15億払って美少年な神様を飼うことになりました。
タワマンの24階。
リビングのイタリア製ソファの上では、
ポチ――真一の好みにぶっ刺さりすぎている美少年風の自称神様が、正座をしてカタカタと震えていた。
「ち、小さい方なら……」
上目遣い。ウルウルした瞳。長いまつ毛。
普通の男なら「しょうがないな」と許してしまうかもしれない悪魔的な可愛さだった。俺だって、3日前の自分ならそうしていたと思う。
だが、今の俺は違う。俺の脳内で『何か』が音も立てずにパカッと開いてしまったのだ。一度開いたドアは、もう閉じやしない。
「だめだ。大きい方だ」
「デカい方抜かれたらマジで魂まで全部抜けて、ただの『完璧な空っぽの美少年』になっちゃうの!! 殻しか残らんの!!」
「構わん。殻になったら俺が膝の上で養う」
「養うな!! 恐怖の飼育計画を語るな!!」
ポチは叫び、股間とお尻を同時にガードするような、妙なポーズをとった――かわいい。
だが、そもそもだ。
月額15億8千万円という、それなりの金を「神様維持費定額プラン」としてコイツに振り込んだのに、公園の砂場で黄色いスコップを持たされ、マーロン・イスクの私設親衛隊に囲まれた挙句、『幸運を祈る』と書かれた置き手紙一つで蒸発されかけたのだ。
――神なのに、お前が祈ってどうする!
あの時はマジで全力でツッコんだ。空虚な部屋に俺の声だけが響いて、めちゃくちゃ虚しかった。
「あのさぁ真一……僕たち、もっとこう……ビジネスライクな関係じゃなかった? ほら、3年でマーロン・イスク超えさせるっていう……あ、そういえばあいつ、一回僕のこと門前払いしたんだよね。超失礼じゃない? 警備員呼ぶんだよ? 神様に向かってさ。だから真一を使ってあいつの鼻を明かしてやろうと思ったんだけど……」
「私怨じゃねえか」
「あ、でも15億の使い道はちゃんと考えてたよ! ベガスに行ってルーレットの赤に全額ぶち込んで、勝ったら孤児院建てるつもりだったし!」
「最悪の資金運用をするな。あとお前、絶対に貧乏神だろ」
「っそ、そんなわけねーし……」
ポチはスッと目を逸らすと、口をすぼめて口笛を吹き始めた。
流れてきたのは、プッチーニの歌劇『ジャンニ・スキッキ』から「私のお父さん」。親を脅迫して他人の遺産を横領するオペラの名曲だ。しかも無駄にプロ級の美音とヴィブラート。
「なんでそんな不吉な遺産相続詐欺のオペラを完璧に演奏できてんだよ。嘘下手か」
口笛がピタッと止まる。
「とにかく! 15億の担保だ。大きい方の尻子玉を出せ」
「だからなんで河童みたいなシステムが僕に内蔵されてる前提なんだよ! 減るわ! 魂が減るわ!」
「減ったら補充すればいい。来月の15億でな」
「……え?」
ポチがポカンと口を開けた。
俺はソファーの背もたれに深く体を預け、冷めたマルゲリータの最後の耳を口に放り込んだ。ブニョブニョしてまずい。
はぁ。今度からピザは違う店で頼もうか――そういえば隣の町内の美味しいパン屋が潰れたって言ってたな。個人商店が資本の波に飲まれるのは本当に悲しいことだ。
「……真一、いま『来月の15億』って言った?」
「ああ」
「あんなに怒ってたのに……また払ってくれるの……?」
ポチの顔に、現金な明るい笑みが浮かぶ。
くっ。なんだその顔は。
ヘテロだったはずの俺の理性が、砂の城みたいにサラサラと崩れていく。
15億の価値がある貧乏神。いや、15億払ってでも手元に置いておきたい造形美――。
「ただし」
俺は低い声で言い、ポチに向かって人差し指を突きつけた。
「毎朝俺の膝の上で朝食を食べること。あと、たまに頭を撫でさせろ。それと、デカい方の尻子玉だ」
「最後のが重すぎるんだよ!!」
ポチの悲鳴が、タワマンの防音壁にしなやかに吸収されて消えていった。
俺たちの不条理な契約更新交渉は、夜が明けたとて終わることはないだろう。
応援よろしくお願いいたします!




