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ライ、雷、来!  作者: ごぼてん
11/22

第10話「第一歩」





 夜は明けていた。

 朝日が昇り、誰もが活動を始めるであろうそんな時間帯、ケイアン王国のケイアン都市。その近郊にて。

 一人と2頭が向かい合っていた。


「助かったよ、ありがとうな」

「アア、マタイツデモ呼ブガイイ」

「もちろんそうさせてもらう」

「マタナ」

「グルル♪」

「ああ、また」


 ライが手を振り、ダルクとその子供が空に舞う。羽ばたく翼によって風が揺れてライの体をなで上げた。気持ち良さそうに目を細めていたライだったが、すぐに彼らの姿が見えなくなったのを確認して踵を返す。

 目指すはもちろんケイアン都市だ。

 目指す、といってもそう遠くない距離。一応ダルクの姿が目立つため人里から離れたところに降りた彼らだったが、のんびりと歩いても大した時間もかけずに都市に入れるだろう。


 ――あとは報告を終わらせて……寝よう。


 なにせライはほとんど寝ていないのだ。

 仕事上数日間ほぼ寝ないときもあるしそれに比べれば全然マシともいえるが、それでもやはり眠いものは眠いのだろう。

 目をしばしばとさせながら欠伸をかみ殺す。


「王……のところに報告しに行かなくてもうハルさんにも連絡いってるかな?」


 ハルとは王国から四神隊への依頼を直接的にまとめる人物で、いうなれば彼らの窓口役の人物である。


 ――昨日の今日だもんな……誰か家に帰ってるか?


 すこしばかりゲンナリとした顔でため息をつくライだったが、ケイアン都市の方向から誰かがこちらへと駆けてきている人物を視界に捉えた。


 ――商人か? いや、それにしては動きが軽い?


 よくわからずに首を傾げたライだったが、どうせ自分には関係のないことだと首を横に振る。そんなことよりも早く帰ろうと考えて歩を進めようとして、視界の端に捉えている人物がこちらに手を振っていることに気付いた。

 周囲を見回すも当然誰もいない。ダルクにはそういう場所に降ろしてもらったのだから当たり前といえる。


「……俺、だよな?」


 ――なんだなんだ?


 わからずにジッと見つめること数秒。


「あ」


 気付いた。


「シルク?」


 朝日になびく金髪が眩しく、美しい。

 薄い青色のドレス、というよりはワンピースといったほうが正しいであろう王女らしさの感じられない軽装も、彼女にはよく似合っている。

 自分でも気付かないうちに駆け出していたライがシルクとの距離を潰すのにはそう時間がかかるはずもない。

 ほとんど全力疾走にも近い速度で駆け抜けて「え?」驚くシルクの側を駆け抜けた。


「ちょっとライ君!?」


 ――うわ、行き過ぎた!?


 慌てて急ブレーキ。クルリと振り返ってシルクと向かい合う。


「お疲れ様、アリエス大丈夫だった?」


 開口一番のシルクの言葉に、キセキ・アミュートの情けない態度を思い出したライが若干遠い目をして空を見つめる。


「ああ……うん……大丈夫、ちゃんと鍛えてくれるらしい」

「そ? よかったぁ」


 余程アリエスのことを心配していたのだろう。ライの不思議な態度には気付かずに、シルクが息をついてほっと胸を撫で下ろす。ライはゆっくりと小さな息を漏らし、微笑んでシルクへと声をかけた。


