アメリカと4つの文明(5/5)
休憩が明け、閣僚たちが戻ってくると、
国防総省の分析官たちがすでにスクリーンを起動していた。
空気には、戻ってきたばかりとは思えない緊張があった。
* *
国防長官が椅子に腰を下ろすと同時に、分析官が口を開く。
「大統領。北米周辺の地形データを再解析しました。
結論から申し上げます――北に、巨大な新大陸が存在します」
会議室がざわつく。
NSA補佐官がスクリーンを指した。
「位置としてはカナダに相当しますが……
カナダ本土よりも大きい陸塊です。形状は地球のどの大陸にも該当しません」
拡大された地形図は、まったく未知の線を描いていた。
* *
国務長官が震えた声で問う。
「……空中都市がどうこうという話だったはずだ。
北のこの陸地は何だ?」
分析官は淡々と答える。
「観測データが混乱していた理由は、
複数の文明圏が同時に存在していたためです。
そのため報告に遅れが出ました」
大統領の目が険しくなる。
「……その大陸には何がいる?」
スライドが切り替わった。
草原。森。粗末な集落。
その間を――耳が明らかに高いヒューマノイドたちが歩いていた。
国務長官が椅子から身を乗り出す。
「……人間、なのか?」
「推定ですが――ケモ耳……獣耳型の人型生物です。
武器は石器・槍。建築物は木造。
文明レベルは部族単位と思われます」
会議室の誰もが言葉を失った。
商務長官がぽつりと呟く。
「空には都市が浮いてて……その下がケモ耳の原始部族……
アメリカは丸ごと迷い込んで……
世界観めちゃくちゃだな……」
財務長官が乾いた笑いを漏らす。
「ゲームの世界だって言ってくれれば、
むしろ予算編成が楽なんだがな」
* *
国防長官が口を開く。
「……どうやら我々が初接触する相手は、
超文明でもなく、この北の部族の可能性が高い」
大統領は静かにうなずいた。
「まずは北だ。危険度は低い。
だが、彼らの反応は未知数だ。偵察を続けろ」
分析官が追加資料を開く。
「北の大陸以外にも――
西、南、東方向に、それぞれ文明レベルの違う巨大大陸が一つずつ確認されています。
次に、北東方向に広がる《北東文明圏》の断片情報をお見せします」
空気が変わった。
会議室の温度が一段下がったような沈黙が広がる。
スライドが切り替わる。
山肌に食い込む、蒸気を吐く巨大な多層都市。
「大陸北部――便宜上《帝国》。
外観はスチームパンク風ですが、動力は説明不能です。
蒸気の熱量と排出量が一致しません。
未知エネルギーの併用が疑われます」
商務長官が眉間を押さえる。
「……本当にスチームパンクの国が出てくるとはな」
再びスライド。
一直線に連なる巨大工業都市。
赤黒い塔が点在し、地平線まで軍事施設の影が伸びる。
「中央~東部。《連邦》。
重工業中心の軍民一体国家。」
国防長官が小さく呻く。
「旧ソ連を魔改造したような……そんな雰囲気だな」
そして、白銀色の塔と円環構造の都市。
空に漂う発光体が、鳥ではない軌道で滑空する。
「大陸西側。《連合圏》。
三勢力の中で最も洗練された技術体系に見えます。
都市か生態システムか判断がつかず、建造物と自然の境界が曖昧です」
* *
分析官は資料を閉じた。
「以上が、北東文明圏の三大ブロックに関する推定です。
いずれも我々の技術体系では評価不能。
“比較対象が存在しない”というのが現状です」
商務長官が頭を抱える。
「スチームパンク帝国、軍事超国家、自然都市国家……
そんなもんが北東に三つ固まってるとか……悪い冗談だ」
国防長官が深くうなずいた。
「冗談なら、どれほど良かったか」
* *
分析官がスライドを切り替えた。
今度の画像は、靄のような雲と、そこに浮かぶ巨大な影だけで構成されていた。
「次に、南東方向です。
こちらは解析が極めて難航しています。
雲の下に広大な密林と、大型の移動影が多数確認されました」
国務長官が眉をひそめる。
「……影? 建造物か?」
「判別不能です。
ただし――ひとつだけ明確なのは、影のサイズが異常だということです」
スクリーンには、対比としてU-2の高度・地表距離・影の伸び方が表示されていた。
「推定ですが、
100m以上の単一影が十数個、
さらに1km以上の移動影が、少なくとも二つ確認されています。」
会議室が静まり返る。
「……1キロ? 山が動いてるのか?」
商務長官が呟く。
「可能性としては生物もしくは移動要塞ですが、
現状では判断できません。
熱源が極端に不規則で、建造物らしい形状も確認できません」
「つまり、
よく分からないが、とてつもなく巨大な何かが南東にいる……と?」
「はい。それが確実に言えるすべてです」
NSA補佐官が小声で付け加える。
「さらに、U-2が高度20kmから観測した際、
南東方向の大気に電子障害のような乱れが一時的に発生しました。
EMPとも違う波形で……正直、説明不能です」
科学技術政策局長官が息を呑む。
「自然現象……ではなさそうだな」
「未確認です。ただ……
すべてが自然では説明できない領域にあるのは確かです」
分析官は、次のスライドを開く前に一度言葉を選んだ。
「最後に、南西方向――
こちらも文明と呼べるのか判断が難しい地域です」
スクリーンに映ったのは、
荒野に立つ巨大な構造物のシルエットだった。
「まず、南西一帯に点在する巨大構造物が複数確認されています。
ただしいずれも劣化が激しく、稼働しているのかは不明です」
「遺跡……に見えるな」
国務長官が呟く。
「そう推定しています。
ただし重要なのは、その一部が移動しているように見える点です」
「……移動?」
国防長官が身を乗り出す。
「高度20kmからの数回の観測で、
位置が数百メートル~複数キロ単位で変動していました。
地震、雲影、光学錯覚の可能性もありますが……
明確な理由はつかめません」
続く画像には、雲を突き破る塔のようなものが映っていた。
しかし、輪郭は曖昧で、地表との接続も分からない。
「これが最も異常だった構造物です。
高さは最低でも2km以上。
自然地形では説明できません。
ただし兵器かどうかは全く不明です」
科学技術政策局長官が低く呟く。
「……古代文明の遺跡にも見えるし、
超大型の発電設備にも見える……」
「いずれにしても、
U-2の観測だけでは決定的情報は得られません。
判明しているのは、
南西には人類が作ったものとは思えない規模の廃墟群がある
――という事実だけです」
財務長官が額に手を当てながら呟いた。
「……見えない、分からない、判断できない……
そんな場所だらけだな、この世界は」




