また、巡る
我ながらすごいことしてると思う・・・・・・本当に。
「リ、リル。胸が・・・・・・。」
「当ててるの。わざと。さぁ、アークさんはどこまで耐えられるだろーね?」
内心、すぐにでも耐えられなくなってアタシしか考えられなくなればいいとか思っちゃってるアタシは・・・・・・腹黒い?
「や、やってやろーじゃねーか!」
そいうアークの手を足で挟み込んだ。
アークの手がピクリと反応したので、アタシは声を上げてしまった。
「あっ・・・・・・!」
「っ!?なんつう声出してんだよ!?」
アークは真っ赤になってアタシを見た。
「出したくて出してるわけじゃない!アークが、アークが変なところ触るから!」
「変なところ?」
そう言ってアークの手が拳を握ったのでアタシはすこし叫びそうになった。
「や、ぁ!そこだってば!触んないでよ!」
アークが自分の手を見てからアタシを見て、後ろに後ずさろうとした。
「きゃ!?」
いきなり動いたアークにアタシが乗っかり、アークは硬直したまま動かなくなった。
「アーク?」
アークはいきなりアタシをベッドへ押し倒したので、アタシは内心ギャーギャー叫んでいたが、アークがそれ以上アタシに手を出してくることはなかった。
多分、頭の中で葛藤してるんだと思う。
何故だかもう少しアークを困らせたくて、アタシがアークを押し倒し、形成逆転するとアークのシャツをめくり上げ、アークの胸に顔をうずめて耳をすませていた。
・・・・・・不思議、ずっとこうしてみたかった。
今、その状態にあるって、なんだか、すごく不思議・・・・・・。
アークの心臓が高鳴ってる。
お姉ちゃん相手にじゃなくて、アタシを相手に、アークの心臓の音が、鼓動が早くなってる。
なんだか、すごく、嬉しいような、変な感じ・・・・・・。
一方押し倒されたアークは何もできずにいた。
一瞬、押し倒してしまおうか。という欲望みたいなのが沸いた。
リルの顔は本当に誘っているようにしか見えなかったけど、コレはどうしたらいいのだろう。
俺が好きなのはラルさんで、リルが好きなやつは知らない。
けど、リルはどうして抵抗しないんだろう?
リルが俺に顔を近づけてきた。
「アーク、このままだったら、本当にあんた、色魔にやられちゃうよ?」
「うるせー・・・・・・。」
「・・・・・・キスしちゃうよ?・・・・・・いいの?」
そう言ってリルの顔が近づいてきた。
おい、待て待て待て待て!?
そうは思ったものの結局何もできずにただ、リルのされるがままだった。
このままじゃいけないと思い、俺からリルを引き剥がすと、「何やってんだよ!?」と叫んだ。
「何って・・・・・・。」
分かってる。色魔対策だ。
「リル、お前はもっと自分の体を大事にしろ!そういうのは簡単にやっちゃいけないだろ!?大体、そーゆーのは好きな人としろよ!お前は誰にでもこーゆーことができんのかよ!?」
すると、リルはワナワナと震えだし、俺の頭を拳で殴った。
「いってえ!何で殴るんだよ!?俺は間違ったことは言ってないだろ!?」
そう言ってリルを見上げるとリルは目にいっぱい涙をためていた。
「え?ちょ、おい?」
「鈍いのもたいがいにしろ!バカアーク!こんなこと、誰にもできるわけないでしょ!相手がアークだからできるの!好きな人とじゃなきゃダメって!?アタシが好きなのはあんただ!バカバカバカ、アークのバカ!死んじゃえっ!!」
そう言ってリルは俺の前からいなくなった。
"アタシが好きなのはあんただ!"リルの声が頭を占めていた。
「え・・・・・・?ウソだろ?オイ・・・・・・。」
俺は頭を抱えた。
だって、リルは昔から変わらなくて、今までのを普通とするなら、俺を好きな素振りなんてまったく・・・・・・。
「うそだろぉぉお・・・・・・?」
俺は自分の顔が赤くなるのを感じながら落胆するような声を発し、その場にうずくまった。
その日、はじめてラルさんのことではなく、リルのことを意識して考えた。
もしかしたら、もう、リルは俺のところに教えに来てはくれなくなるかもしれない。
深いため息が出た。
そのころ、勢いに任せて自分の部屋に逃げ込んできたリルは「もぉやだ・・・・・・何八つ当たりしてんの、アタシ・・・・・・。」とつぶやいてしゃがみこんでいた。
次の日から俺たちの関係はギクシャクし始めた。
当然だろう、あんなことがあったのだから。
それでも、リルは俺に勉強を教えることを途中で放り出すようなことはしなかった。
責任感の強い女なのだと思う。
俺は、好きと言われたことで、変にリルを意識してしまうようになった。
そう、リルだって、悪くは無い。でも俺は・・・・・・!
