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03 子供でしょ?


「……君は?」

「イリス・トリーヴェルダと申します」

「守護騎士に選ばれたっていう? トリーヴェルダ伯爵家の男子?」

「はい」


 青年は白銀の髪をしていて、襟足だけがやけに長く伸ばされていた。腰の辺りまで届くだろう。詰め襟の、ぴったりとした白い装束に身を包んでいる。


(綺麗な男の人だなぁ)


 イリスは兜を脱ぎつつ、青年の顔や姿にみとれていた。横になっていても長身であることや手足がすらりと長いことがわかる。

 全身が光を帯びているかのように美しい。


「これは何の冗談なんだ? 神殿は私をからかっているのか? 散々断っても聞き入れず、どうあっても騎士を派遣すると言うから、怖がらせないようにと人の姿になってやっていたというのに……。子供じゃないか!」

「ええと……あなたはセフィドリーフ様でしょうか?」

「そうだよ。君はどこの子?」


 聖獣様は人の姿にもなれるのか! これは凄い。凄いことばかりで、何に一番驚いたらいいのか悩むくらいだ。

 しかしどうも誤解されているらしいので、感動するのは後にして、まずはこちらも説明してわかってもらわないとならないだろう。


「私は子供ではありません」

「子供だよ」

「いえ、あの……成人しております。二十三を過ぎています」


 セフィドリーフは眉間に深いしわを刻んでいる。輝く(かんばせ)は納得がいかないように歪んでいた。


「アエラス」


 と彼は空中に目を向けて声をかける。


「人間の寿命って百年くらいだったね?」

『そうですよ』


 遠いような近いようなところから、少年らしい明るい声が聞こえてくる。


「いくつくらいで大人と言うんだっけ?」

『成人と認められるのは時代によって異なるそうですが、二十歳くらいでしょうね』

「彼は大人だっていうのか?」

『そうなのでしょう』

「最近の人間は、大人になってもこんなに子供っぽいっていうのか」


 瞬きを繰り返していたイリスは、二人の話に口をはさんだ。


「すみません、私は特別子供っぽい見た目をしていると言われますので……私が特殊なだけかと……」


 ちら、とセフィドリーフはイリスに視線を投げる。


「じゃあ君は、神殿が馬鹿みたいな占いで選んだ貴族の家の成人男子で、私を守るための守護騎士としてここまで来たと、こう言うんだね?」

「はいっ!」


 笑顔でイリスは返事をした。

 セフィドリーフの苦い顔は一向に変化がないが、他人から渋面を向けられるのに慣れているイリスはちっともこたえなかった。


「ちょっと、来なさい。君、何て言ったっけ?」

「イリスです、セフィドリーフ様」

「うん。来て、イリス」


 セフィドリーフはちょいちょいと指でイリスを招く。あっちへ行け、しっしっ、とやられなかったのが嬉しくてイリスは元気良く前に進んだ。

 だが一歩一歩はぎこちなく、彼のいる寝台にたどり着くまでには思いの外時間がかかった。


「離れているから子供に見えたのかと思ったけど、近くで見ても子供だな……」


 セフィドリーフはじっくりとイリスの顔を眺めてから、またしげしげと全身を見る。イリスも自分の体を見下ろした。

 背も低いし、首も細いし、甲冑を脱がなくてもこの金属に包まれた体がひょろひょろしているというのはわかってしまうだろう。


 セフィドリーフはため息をつくと、首を横に振った。


「イリス。君ってここに何しに来たわけ?」

「尊い聖獣様、我らの光、セフィドリーフ様を御守りするために参りました!」

「剣を抜いてみて」

「はいっ!」


 イリスは腰に帯びている剣の柄に手をかけ、勢いよく剣を抜いた。

 抜いた剣は――そのままの勢いで手からすっぽ抜けて飛んでいく。何せイリスは握力も子供並みだ。


「あっ……!」


 剣は壁に突き刺さってしまっている。魔力を宿した剣だというから、切れ味も良いのだろう。イリスは慌てて、ガシャガシャ音を立てながら剣の方へと走っていく。

 剣は壁のかなり上の方へ刺さってしまっているから、手も届きにくいし引っ張ってもなかなか抜けそうにない。


 すると背後に誰かが立つ気配がして、その誰か――いつの間にかそこにいたセフィドリーフが軽々と剣を抜いた。

 やはり彼は長身で美丈夫だった。影にイリスはすっぽりと包まれる。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます。あの、壁は修理か弁償します……」

「気にすることはないよ。こんなのすぐ直るから」


 そう言ってセフィドリーフは壁の穴に手を当てて滑らせた。すると、穴は綺麗に塞がる。魔法だろう。


「わあ、凄い」


 イリスは感嘆の声をもらした。そして剣をおさめると、セフィドリーフに向き直る。


「というわけで、聖獣様。今日から私が御身を御守りします! どうぞよろしくお願いいたします!」


 何とも言えない表情をして温い視線を向けていたセフィドリーフは、無言でイリスの背中を押した。甲冑の重量もあり、かなり重いはずなのだが、彼は難なくイリスを移動させていく。

 そうしてセフィドリーフは扉を開け、やんわりとイリスを廊下へと押し出した。


「あの、セフィドリーフ様……」

「私は自分の身は自分で守れるからご心配なく。イリス。君はおうちへ帰りなさい」


 扉はイリスの目の前で、音もなく閉められてしまった。

 イリスはしばし呆然としていたが、我に返って何度も扉を叩いた。


「セフィドリーフ様! そんなことを仰らずに……」


 今度はいくら押しても扉はびくともせず、いくら呼びかけてもいらえはなかった。


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