牛!
「アーク?アークさーん?」
幼馴染に自分の名前を呼ばれて俺は叫び返した。
「なんだよ~!!」
「あ!こんなとこにいた!もう!おねーちゃんが呼んでますよーっだ!!」
何故か怒られ、あっかんべーとされる。
「まじ!?ラルさんが俺に!?」
「・・・・・・お姉ちゃんばっかり・・・・・・アタシだって見てくれてもよくない・・・・・・?」
「なんかいったか?」
あかんべーのまま固まっている幼馴染、リルにたずねた。
「何も言ってませーん・・・・・・気づいてよにぶチン・・・・・・。」
「それより、ひでぇ顔だぞ?」
すると平手打ちされた。
「サイッテ―――!!」
リルの姉、ラルさんはリルとは違う優しい性格の持ち主で、俺があこがれる人であり、好きな人だ。
リルはご覧の通り凶暴で、なんか知らないけど殴られたりして暴力的だから困っている。
「なんなんだよ。」
「なんなんだよ、じゃない!いっときますけど、お姉ちゃん、彼氏いるんだからね!」
「・・・・・・知ってるよ!」
ラルさんには彼氏がいる。
認めたくないし、悔しいことだけど・・・・・・ラルさんには少なくとも俺より背も高くてかっこいい彼氏がいる。
そりゃそーだよなぁ・・・・・・あんなにスタイル良くて、可愛くて、優しい人がいつまでもフリーのはずねーよ。
俺より2つくらい年上だし。
チラリとリルを見た。
「・・・・・・な、何?」
「・・・・・・はぁ、お前はラルさんらしくなれんのか?似たのはそのでっかい胸だけかよ?」
また殴られた。
いや、拳で頭だからさっきの頬平手より数倍痛い。
「いでぇ!」
思わず涙が溢れて鼻声になってしまった。
「ほんっと、さいって―――!最初からため息とかありえないし!それにお姉ちゃんとアタシを比べないで!・・・・・・っとに・・・・・・どうしてアタシはこんな最低な奴が好きなんだろう・・・・・・。」
「・・・・・・だから、なんだよ?さっきからぼそぼそ言い過ぎじゃね?」
「お前が最低だといったんだ馬鹿!!」
さらに勢いよく殴られ、涙声で言った。
「児童虐待・・・・・・。」
「は!?あんた、児童なの!?そんなに小さい子だったっけ!?」
う、そうだった。
「うるせー。」
「おにーちゃー。」
ポテポテと歩いてきた女の子は向かいに住む子だった。
「あそんでぇ?」
10歳を過ぎてからやたらにマセガキになったカナンは俺にやたらとかまって欲しがる。
「あ・・・・・・ごめん、ラルさんに呼ばれてるんだ。リル、お前暇だろ?カナンの相手してやってくれよ。」
「ええ~やだぁ!おにーちゃんがいい!」
やたらと体をグネグネさせて頭まで振って・・・・・・目、回らないのか?
「ちょ、アタシのどこが不満なの?少なくともこんなにぶチンなんかよりアタシと遊んだほうが楽しいでしょ!」
リルは子供相手に突っかかってるし・・・・・・ああ、でも最近カナンの回りはそんな奴らばっかりか。
だから俺にかまって欲しがるのかな?
「うるさいなぁ、オバサンはだまっててよぉ。」
「おば・・・・・・!?失礼ね!だったらアークだっておじさんだからね!」
「おにーちゃんはおにーちゃんだもーん。」
「なんだとぉ!この貧乳マセガキ!!」
「若いって言うの~それに大きければいいってものじゃありませーん。」
ああ、なんて低レベルな戦いなんだろう。
さて、この隙に・・・・・・。
「ないよりはマシでしょ!」
「うう・・・・・・なにさ・・・・・・牛!」
「なっ!」
リルがそのまま固まり、カナンは勝ち誇った顔でこっちにきた。
「ぶっ!」
やばい、牛がツボに入った。
「な、アーク!笑うな!大体、アタシが牛ならおねえちゃんだって牛だからね!」
「いや、ははは!そうだな、でも牛か・・・・・・考えたことも無かったよ!でも確かに牛だ!姉妹そろって胸でかいもんな!」
「う、牛ほどでかくなーい!!」
顔を真っ赤にして怒るリルをよそにカナンは言った。
「お兄ちゃんはスレンダーな方が好きだよね?」
「んー・・・・・・」
言いかけたとたんにリルに邪魔された。
「残念でした!アークは牛のほうが好きなの!アークが好きなのは・・・・・・好きなのは!アタシの・・・・・・アタシのお姉ちゃん・・・・・・なんだから・・・・・・。」
だんだん泣きそうになるリルをよそにカナンはにやりと笑った。
「同じ牛でもあんたは対象外ってわけ?」
「うるさい!あんたもでしょうが!しかも牛でもないしね!」
「いやーん、あのおねーちゃんこわーい。おにーちゃんたすけてぇ?」
そう言って俺の影に隠れたカナン。
「だから俺は・・・・・・」
「用事があるんでしょ!さっさと行け!」
またもやリルに邪魔され、外へと押し出され俺は軽く笑った。
「サンキュ、カナンといると抜け出せなくなるんだ。俺はラルさんとこ行ってくる。」
するとリルは俯いて何かつぶやきだした。
「・・・・・・人の気持ちも知らないで幸せそうに笑って・・・・・・どうして?アークはどうしてアタシじゃダメなの・・・・・・?」
「おい?どうしたんだよ?」
「なんでもない!鼻の下伸ばしてるんじゃないって言っただけ!」
さらに強く押し出されて、覗き込もうとした顔を見れずに外へと出た。
「変な奴だなぁ・・・・・・。」
急に元気が無くなったり怒ったり・・・・・・もしかして・・・・・・情緒不安定なのか!?
まぁいいや、ラルさんのとこ行こう。