「アーク、そこ、間違えてる。」
「え、あ、わりい。」
「ここんとこ、上の空だね。アタシといるの、そんなにいや?」
「別に。リルには・・・・・・その、感謝してるよ。」
そう言うと、リルは顔を真っ赤にして、「ばっかじゃないの!?今更感謝してるとか遅すぎ!」と言った。
なんだよ、こっちは素直に感謝してるって言っただけだろ。バカ呼ばわりされる筋合いはない。
そんな風にみっちりリルには勉強を教わって、それなりの小物モンスターも倒せるようになった。
カナンはやたら「すごいすごぉい!」と騒ぎ出し、ラルさんは「上達したわねぇ・・・・・・。」とのほほんと笑っていた。
俺のこの成長を素直に喜んでくれなかったのは、リルだけだった。
リルは複雑そうな顔をしたまま黙り込んでいる。
せっかくこっちはモンスター討伐までいけるようになったのに、そのしけた顔はやめてほしい。
「リル、何黙り込んでんだよ?」
「ねぇアーク、答えてよ。」
質問してるのは俺だろ?と思ったが、それはあえて言わずに、うなずいた。
「アタシってさ、必要?もう、いらなくない?」
「何言ってるんだよ?リルがいたからここまで来れたんだろ。それにまだまだリルのほうが上だしな・・・・・・。」
「でも、アタシ、あんたに教えることほぼ無い。基本は教えたし、それを発展させていくだけなの。発展は人に教わるものじゃない。独自に自分が進化して自分だけの技や強さが生まれるの。でさ、もう一つ聞きたいんだけど・・・・・・。」
「なんだよ?」
「アークは、お姉ちゃんのこと、まだ好き?」
「え?あ・・・・・・まぁ。」
「アタシは、一生眼中に入らない?」
「そんなことは・・・・・・ない・・・・・・と、思う。」
「カナンって子は?」
いきなりカナンを出され、俺はただただ驚くことしか出来ない。
「は?カナン?あいつに何の関係があるんだよ?」
「あの子、あんたのこと、好きだよ?あの子は一生、眼中にはいらない?それとも、アタシもあの子と同じ?」
「まてよ、俺はお子様はごめんだ。」
苦笑すると、リルは小さく「そう。」と言って笑った。
「なら、これからもまだまだ鍛えてあげる!覚悟しなよね!!」
「ゲー!!」
これは、後に生まれる勇者の始まりの物語である。
勇者はその後、魔物を倒し、英雄とされたが、その体はすでに傷つき、相打ちになって体から魂は滅してしまっていたと言われる。
勇者帰還のさい、その村で有名になった美女二人が勇者の元へ駆け寄り、目も当てられぬほど悲しみにくれていたという。
数日後、その二人はどちらもふらりと村から消えてしまった。二人が最後に村人達に目撃されている日が別々なことから、二人で行動したわけではないことは分かっているが、二人の行方は今もしれない。
どこかで新しい人生をはじめたか、あるいは・・・・・・である。
またどこかで出会うまで、幼き頃の話は端折られて、三人が有名になるまで、伝説として語り継がれることだろう。
再び、同じ運命が、巡るその時まで―――……。
「ママー!!僕も勇者様になりたい!!」
「そうなの、ふふ。じゃあ、悪いモンスターからママを守ってね。」
「うん!!」