「そういえばシルクは学園に通ってるんだろ? いいのか?」

「え?」


 驚くシルクに、ライが呆れたように白い目でシルクを見つめる。


「いや『え?』じゃなくて……さぼりはよくないぞ? というかロイドとかに注意されないのか? そういうのには厳しそうな顔してたんだけどそうでもなかったか」

 ぶつぶつとまるで小言のように呟かれる言葉を、シルクは逆にクスリと笑った。

「笑うところじゃ――」

「――昨日と今日は祝日だから学園は休みなんだけど」


 尚も続けようとしたライの言葉を一刀両断。ライの動きが止まった。「あ」と呟いて口をパクパクとさせて、それから頭をガシガシとかき乱して一言。


「ごめん」


 全力で頭を下げたライに対するシルクの言葉はない。


「……」


 ――怒ってる……よな、これ。


 そもそもライ程度の身分の人間が気安く声をかけていい人間じゃない。それを馴れ馴れしくして説教まがいなことまでして、あまつには勘違いの説教だ。

 これは土下座しかない、そう考えて地面に跪こうとした時だった。


「プ」


 空気が漏れたような声が聞こえた。


「?」


 頭を上げてシルクの顔をみると、そこにあったのは怒りではなく笑いを堪える顔。顔を真っ赤にして、口を手で抑えて声を必死に押し殺している。


「し、シルク?」


 心配そうに覗き込むライの顔に、シルクは慌てて態度を一変。


「ううん、全然気にしてないよ」


 まるで何事もなかったかのようににこりと笑顔を浮かべた。


「……」


 だが、今度はライからの返事がない。奇妙に思ったシルクが、今度はライの顔を覗き込もうと顔を近づけるが、その前にライが慌てて口を開く。


「っそ、それならよかった」

「? ……うん」


 どこかおかしな態度を見せたライの様子だったが、シルクは特に気にならなかったらしい。少しだけ不思議そうな素振りを見せるも、それだけ。すぐさま「あ、そ、そうだ」と声をあげた。


「あ、あの……さ、ライ君?」


 妙にモジモジと顔を俯かせているシルクが、ライの中ではクリティカルヒット。


 ――は、反則だろこれ。


 なにかを叫びたくなる魂の声を無視。きわめて冷静なフリをして、というかライ本人的にももちろん冷静なつもりで反応する。


「……な、なに?」


 ――うん、どもったのは気のせい。


 一人で完結させたライだったが、正直シルクの様子もおかしいのだ。ライの微妙な態度に気付くこともなく相変わらず顔を俯かせている。

 と。

 いきなり一枚の便箋をライに押し付けた。


「え?」

「こ、これは」

「読んでみて」

「……え?」


 ――文字読めないのか? 


 といいかけた口を慌ててつぐんだ。仮にも相手は王女様。文字を覚えていないとかあるはずもない。


 ――全然敬ってないから忘れそうになるんだよな、少しぐらいは気をつけたほうがいいよな。


 それはケイアン王国に住む以上決していい傾向とはいえない、むしろマイナス面しかない。ライ自身いけないことだとわかってはいるものの心のどこかで嬉しいような暖かいようなむず痒い気持ちになっている。


「わかった……えっと、なになに?」


 自身の気持ちに苦笑しつつも頷いて手紙を広げる。


「声に出して読んでね?」


 シルクの言葉に、ライはまた小さく頷いてから文字に目を通す……の、だが。


「はぁ!? これって!?」


 反射的にぐしゃりと潰されてしまった手紙を見て、シルクは微妙にライを非難する顔をした。その態度にもまた反射的に「あ、ごめん」と頭を下げる。


「ん、いいけどね」


 と、シルクも本当に気にしていない様子なのでライも一安心。ほっと胸を撫で下ろしくしゃくしゃになってしまった手紙を広げて――


「――じゃねぇよ!! なにこれ! なんでいきなり王様とハルさんからの署名が、しかも肉筆であるんだ! こんな形式の書類はないだろ! というかしかも俺宛てだし!? ほんとなにこれ!? 嫌な香りしかしないんだけど危険な香りしかしないんだけど」


 もはや突っ込みどころ満載でライもわけがわからないらしい。ついさっきシルクをもう少し敬うように気をつけるとか考えておきながらこの態度である。

 裏では四神隊と王国からの依頼をとりもつハルだが、表向きは貧民街での医者をやっているだけの人物で、権力などないに等しい。その彼女と王からの署名である。


 公式のものではないことは明らかだが四神隊のライからすれば絶対的に従わなければならない人物二人からの署名だ。これに四神隊の隊長の署名まであったらライはおそらくこの場で平伏していたであろう代物だ。

