある。


「ふはっ! ふああははははは! 遂にあきらめたか! あきらめおったか!! さぁ殺せ、ジャイアントオークよ! くえ! くえくえくえくえ! 食い殺せ!!」


 笑い叫ぶその姿は人間のものではない。青白い肌に銀髪銀目。この大陸の人間にも亜人にもありえない姿。


「ま、まぞく?」


 魔族。

 寿命も長く能力も人間にくらべて圧倒的に強い。魔物とは違い、理性的でむしろ人間よりも温和な種族だが、ときおり別種族のように好戦的な魔族が生まれる。

 その変り種の魔族こそがおそらく今、女性の目の前にいるような魔族なのだろう。


「ウフフフハハハハハハハ! そうだ! 怯えろ! 怯えろ!! そして――」


 怯えた女姓の声が心地よいらしい。魔族はただ笑う。狂ったように笑い、また狂う。喜悦の声を挙げ、そして一瞬にして氷点下。


「――死ね」

「ヒッ」


 オークの粗忽な大斧が振り下ろされ――


「――まったまったぁぁぁぁぁぁ!!」


 どこかこの場とは温度がずれているような青年の声が響いた。


「ど、どこだ!? な、何ものだ!!」

「フゴ?」


 魔族がなぜか異様なほどに驚きに身をすくませて、音源の位置を探している。その魔族の声につられたのか、ジャイアントオークも同様だ。


「誰が呼んだか無敵の俺達!」

「っ!?」


 続いて叫ばれた青年の言葉に、今度は女性が背をふるわせた。


 ――こ、この台詞……まさか。


 ケイアン都市に伝わる都市伝説。

 弱気を助け強気をくじく。幻の正義の使者。ケイアン出身なら誰もが知っているその台詞。

 少女の胸が激しい動悸に包まれる。


 ――う、嘘? で、でも?


「闇の力の悪しきを照らす!」


 今度は青年とは別の、女性の声だ。


「ええいっ、何者だ! 姿を現せ!!」

「光が照らす正義の力!!」


 また別の声。青年とも女性のものでもない。若い、おそらくは少年の声。

 突如、大きな爆音が上がり闇の森を光が照らした。


「「「!?」」」


 光源と音源のほうを見て、そこに彼らはいた。


「「「スーパーヒーロー四神ジャー! ここに見参!!」」」

「「「……」」」


 驚きのあまり身を固める二人と一頭だったが、すぐに女性が復活した。


「し、四神ジャー! 助けて!! 私――」

「――おっと、お嬢さん、拙者たちにまかされい!」


 最初の青年の声だ。黄のスーツと黄の仮面。黄一式で備えられた彼の言葉に、女性は目に涙をためて頷いた。


「ええぃ、こんなわけのわからんやつに! ジャイアントオークやってしまえ!!」

「ここは俺に任せて!」


 今度は声が少年にしか聞こえない黒スーツと黒仮面、黒一式の彼が飛び出した。おそらく少年であるだろう彼は、すさまじい勢いで迫るジャイアントオークに、それ以上の速度で接近。そっと、掌をジャイアントオークの腹部に置いた。


