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34話:王国会議Ⅱ

 だが、当然俺の心の叫びなんか、誰一人として聞いちゃいなかった。

 謁見の間の空気は、相変わらず重く、静かで、俺に回答を求めてる。


 ……くっ、こうなったら仕方ない。


 俺の脳内スーパーコンピューター、フル稼働するしかねぇ!


 こちとら前世――あのクソ難易度のとある戦略ゲームで、俺は幾度となく鬼畜AIと知恵比べをしてきた。

 負けた回数も山ほどだが、勝った回数も……誰より多い。


 |Regalia of Fateレガリア・オブ・フェイトの本編じゃ、帝国がどう攻めてきたかは謎だった。だけど、状況証拠から考えれば、ある程度は推測できる。


 頭の中で、カチカチと戦略の歯車が回り始める。


「……はぁ」


 深くため息をついて、俺は立ち上がった。


 こうなったら――やってやろうじゃねえか。


 ただし、地味に。できる限り地味に。


「仮に俺が、帝国の将軍だった場合……ですね」


 その瞬間、謁見の間の空気が変わった。全員が俺に注目している。


 ――いや、ちょっと待て。今、俺の内心では焦りしかない。こんな大勢の前で戦略を語るとか無理だろ。しかも敵の将軍役って、絶対にハードル高すぎる。


 だが、やるしかない。

 ああ、もう。前世でどれだけ鬼畜AIと知恵比べをしてきたと思ってるんだよ。


「まず最初に、俺が帝国の立場なら――この王国に戦争を仕掛ける理由をしっかり作り上げます」


 俺は言葉を選びながら、少しずつ進める。


「王国は現状、スタンピード、二度の暗殺未遂、そしてスタンピードを警戒しての兵力の分散。これだけでも現状、隙が生まれています。しかし、我々帝国が直接的な侵攻をすれば、王国側は最初から防戦一方です。そこで、私は……」


 誰も息をしていないような気がする。


「まず、前線を張り巡らせ、王国が手を出せないように囲い込みます。周辺領土を次々に侵略し、その後――王国の精鋭が全力を尽くして防衛をしている間に、帝国内部からの密命で送り込んだ『黒影』のような精鋭の暗殺部隊で、王国内部の首脳部を抹殺。具体的には、システィア様、そして国王陛下、有力貴族、大臣、宰相などの暗殺」


 その瞬間、王が鋭い視線を俺に向けてきたが、俺は一切動じずに続ける。


「有力貴族や大臣だけでも何人か殺せれば、国内は慌てますからね。大将とかも暗殺できれば最高ですね。軍の司令塔が一人消えるだけで、軍隊の動きは鈍くなる」


 敵勢力の弱体化は基本だよ。


「これで首脳部が弱体化したら、後は連携の取れた精鋭部隊などを使用し、主要都市を占拠。王都を囲い込んだ後、ついに本陣を攻撃。これにより、王国の民心は混乱し、国の抵抗力は削ぎ落とされる」


 深く息を吐いて、次に言葉を続ける。


「しかし、ここで肝心なのは――決して焦らないことです。あくまで王国の力をじわじわと削り、内部から自然崩壊させるのが鍵」


 部屋の空気が一瞬、凍った。

 そして、すぐに――


「すごい……」

 

 感心した声が上がる。


「まるで……本当の将軍みたいです」


 リリアの目が驚きの色を浮かべている。この程度、誰でも考え付くことよ?


「確かに……これは、実行可能な戦術ですね」


 え? 今、俺何かやったの?

 なんか急に皆から感心されたけど、これ普通に考えたら当たり前だろ? あのゲームでも似たようなことやってたし。


 でも、ここで黙っていても仕方ない。俺、目立ちたくないんだよ、マジで。


「ま、そんな感じで、最初にスタンピードで王国の戦力を削っておけば、あとはわけなくいけると思いますよ。スタンピードに暗殺と失敗してますけどね。同じ手を使ってくる可能性も否めない」


 俺は肩を竦めて軽く言う。

 その直後、王が深く頷く。


「うむ。アルクス大尉、なかなかの戦術だな。しかし……」


 王が、低く、じっと俺を見つめる。


「大尉の意見は、実に面白い。だが、この戦術を今後どう実行していくか、王国のより具体的な指針が必要だ。そこで、これより王国会議を始める。参謀本部、そして各師団の大将たちを集めよ」