 半分壊れ気味になったライが面白かったらしく、シルクはまた笑いを堪えながら「いいから」と読むことを促す。

 そういわれては仕方ない。物凄く嫌そうにその手紙声に出して読み上げていく。


「え~、なになに? ……『シルクたちと友達になる件につい、て?』」


 いきなりそういう冒頭で始まっていた。ダルクの背中で話した『友達になるかならないかは王に聞かないとわからない』という件の話だ。


 シルクを確認すると、小さく頷き、そのまま続きを促してくる。ライは戸惑いつつも目を滑らしていく。


『報告を聞いた。細かいことは気にせずに遊んでやればよかろう by王』


 ――なにこれ、超軽いノリなんだけど。


『別にちょっと目立つくらいでばれるほど四神隊は甘くないわよ、トモダチになってむしろシルクちゃんを家に連れてらっしゃい。というかむしろそれ以上の関係になってお母さんに孫の姿を見せなさい byハル』


 ――なにこれ、なんでハルさんがお母さんになってんの。お母さんじゃないから息子じゃないから、といかそれ以上の関係っておかしいだろ。


『娘に手を出したら殺す by王』


 ――出しません飛躍させないでください、恐いです。


『じゃあ愛の逃避行ね、四神隊で協力するわ! いってきなさい!! byハル』


 ――やめてください、本当に成功してしまいます。


『く、そんなことをされるぐらいなら……娘がほしければこの王を倒していくがよい! by王』


 ――しないから、倒さないから。というか手紙で一々交互にメッセージを書くって面倒くさそうなんですけど。


『ま、とにかく金髪と黒髪の組み合わせならないこともないでしょ、いいから遊んできなさい。任務の結果報告は遊んでからでいいから byハル』


 ――金髪と黒髪の組み合わせ……王族とその従者か、言われてみればそうだよな。


 実際カンボット都市ではそういう設定を使っていた。


『一応シルクとロイドの報告はあがっているので同上 by王』

『あと任務は最低でも3週間はかかると思ってたわけだし、こんなにはやく終わったんだから数日は休んでいいわよ。今日はのんびりと遊んできなさいな byハル』

『同上 by王』


 ――王様、めんどくさくなってるでしょ。


「……ふぅ」


 手紙を読み終えたので息をつく。


「っていうことなんだけど」


 シルクは特に驚く様子もなくモジモジと顔を俯かせているので全て知っていたのだろう。ライは少しだけ考えるように目を閉じる。


「報告は先にやったんだっけ?」

「うん、手紙にも書いてるでしょ?」

「ああ」


 ――いいのだろうか?


 チラリとライは目をシルクに送った。

 女性の王族にしては少し短い肩まで伸びた金色の髪。見たもの全てを魅了するかのような金の瞳。どこか優しい目つきをしており、可愛らしくもあり美しいともとれる顔だち。身長は女性の平均より少し低いくらいだろうか。ライも男性平均よりも少し低い程度なのである意味ありきたりな身長差なのだろう。