「フォォォ!」


 慌てて振り下ろされたその大斧には見向きもせず、一歩。そっと前進。たったそれだけ。たったそれだけで「フォッ!?」


 ジャイアントオークは体を震わせ、プツリと糸が切れたかのようにこと切れた。


「う、うそ」


 あの恐ろしきジャイアンオークが一瞬で昏倒している。いや、よく見れば血を吐き出しているから下手をすれば死んでいるのかもしれない。


 ――ありえない。


 愕然と呟いた女性の声に、少年が「安心してくれていいから」と優しい声を落とす。


「あ、うん……はい」


 女性は自然と頷いてしまっていた。


「さて、あとはお主だけでござるが、いかがいたすか?」

「シノビ、やっちゃいなさい!」


 あくまでも時代錯誤の黄のヒーローをけしかける赤スーツと赤仮面、赤一式の女性。その余裕のあるようにしか見えない態度に、魔族が激昂した。


「き、貴様等! あまり俺をなめるんじゃねぇぇぇぇぇ」


 魔族が足元に陣を描く。


「召喚陣!?」


 赤いヒーローの驚きの声が響くがもう遅い。


「フハハハ! 見ろ! びびれ! ちびれ! そしてしねぇぇぇぇぇ!」


 うじゃうじゃと。


「ひっ!?」


 女性が恐怖の声を漏らす。だがそれも仕方のないことだろう。魔族の足元にいたのはオーク、ビッグオーク、ジャイアントオーク、グレイトオーク……etc。


 女性が知りうるあらゆるオーク種がそこには数え切れないほどいたのだから。

 その数は50、100、いや200……数え切れない。

 それほどの数。


 女性が目に絶望の色を灯し、魔族は高笑いを続けている。しかし、四神ジャーは既に行動を開始していた。


「……」


 黒のヒーローが静かに茫然自失している女性を背負い、そのまま後退を開始する。それを見つけた魔族が「にがすか! いけぇぇぇぇ!」


 腕をふるった。

 一斉に突撃を開始したオークたちだが、既に彼らの命は終わっていた。


「敵を呑み込む地獄の業火『ロスト・ヘルファイヤー』」


 赤のヒーローが短縮された詠唱を唱え、それは放たれた。


「ん?」


 魔族が間の抜けた声を発したことに、彼自身気付いていただろうか。

 迫り来る灼熱の赤が大地に存在する全てを飲み込もうとしていた。オークたちに魔法はつかえない。なすすべなく炎に包まれ、溶けていく。そこには悲鳴すらもない。

 灼熱の赤が全て呑み込み、役目を終えた炎が弾けて消える。


「……ば、かな」 


 魔族の目に映ったのは信じられないような光景だった。

なにも変わらぬ闇夜の森。木々が生い茂り、草が揺れる。ただし、そこには彼らがいない。オークもビッグオークも、ジャイアントオークもグレイトオークもいない。

 死んだ形跡も死骸も、なにもない。

 残っているのは相変わらずの森と、黒のヒーローが殺したジャイアントオーク一頭の死体だけ。比喩でもなく、本当にオークたちの群れは呑み込まれていた。


「こ、こうなったら俺が自ら貴様等を!!」


 精一杯の虚勢か、それとも本気でそう思っているのか。魔族は虚空から取り出した剣で黄のヒーローへと切りかかる。

 黄のヒーローは何の抵抗もみせずに静かにそれを待ちうけ、そして、そのまま両断された。上半身が崩れ、大地に落ちる。


「ふ、フハハ! これでまずは一人だ!! さぁ残りのお前らもこの調子で切り刻んでやる!」


 仲間がやられたことでさぞ取り乱しているだろうと予想していた魔族だったが、彼らの反応は薄い。


「フィリア、大丈夫?」

「ええ、さすがに敵のみを殺す魔法をあの範囲で使ったら魔法力の消費が激しいわね」


 黒のヒーローとフィリアと呼ばれた赤のヒーローが談笑していた。その隣では気を失った少女がぐったりと寝ている。


「き、貴様等! なにを余裕を――」


 ――ぶっこいてやがる!