 王がそう告げると、すぐに衛兵が会議の準備に向かった。王宮内が動き出す。


 ……ま、待て。会議って……俺の考えを聞いただけでは⁉

 また目立つじゃん⁉


 しばらくすると、参謀本部の連中や各師団の大将たちが集まり、会議が始まった。

 その中で、一人――第三師団の師団長であるラティア師団長が、俺の姿を見てから楽しげな表情を浮かべている。


 その表情は「アルクス大尉、また面白いことをしたようだ」と物語っている。


「あ、あいつ……楽しんでやがる⁉」


 師団長は、軽く笑みを浮かべていた。彼女は、常に冷静で理知的な印象だったが、今日は何か面白いものを見つけたような顔だ。


 やっぱり、俺の不安は無駄じゃなかったな。目立ちたくないのに、やっぱり目立ってる。最悪だ。

 けれど、王国の命運がかかっているなら……ちょっとくらい、こんなことでヘタレてられないか。

 俺の未来の生活が懸かっているんだ!


 王が静かに言葉を放つ。


「アルクス大尉、君の意見を踏まえて、帝国からの宣戦布告までに、我々がどう立ち回るべきか、更なる戦略を練ってほしい」


 ――また⁉ 参謀も集まっているじゃん! さっきの話の延長線上で、何をどう答えろってんだよ!?


 お偉いさんがこんなに集まっているんだ。きっといい戦略が思いつくよ。きっとね。


 だが、そんな内心の叫びも虚しく、周囲の視線が俺に集中する。特に師団長が、にやりと楽しげな笑みを浮かべながら俺を見ている。


「どうする? どうするんだ、アルクス?」とでも言わんばかりに、笑みを浮かべている彼女の表情が一層プレッシャーをかけてくる。こいつ、絶対俺が困ってるのを楽しんでやがるな!


 ……こんな場面で、また戦略を考えなきゃいけないのか。最初から目立ちたくなかったんだけど、状況的に無理だよな。せめて、もうちょっと静かにしてくれよ、マジで。


 だが、俺は何とか気を取り直して、みんなの視線を受けながら言葉を絞り出す。


「うーん、えっと……まあ、王国が宣戦布告される前にやるべきことは、まず情報収集を徹底的に進めることかと。現状、帝国の動きはある程度予測できるかもしれませんが、それでも正確な情報がないと、計画も立てようがありません」


 少し考えを巡らせてから続ける。


「まず、帝国の動向を監視するため、偵察部隊を強化します。可能であれば、帝国の軍の配置や指揮系統、そして彼らの資源の補充ルートなどを調べ上げ、前もって対応策を準備するんです」


 俺の言葉に、またもやみんなが黙って耳を傾ける。

 ラティア師団長が頷いているのが見える。どうやら、俺の意見をしっかりと聞いているらしい。


「どうせこちら側も帝国にスパイを放っているんでしょう? なら帝国の内部に潜入しているスパイを使い、もっと具体的な情報を掴みます。もちろん、スパイ活動にはリスクが伴いますが、事前に帝国の動きを知ることで、我々は有利な立場に立てますから」


 俺の提案に、参謀本部の連中もざわつき始めるが、誰もが反対の声を上げない。


 王が「ふむ、なるほど」と低く呟きながら、俺をじっと見つめる。今度は、すこしだけ沈黙が続いた。

 その沈黙を破ったのは、ラティア師団長だ。


「アルクス大尉、君は【虚構の怪物】と呼ばれているんだ。みな、君の意見を聞きたいと思っている。これほどまでに詳細な戦略を立てることができる君に、戦局をどう見極めるか、もっと深く聞いてみたいとね」


 俺は色入りと突っ込みたくなる気持ちを抑えながら、内心でため息をつく。

 すると久しぶりに聞く声が。


「アルクス大尉、久しいね。士官学校以来か」


 声の方向を見ると、リゼロット教官――じゃない。少佐がいた。


「お、お久しぶりです……」

「訓練学校、士官学校で君が挙げた戦略は、すでに王国軍で採用されているものが多い。みな、君を信頼しているんだ。頼むよ」

「うっ、はい……」


 あんたが俺のことを広報してたの、絶対に忘れないからな!


 逃げても仕方ない。俺がここでヘタれるわけにはいかねぇ。未来の生活が懸かってるんだ。


「えっと……すみません、続けますね」


 俺は少し身を乗り出し、改めて戦略の概要を続ける。


「まず、偵察部隊の強化で帝国の動向を把握し、次に……王国の防衛ラインを事前に強化し、できれば帝国の侵攻を食い止めるための拠点を作ることが重要ですね」


 なんだろう、この異常なまでの注目具合。

 まるで、俺が今後この王国を救うかのような視線だ。

 もう、嫌でも責任が重くなってきてるじゃねぇか…。


 い、胃が痛い……誰か、胃薬持ってきてくれ。


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