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1話〈プロローグ〉

「どうしよっか?」



カチカチとハザードランプが点滅する音が響く車内。雨が降ってきたせいで、オレンジの街灯がフロントガラスの雨粒をキラキラと輝かせる。


大通りから逸れた路上、対向車が来る気配は無い。



「どうしようと言われましても、ね」



チラッと横目で見た運転席。ハンドルに肩肘を付いている彼と、バチっと目が合ってしまった。



ニット帽に黒縁メガネ。夜の車内では、ほとんど見えない素顔なのに、ずいぶんと意地悪な笑顔とわかる。



「明日も仕事だよね?」



車内のデジタル時計は23:25を表示している。



「明日も、明後日も朝から仕事。世の中の大半の人はそうだと思う。平日ど真ん中の夜に突然呼び出されても困ります」


「そうだね、ごめんね」


「なんとも思ってもないくせに」


「そんなことない」



今日は定時で上がるつもりだったのに、予期せぬトラブルで残業になった。


会社を出たのが21時半。新宿から混雑する渋谷で東横線に乗り換え、電車が多摩川を越え、東京から神奈川に入ってあと少しで自宅のある駅。……という所で、スマホが震えた。


『今から会えない?』



平日だろうと、何時だろうと、残業どころか徹夜明けだったとしても、誘えば来ると思ってるんだろう。


事実、武蔵小杉駅で降りてしまった。駆け足で反対路線線に飛び乗ってUターン。渋谷を通り越し指定された赤坂に着いたのは、23時を過ぎた頃。



そして、彼の運転する車に滑り込んだ。



「怒ってるの?あ、おなかすいたよね?俺はさっき局で出されたカツサンド食べちゃったからさ」 



彼はカツサンドで有名な店を口にした。お昼から何も食べていなかったことを思いだしたら、お腹は素直にグーーとなる。



「あははっ!」


「もう!笑わないでよ!」



運転席に手を伸ばし、パンチする仕草をした。



「コラコラ、顔はダメだよ。商品だからね」


「分かってます」



その甘い顔で、いったい何人の女の子が夢中になっているんだか。まぁ、最近は女の子に限らず、小学生から年配のマダムにも人気らしいけど。



「普通こういうときは、そこらのファミレスでも入れば解決するのに。彼女が美味しそうに食べてる姿を見ながら、コーヒーを飲んで付き合うものじゃない?ごく普通の彼氏なら、ね」


「うん、そうだね」



少しだけ寂しそうな横顔に、素直ではない自分の言動を反省した。



「人気が有りすぎて、ゴメン」



前言撤回。



「もう!帰るから、送ってよ」



精一杯の強がりをしても、見透かしたように、眼鏡の奥で笑う瞳。


人気があるのは十分、嫌って言うほど知ってます。彼のInstagramのフォロワー数、200万人だったかな?もはや、数字が大きすぎてよく分かりません。



「可愛い彼女がお望みなら、そうしますか」



ハイブリッド車らしく、静かにエンジンがかかる。



「ああ、そうだ。先に渡しておくね」



飾り気のない小さな箱を受け取る。



「この前のPV撮影で行ったイタリアのお土産、なかなか渡せなかったけど」



箱の中には、赤い雫型のピアスが入っていた。


ガラスだろうか、中に銀箔が埋め込まれていて、対向車線のヘッドライトに照らされて、品良くキラキラと光る。



「ヴェネチアングラスだよ。キレイでしょ?」


「うん、ありがとう」


「そのピアスと同じ、お揃いのシャンパングラスも買ったんだ、ペアで。もちろん、ワインも買ったし、簡単なパスタくらいなら作れるんだけどなぁ」



グーー。


なんて素直な私のカラダ。彼の料理は、そこらのファミレスより美味しいのを知っているから。



「さっきのミュージックステージ、録画してあるから一緒に見ながら、食べたくない?」



彼の指が、私の頬をツンツンする。



「ねぇ、本当に帰る?」



急に真面目な顔をして。彼の手が、髪を優しく撫でる。


ずるいな。


それとも、これも演技力が成せる技なのか。今冬スタートのドラマ主演が決まったばかり。また会えない日が来るのか。



「俺、明日はオフなんだけどな」


「私、仕事なんですけどね」



そう良いながらも、バッグから手帳を取り出しページをめくる。今となれば、今日中にトラブル解決のため残業したのは正解だったのか。がんばった自分を褒めてあげよう。



どうせ有休はたっぷり余ってる。



「おいでよ、うちに」



眼鏡とマスクを外す。なんてキレイな顔だろう。唇を指先で軽くなぞる。それだけで、身体がほてる。



最初から気づいている。


車の向かうルートは横浜方面じゃないこと。



あーあ、またこうやって流される。



無言は肯定でしかない。


でも仕方ない。彼のキスは、この世のどんなスィーツよりも、甘くて、中毒性があるのだから。



『ラテン語で甘くやさしいという意味の、人気アイドルグループ〈ドゥルキス〉のコウキ(27)。深夜の熱愛発覚か!国宝級イケメンが選んだ相手は、ごくごく普通の会社員』



頭の中には、そんな週刊誌の見出しがよぎる。



『車内でキスを迫られ、さあ、どぅキスする?』


アルファポリスで先行連載中です(^^)ぜひのぞいて下さい


https://www.alphapolis.co.jp/novel/411579529/595936588

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