色魔
翌日、モジモジしたリルが俺の部屋に来た。
リルの格好はいつもよりも短いのではないかと思うほど短いスカートに、服の上からでもブラジャーの形がはっきりと分かってしまうような肩丸出しピッチピッチの格好をしていた。
一方真っ赤になってモジモジしているリルは・・・・・・。
き、昨日は散々カナンって子に邪魔されたしっ・・・・・・思えば教えてる最中は二人っきりなんだから、色仕掛けをしてみてもいいわけだよね?
アークは巨乳が好きなわけだし・・・・・・ううっ、でも、ちょっと無理しすぎたかな?
昔のお気に入りの服を着てみたけど、すごいきつい・・・・・・鏡の前でもチェックしたけど、やっぱり軽い女っぽい?
や、どうしよう~?アークが怪訝そうな顔でアタシを見てるよ~!
「なんだよ、トイレくらい自分の家でしてこなかったのか?」
「ば、バカ!トイレなんかじゃない!」
「ふ~ん、まあいいけど、お前今日はずいぶん薄着だな~。」
「そ、そう?ちょっと暑くて・・・・・・。」
「そうか?」
ごまかしたはいいけど・・・・・・。
どうしよう・・・・・・歩いただけでパンツ見えちゃいそう・・・・・・。
薄ピンクの下着って、確か男性受けよかったよね!?
下着、上下セットだし、何度もチェックしたし、だ、大丈夫、だよね?
「ア、アークッ!」
「ん?」
「タルト・・・・・・持ってきたから、後で食べよう・・・・・・か?」
「おう!」
アークは無邪気な顔で笑った。
うん、アタシもがんばろう。
今は、アークの先生・・・・・・だもんね?
しばらくしてからアタシがいつ仕掛けていいかわからなくてパニックに陥ったのでおやつタイムにした。
アタシのタルトをアークは幸せそうに食べている。
それはアタシにとって一番嬉しいことだった。
「アークってさ、本当にタルト好きだね~。」
「おう!上手いからな!」
まるで自分が上手だって言われてるみたいでちょっと照れる。
「・・・・・・それはアタシのタルトがおいしいって言ってるのかな~?それとも、タルトならなんでもいいの?」
アタシが意地悪に問い詰めるとアークはタルトにかぶりついたまま言った。
「リルのが上手い。」
思わず赤面してしまった。
「え!?」
「俺の好きなフルーツとか沢山入ってるし、売ってるのよりボリュームもあるからな。」
あ、な、なんだ、そういうことか・・・・・・。
そりゃ、あんたのために練習したんだもん。
アークの好きなフルーツも一生懸命調べて、家族にも認めてもらえて、アークもおいしいって言ってくれて・・・・・・。
でも、アークはお姉ちゃんが作ったんだと思ってたよね。
それでもよかったの。
アタシはそれでもアークの嬉しそうな顔が見れるならそれでよかった。
アークはお姉ちゃんの料理をべた褒めしてて、タルトもべた褒めしてた。
・・・・・・ずっと。
"それは、アタシが作ったんだよ。"
何度もいいそうになった。
でも、素直に言えなかった。
もし、アークがお姉ちゃんが作ったんだと思ってあんなに幸せそうに食べてるなら、その表情を失いたくなかった。
だから、憎まれ口を言って、アークもそれを返してきて、何度自分が嫌になったか・・・・・・。
でも、アークは昨日確かにアタシがタルトを作っていたことを知っていた。
いつからかお姉ちゃんにタルトの話をしなくなってて、そのときから、もしかしてアタシが作ってたって知ってたのかな?