 言おうとした時だった。


「さらば」


 感情のない声色と共に魔族の首が飛んだ。


「え?」


 体を失った顔で、自分の首を飛ばした張本人。それはさっき殺したはずの黄のヒーロー。ありえないものを見る顔で意識が飛びかけた魔族にヒーローは言う。


「忍法・身代わりの術でござる」


 ――なんじゃそりゃ。


 魔族は声を発することなくその命を失ったのだった。





 朝日が少女の瞼を照らす。


「ぅ」


 女性が目を覚ました。

 そこは昨夜の森の中。夢かと考えて周囲を見回すも、誰もいない。仲間も魔物も、ヒーローも。


「……え?」


 わけがわからずに、それでも立ち上がった女性。女性は漠然と昨夜のことを考えるのだが、ふと目の端に映った一つの死骸に気付いた。


「!?」


 見覚えの会ったそれに、恐怖を抱いてあとずさるも、それが動かないことに気付いてゆっくりと近づいていく。


「……しん、でる?」


 動かない。

 どうみてもそれは昨日に彼女を殺そうとしていたジャイアントオークそのもの。


「……これ、どうしよう」


 未だに現実感がないらしく、うつろな目で周囲をキョロキョロとさせている。


 ――と。


「……ーい!」

「え?」


 森の入り口の中から今回のクエストを依頼した村人達が現れた。今回の依頼者で人数は3人。村長とその補佐二人だ。3人とも本当に顔を嬉しそうにしている。


「……?」


 どうしたんだろう、と首を傾げた女性に、彼らは頭を下げる。


「ききましたぞ! ジャイアントオークを一人で倒してくれたそうですな!」

「……え?」


 わけがわからない女性を置いてけぼりで彼らは話を進める。


「本当にありがとうございます!」

「逃げたあの冒険者たちとは違ってあなたには感謝してもしきれません!!」

「いや、いや……私じゃなくて、その」

「またまたご謙遜を、森から逃げてきた狩人さんから聞きましたぞ」

「はい?」


 そんな人がいたのだろうか? いや、気付かなくても実はいたのかもしれない。なにせあの時は闇夜のしかも森の中。必死に逃げていたわけだし気付かないのも当然といわれれば当然のことと、彼女は考え直す。


「なんでもジャイアントオークから逃げてたらジャイアントオークがこけて、それで事故死したと聞きましたぞ」

「狩人曰く『こけて死んだのは事故だろうけど、そもそもそうなったのはそこまでへばらせていたあの冒険者の功績があってのことだ』と」

「……はぁ?」

「とにかく、ありがとうござます! 村で盛大な祭りの準備をしていますので是非きてくだされ!」

「いや、ちょっと」


 完全に戸惑っている女性の話を聞いているのか、いないか。


「ささ、運も実力といいます。遠慮なさらずに!!」


 ぐいぐいと村長たちが彼女を引っ張ろうとする。それだけ村人たちにとっては嬉しいことなのだろう。


「はぁ」


 女性はよくわからずに、だがあまりに嬉しそうな目の前の彼らの様子から考えることを中断したらしい。女性はさっとジャイアントオークの耳をそぎ落とし、袋につめる。後で冒険者ギルドに向かった時に証拠として提出するためだ。


 それから諦めたように息をつき、頷いた。


「わかりました、それでは行きましょう」

「おぉ、そうと決まれば早速!!」

「はい」


 彼らがいなくなった森の、とある大木の頂上。

 そこに彼らはいた。


「うまくいったようでござるな」


 黄のヒーロー、仮面をとったシノビが呟いた。


「ええ」


 シノビの言葉に同意しつつ、黒のヒーロー、仮面を外しながらライが言う。


「あとは逃げた奴等を適当に報いを受けさせてやらないと」

「うむ、ライの言うとおりでござる」

「そうね」


 赤のヒーロー、同じく仮面をとったフィリアも頷く。

 彼らは視線で合図を送り、一斉に大木を飛び立った。





 彼らは今日も行く。

 まだ見ぬ困難がきっと彼らを待ち受けているだろう。

 それでも彼らは負けない。

 そこに闇がある限り、彼らはその光で照らし続けるのだ。

 

 負けるな四神ジャー。

 頑張れ四神ジャー。

 今日も誰かを救うんだ。





「……」

「……」

「……」

 固まるライ、フィリア、ハル。彼らの視線の先で流暢な話を続けていたシノビが、最後に一言付け加えた。

「――という夢を帰りの旅路で見て興奮したでござるよ」

「「「話が長い!」」」


 ライたちの声が家中の全てに響いた。

 彼らは今日も行く。

 ……四神隊として。



反省はしている、が後悔はしていません(キリッ)

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