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アメリカと空中文明圏(1/5)

 2026年。北アメリカ大陸は、突如として地球から消滅した。


 その瞬間を地上で目撃した者はいない。だが結果として、アメリカ合衆国は世界から切り離され、たった一夜にして孤立した国家となった。


 最初の数時間、国中は混乱しきっていた。

 海外からの通信は一斉に途絶え、国務省も軍も、どの国とも連絡が取れない。ニュース専門チャンネルには専門家が呼ばれ続けたが、誰も世界規模の沈黙に説明をつけられなかった。


 電話も、衛星通信も、インターネットの国際回線も——すべてが遮断されている。


 「サイバー攻撃か?」「核攻撃の前兆か?」「地球規模の災害?」

 憶測が憶測を呼び、全州でデマやパニックが広がった。州兵の出動を求める声さえ上がる。


 大統領府は事態の重大さを理解し、即座に国家安全保障会議(NSC)を招集した。

 情報は断片的で、しかも矛盾していた。

 国防総省は「衛星48機が沈黙」と報告し、気象観測網は「太陽位置の誤差」を訴え、NASAは「ISSと連絡が取れない、星図が一致しない」と混乱を続けている。


 もはや、何が現実なのかさえ誰にも分からない。



  「諸外国からの連絡が一切途絶えたのは本当なのか?」


 大統領からの質問に国務長官がわずかに声を震わせながら返事をした。


 「……はい。すべての外交ルート、軍事回線、民間通信ともに応答がありません。そして、メキシコ、ハワイ、日本、南米、欧米諸国が消失したことをU-2高高度偵察機で確認しました。」


 国務長官の報告に室内ではざわめきが起こった。


「信じがたいことですが事実あらゆる国からの連絡が一切途絶えた現状では我々、アメリカ合衆国は別の世界に出現したと考えるのが妥当だと考えます。」


 これに商務長官が発言する。 


 「となると今まで海外から輸入してきた半導体、レアアース、医療機材は?今、国内はAI、テック産業に全振りしてるんだぞ……!? 供給の七割以上がアジア、欧州からの輸入だ! それが全部、まるごと消えたら——」


 商務長官は言いかけて言葉を失った。

 室内に一瞬、重い沈黙が落ちる。


 国防長官が机を指で叩きながら声を上げる。

 「最大の問題は、国境の消失だけではない。衛星インフラの喪失により、軍事指揮系統が部分的に麻痺している。GPS精度は致命的に落ちている。航空路、艦艇航行、ミサイル誘導……すべてが影響を受ける」


 「そんな……我々はまるで、数十年前の時代に逆戻りしたのか?」

 財務長官が呟く。


 国家安全保障問題担当大統領補佐官(NSA)がタブレットを掲げる。

 「さらに追加情報です。先ほどU-2から送られた画像ですが……北太平洋に、地球上に存在しなかった巨大な大陸が確認されました。形状・地質・植生、どれも既存のデータと一致しません」


 再び、会議室がざわめきで満ちた。


 会議室中央のスクリーンに、黒い宇宙空間を背景にした未知の大陸の写真が映し出される。

 白い雲海の下、見たこともない海岸線が広がっていた。大陸中心部には、シミのように滲む巨大な緑の塊。森林だ。だが衛星データとの照合ができない今、その規模すら推測に過ぎない。


 誰もが息を呑んだ。


 「……これは、本当に地球なのか?」

 財務長官の声は震えていた。


 NSA補佐官が表情を変えずに答える。

 「現時点で確認できる星図は地球のものと一致していません。NASAは恒星配置、惑星の大きさそのものが違うと報告しています。

 さらに——惑星磁場の強度も変動しています」


 「磁場が変わった? そんな馬鹿な……」

 エネルギー長官が頭を抱える。


 「異世界……?」

 誰かが呟いた。


 その言葉は、誰も笑わなかった。


 空気が張り詰めた中、国防長官が地図上の北アメリカ大陸を指し示した。


 「我々は今、単独国家として存在している。隣国はいない。

 敵も友もなく、ただ——知らない世界に放り込まれた」


 「では、軍の展開方針は?」

 大統領が問いかける。


 国務長官が口を開いた。

 「まず大前提として、我々は外交の相手を失いました。

 国際法は消滅し、国際連合も、条約網も存在しません。

 軍事バランスは完全にリセットされ、アメリカは世界の中の超大国ではなく、孤立した文明圏となりました」


 この言葉に、会議室は再び静まり返る。


 商務長官が続ける。

 「経済面では最悪です。輸入依存の医療資材、レアアース、半導体……。

 AIクラスタの95%は海外サプライチェーン頼りだった。

 ——間違いなく数カ月以内に国家インフラが止まります」


 「冗談じゃない……」

 農務長官が顔をしかめる。

 「食料は当面持つ。しかし長期的には肥料の輸入が止まり、耕作帯に影響が出る。地球の農業システムはアメリカ一国だけでは成り立たない」


 大統領が深く息をつき、全員の顔を見回す。


 「では、はっきりさせよう。

 ——アメリカ合衆国はどこにいる?」


 その問いへの答えを、NSA補佐官が宣告した。


 「我々は、地球ではない場所に存在している可能性が極めて高い。

 敵性文明の痕跡はまだ確認されていませんが……

 U-2がギリギリ観測した新大陸の沿岸に、「未確認の人工構造物らしき影」があると報告しています」


 会議室が凍った。


 「人工物……? ということは——」


 「はい。

 この世界には「誰か」がいます。

 そして我々は、すでに見られている可能性がある」


「さっき判明した情報なのですが……U-2に向けてレーダー波が、発射されました……現地文明は最低でも冷戦後期の文明レベルです」


 会議室の空気が、ひときわ鋭く張り詰めた。


 国防長官が目を細める。

 「……レーダー波だと? こちらの機体に、だと?」


「……それにです。偵察結果によると、空中に浮かぶ比較的に大きいサイズの島群、いや、都市群が確認されたそうです」


 国防長官の表情が、わずかに固まった。


 「空中……都市群だと?」

 その声は、室内の誰よりも低く、重かった。


 NSA補佐官がタブレットを操作し、画像を拡大する。

 スクリーンには、雲海の上に浮かぶ黒いシルエットが映し出された。


 「これがその画像です。

 U-2が高度20km近くから撮影した浮遊構造物群——おそらく都市規模です」


 スクリーンに映った輪郭は、島のようにも、巨大な建築物群にも見える。

 だが海面との接地部がない。影は、明確に空中へ伸びていた。


 誰もが言葉を失う。


 「……あり得ない。何がどうなっている?」

 科学技術政策局(OSTP)長官が目を見開く。

 「これは航空機などではない。構造物の規模から見て、都市単位の浮揚技術が存在している。

 つまり——相手は我々よりも進んだ何かを持っている可能性が高い」


 「つまり、我々より上の技術文明……?」

 商務長官が乾いた声を漏らした。


 「断定はできませんが、少なくとも、

 冷戦後期レベルのレーダー技術と都市級の反重力的浮揚構造

 ——この二つを両立できる文明です。

 物理法則を曲げているのか、未知のエネルギーを使っているのか……現時点では判断不能です」


 会議室は完全に静まり返った。

 


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