 所在なさげに俯く姿がライには眩しく、比喩でもなくクラリと来る。


「……」


 ライの胸が疼く。昔に封印したはずの気持ちが甦る気持ち。


 ――12年前のこと覚えてるか? 一回俺たちは会ってるんだ。


 本気で口に出しそうになった自身に慌てて首を横に振る。そのライの様子にシルクは意を決したのか大きく一人で頷き、ライに言う。


「お父様も、四神隊の人も許してくれたし……その、友達になってくれるんだよね?」

「うっ」


 言葉に詰まるライの瞳をシルクの瞳が捉えて離さない。


 ――瞳をうるうるさせないでください、反則です。というかハルさんは隊長じゃないからこれだけじゃなんとも言えないし。


 とも言えずに陥落しそうになったライだが、実際のところ四神隊の隊長もOKを出すだろうことはわかっていた。


 ――あの人ってそういう人だもんな。


 今関係のない人物を思い出して苦笑。と、ここでフとここにはいない人物のことをライは思い出した。


「あれ、そういえばロイドは?」

「今は一人で鍛錬してる。それでどうなの?」


 見事に端的に答えたシルク。その後ですぐさま話を元に戻すのも忘れない。


「護衛とか連れなくて大丈夫なのか?」

「大丈夫、私もある程度戦えるから。それで?」


 見事に端的に答えて、やっぱり話がすぐさま元に戻る。


「……」


 ライは避けられないことを悟ったらしく、視線をさまよわせて少しの間沈黙。考える時間が実際にどれくらいに経過したのかはわからないが、ともかくその時間で決心したらしく、シルクの瞳を見つめ返した。なぜか「う」と後ずさりをするシルクだったが、それに気付かずにライは言う。


「俺は礼儀を知らない」

「……え?」

「友達も数えるくらいしかいない」

「あの――」


 いきなりの独白に戸惑うシルクの声を、ライはあえて遮って言葉を続ける。


「――やってきたのは修行と任務、それから自己鍛錬。これからもそれは多分変わらない」


 なにをいいたいかはわからない。ただなにかを言おうとしている。それを感じ取り、シルク小さな声で「うん」と頷いた。


「俺は黒髪黒瞳で、貧民で、苗字もないただのライ。一応表向きはハルさん……知り合いの病院で整体師をしているが、それだけ。裏では四神隊に所属していて、人にはいえないようなこともやってきたし、これからもそうだろう……まさにケイアン王国でも最底辺にいる人間」

「そんなことっ……うん」


 否定しようとしたところをライの鋭い視線に制されて、渋々頷く。


「それに対して俺の目の前にいる人は金髪金瞳で、王族の血縁で、それどころかまさに直系にあたる王女のシルク・ケイアン。身分を隠してケイアン王国随一のエリート学校、トウハ学園に入学し、そこでもトップクラスの成績を修めている。王女ということで警備隊には所属はしていないが、光神隊にすらひけをとらないその実力、しかも17歳で。要するにシルク、君はケイアン王国でも最頂点に近い人間だ」

「……」


 今度は頷かない。渋い顔でライの言葉を嫌そうに聞いている。


「俺はシルクと友達になってもいい人種じゃない。それを、シルクは知っておくべきだ」


 ライの厳しい視線がシルクの瞳を捉えた。


「……」

「……」


 にらみ合うかのような時間が数秒過ぎた。お互いに何も話そうとしないが、当人達からすればそれは永遠のように思える時間だっただろう。いや、逆に一瞬のように短かったかもしれない。


「……」

「……」


 ともかく、さらに数秒が経過する。それでも二人は口を開かない。まるで口を開くことが負けのような空気の中、先に言葉を発したのはシルク。


「関係ないわ」


 凛とした声で、はっきりと。ライの口があんぐりと開いた。


「か、関係ないことはないだろ。今さっき俺がいってたことを聞いてなか――」

「――関係ないわよ」


 またも、言う。

 シャットアウトされてしまった言葉に、ライは口をパクパクとさせてシルクの顔を見るが、そこで気付いた。

 まるで別人のように厳しい表情。可愛いとか美しいとか、そういう感情が出る前にまず感じさせられる断固とした意思。それがシルクから感じられる。今までのふわふわとした世間知らずの王女とった様子はなりをひそめ、王女、いや女王として君臨しているかのような威圧感すら感じさせられる。

そんなシルクの表情に、ライは本当に言葉を失った。


「四神隊の存在を知っている人間は、王と私とロイド・ブレイズを除いて実際に何人になりますか?」


 唐突の質問、普段のライならなぜそんな質問を? と尋ねる場面だが今は普段の場面ではない。まるで王として目の前にいるシルクの様子に、ライの疑問が吹き飛び、王に直接的に仕える兵士としての本能が反応した。