アタシは何度も"お姉ちゃんが作った"とウソを言ったけどアークはアタシのだと知っててもこーゆー顔を見せてくれる。
それが、すごく嬉しくて、アタシは初めて、本当に正真正銘お姉ちゃんに勝つことができた。
まだ、たった一つなんだけど・・・・・・それでも、嬉しいな・・・・・・。
アークの隣で横顔を見ていたら、不意に目が合って思わず、思いっきり目をそらしちゃった。
「リル、聞きたいことあるんだけどさ、治癒系、攻撃系とモンスターがいるだろ?その中で変なの見つけたんだ。色魔ってなんだ?」
アタシはギョッとした。
色魔、それはアタシ達人間で言うと女ったらしの男のことを言う。
でも、モンスターではまた別だ。
女性は自分の好きな人、あるいは好みのタイプの人にモンスターが化け、その快楽に落ちたものは同じ色魔となって、新たな餌を求めるようになる。
色魔の存在は幻のようで、実態がはっきりしていなくて、倒し方もよく分かっていない。
どうやら実際はゾンビみたいになっていて、外見も不気味なのではないかという説もあるけど、とにかく戦い方も、勝つ方法も分からないから色魔に会ったときは逃げるしかない。
だけど、色魔の幻に包まれてしまうとその人間が望む性欲に関することが現実のように繰り広げられる。
だから、逃げることも至難の業だといわれている。
男の人の場合ハーレム状態になるのだとか・・・・・・。
でも、幻に負けたらゾンビになるなんて・・・・・・。
幻と戦う方法も分からないし・・・・・・逃げ切れるかも謎。
そんなモンスターに会いたくはないな。
色魔の森で男女平等に行くという実験があった。
死刑囚達を色魔の森へ送り込み、また同じ場所に戻ってこさせるというものだったけど、色魔の森は一面崖だらけ。
出入り口はひとつしかなくて、死刑囚達は森で逃げようとしたけれど、必死で逃げ、ちゃんと出口まで戻ってきた人間は25人中3人。
しかも3人とも女性。
25人中15人が男性で10人が女性だったにも関わらず女性しか帰ってこなかったという。
死刑囚で一番初めに帰ってきた女性、レールイ・ファガーは、家族思いの子持ち。
性格は頑固で真面目。
罪は、人殺し。
家族を守るための正当防衛だったと言い張っているけど、その家族と殺された被害者との関係性がまったくつかめなくて死刑行き。
死刑囚で、二番目に帰ってきた女性、ルル・ナガエ。
彼女の性格はオドオドしていて極度の男嫌い。
だけど、同性愛ではないみたい。
罪は両親殺し。
彼女は虐待を受けていて、父親からは性的虐待を受けていたとか。
三番目に帰ってきた女性、ジェリー・ミシカムは、幻が効かないタイプ。
タイプと言うよりは、体質。
性格はおっとりしていて優しい。
罪は、犯罪者を庇ったこと。
いろんな国から集められた死刑囚達の中にはこんなことで死刑になるの!?って人も居たけど、革命とかが起こってる国では敵国民や、敵民族を庇っただけで死刑になるって言うのは割とよく聞く話。
ジェリーに関しては彼女もその"良くある話"の一人だった。
ジェリーは後にPTSD(=心的外傷後ストレス障害)になったとの記述も残されているけど、幻が効かない彼女にとって魔法では倒せない相手だったらしい。
外見は彼女が取り乱してしまうため聞き出せなかったけど、取り乱しぶりから見て不気味な外見をしている魔物だといわれている。
そのことは、一般授業では詳しく習わないのだけど、アタシは個人的に調べたので知っているって感じかな。
「おい、リル?」
「ああ、ごめん、えっと、色魔っていうのはね・・・・・・」
アタシがひとしきりの説明を終えると、アークはポカーンとしていた。
「用は、自分の好きな人とかに相手が化けるんだよ。だから、色魔に襲われて色魔になっちゃう人もいるって話。色魔の森は毎年変わっているけど、大体同じようなところらしくて、出入り口がひとつしかない深い森のようなところによく出るらしいの。幸いここはそんな森がないから色魔に関しての注意や警戒も薄いけど、ある国ではお話にしたり、昔からのお告げみたいにして語り継いでるみたいだね。」
「おっそろしいな。」
「そうだよね、アークなんか一発でやられちゃいそう。」
アタシがそう言って苦笑するとアークがちょっと怒った。
「何を!?俺は、そんな簡単に手を出す男じゃねーぞ!?」
「へ~?試してみる?」
今だ!と思ってアークの腕にしがみついた。