つかの間の休憩時間
会議室の扉が静かに閉まった。
数分だけの短い休憩。
だが、その短さと同じくらい、この状況では“永遠”のように感じられた。
* *
国務長官は廊下の簡易テーブルで紙コップのコーヒーを受け取り、
深々とため息をついた。
「……空飛ぶ都市に、レーダー照射か。
私のキャリアで一番意味不明な日だよ」
隣にいた商務長官が、コップをひねりながら苦笑する。
「意味不明ですんだらいいけどな。
次は空飛ぶ交渉でも始まるか?」
「空飛ぶ戦争、かもしれん」
国務長官は顔をしかめた。
諦めにも似た笑いがこぼれる。
だがその笑いは空気を軽くするどころか、むしろ現実の深刻さを浮かび上がらせた。
* *
NSA補佐官は壁にもたれ、
タブレットに表示された空中都市の影の画像を見つめていた。
そこへ、財務長官が歩み寄る。
「……ねえ、聞いてもいいか?」
「どうぞ」
財務長官は声を潜め、震えを抑えようとした。
「もしあれが本当に都市で、あの浮揚技術が本物なら……
我々の戦略モデル、全部ひっくり返るよな?」
補佐官はわずかに眉を動かし、皮肉気に言う。
「戦略どころか物理法則がひっくり返ります。
議会予算委員会の地獄とは比べ物になりませんよ」
「……頼むから、その冗談で笑わせてくれ」
「笑ってますよ、大臣。顔が引きつってるだけで」
財務長官は額を押さえた。
* *
国防長官は、コーヒーも取らずに静かに立っていた。
背中に貼りついたような疲労の気配。
空軍参謀総長が近寄り、小声で話しかける。
「……正直、どう思う?」
「どう、とは?」
「未知文明だ。冷戦の頃でさえ未知との遭遇なんて想定しなかった」
国防長官は、乾いた笑いをひとつ漏らした。
「冷戦時代は核で地球を破壊できると思っていた。
今は……空中都市に怯える日が来た」
参謀は息を呑んだ。
国防長官は続ける。
「だが、結局やることは変わらない。
最悪を想定して動く。
それが我々の仕事だ」
「……了解しました、長官」
* *
その後ろで、副大統領とエネルギー長官が顔を寄せ合っていた。
「異世界、か……映画よりひどいな」
「映画なら主人公が解決してくれる。
だが今回は、我々が主人公なんですよ……」
二人は顔を見合わせ、同時に肩を落とした。
* *
やがてアナウンスが鳴り、休憩は終わる。
誰もが深呼吸し、再び会議室へ戻っていく。