 跪き、答える。


「2人です」

「なるほど。だったら私とロイドも二人です……奇遇ですね数としてはぴったりです」

「?」


 シルクの言葉の意味がわからずに首を傾げたライの様子に、シルクは悠然とした笑み浮かべた。


「要するに私とロイドは現時点でその方々に最も近い……いえ、むしろほぼその方々の跡を継ぐと決まっているようなものではありませんか?」

「!」


 四神隊を知る人物は最低限の人数でなければならず、国内でも最高に近い権力を握っている人物でなければならない。それほどの最高機密。

 となれば王も意味もなく四神隊の存在を教えるはずがないのだ。ライはこの事実をロイドとシルクがいずれ重職につくことになるだろうと捉えていたが、たしかにシルクの言うとおり実際は重職どころではなく最高権力を持つに近い職につくと考えたほうが自然だ。シルクならばその職につなかなくても実際の王位を継いでも違和感はない。


 ――なるほど……でもそれ今は関係のない話じゃ?


 自分では思いもしなかった発想に素直に感心する一方、関係のあるとは思えない話に首を傾げてしまう。


「要するに、私は遅かれ早かれ四神隊に接することになるのです……それもどっぷりと」

「……そう、ですね」

「なら、私的に交友を結ぶことになん支障がありますか? むしろ四神隊の方々と触れ合っていたほうが地位を継承する時にはスムーズに出来てよいのでは?」 

「……たしかに」


 ――うーん、なるほど。そういう意味でも王とハルさんも友達になっておけって言ってたのか?


 実際はそんな先のことまで考えることは仮定だらけであまり意味のないことなのだが、ライにとってシルクの言葉があまりにもすんなりと頭に入ってしまっていた。

 デメリットどころかメリットしかないようにすら感じ始めたライが色々と考えつつも唸っている間にシルクが声を発する。


「ねぇ、ライ君?」

「?」


 悩んでいる間に名を呼ばれて、反射的に振り返ったライの視線の先には、女王たるシルクではなく、普段の可愛らしさが溢れるシルクがあった。

 見ているだけで照れしまうほどに顔を赤くさせて、耳まで真っ赤にして。シルクが小さな声でそれを投下した。


「あなたと友達になりたい……それじゃだめ?」


 透き通るような白い肌を朱に染めて、上目遣いに、ポツポツと。その破壊力たるや大陸が消滅してもおかしくないレベルだったのだろう。


「これから宜しくシルク」


 ライの本能が自然と返事をしていた。


「はっ!?」


 ――いや、ちがっ……待った待った!


 すぐさま我に帰ったライが慌てて言う前にシルクが笑った。


「うん、宜しくね!」


 まるで華が咲く様な満面の笑顔。


「……ああ」


 ――ま、いいか。シルクの言うとおりな気がしてきたし。


 内心でため息をつき、ライも満更ではない顔を浮かべたのだった。


「あ、実際に私が四神隊と触れ合う職につくかどうかなんてわからないことだから、私が関係ない職についたらごめんね?」

「それは仕方な……あれ、はめられた!?」

「フフ、じゃ早速行きましょ?」


 ライが文句を言おうとしたことを察知したのか、シルクが先に駆け出した。


「街まで競走だからね!」

「……色々と置き去り!?」


 そのまま全速力で遠のいていくシルクの背に、ライが肩を落とす。遠ざかっていくシルクとは対照的に、ライは走り出そうとはせずに顔を浮かべて空を見る。昇った朝日が目に眩しく、少しばかり手で目を覆った。

 徐々に一日が始まろうとしている。時折聞こえる鳥の声や魔物の声。風に運ばれてくる緑のにおい。悪意はなく、善意もない。ただ生命が溢れている。


 ――いい朝だ。


 内心で呟き、まるで柄にもなく美しい自然に心を傾ける。


「さて」


 シルクの背を見つめる。僅かな時間だったはずだが距離は随分と開いてしまった。苦笑してそれでも走らずにいると、ぴたりとシルクの背が止まってライを振り返った、


「負け方がご飯奢りだからねー?」


 言うや否やまた駆け出した。遠くから聞こえてきたシルクの言葉に「うおおおお、絶対勝つ!」とシルクの背を追ってライも足を踏み出した。





 本人でも気付かない最高の笑顔、それはライ自身でも気付かないほどの心の変化。



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