33話:王国会議Ⅰ
俺とシスティアの甘酸っぱい(?)空気をぶち壊すように――、
「システィア様! ご無事ですか!」
「アルクスさん、遅れてすみません!」
ドアがドゴォンって勢いで開いて、リリアと数人の衛兵たちがなだれ込んできた。
いや、タイミング。絶妙すぎるだろ。
しかもリリア、剣抜いたまま俺に向かってきてるし。ちょ、待て、落ち着け、俺敵じゃない!
「アルクス……大尉が……助けてくださったのです」
慌てるリリアに、システィアが静かに言う。
おい、一瞬だけど呼び捨てしそうになったよなぁ⁉
するとリリアが、ぱちくりと目を瞬かせ――次の瞬間。
「さすが、【虚構の怪物】ですね!」
「やめろおおぉぉぉ!!」
なんでそこでその二つ名をチョイスすんだよ⁉ お前、そういうキャラじゃないだろ! いつもは「アルクスさん」だろ⁉
よりにもよって、その一番黒歴史なやつを!
衛兵たちまで、「おぉ……」とか「すげぇ」とか小声で言ってる。
やめろ。見るな。その尊敬の目を向けるな。俺はただ、地味に生きたいだけなんだ!
ああ、俺の穏やかな日常プランが……また一歩、遠ざかった……。
……もう手遅れなのかも。
◇ ◇ ◇
そして、夜が明け――。
「……おいおい、マジかよ」
呼び出されたのは、王宮の謁見の間。
そう、国王レオディアス・エルヴァーリア直々の呼び出しだ。
泣きたい。今すぐ帰って布団かぶって寝たい。
けど、そんなこと言える空気じゃない。
俺は無理やり顔を引き締めて、玉座に立つ王様に膝をつく。
「アルクス大尉。今回の件、よくぞシスティアを守ってくれた」
王は堂々とした声で言った。
システィアは陛下の側で、リリアは俺の隣で控えている。
衛兵たちもずらっと並んでいて、完全に公式の表彰ムード。
いや、待て待て。表彰とかいらねえ!
目立ちたくねえって、何回心の中で叫べばいいんだ俺は!
しかし、王は容赦なく続ける。
「お前には、王国より正式な勲章を授与する」
「いや、あの、あのですね、陛下! 俺、そういうのはちょっと……!」
「遠慮するな。これは当然の報酬であり、誰もが納得している」
周囲をチラッと見ると、ウンウンと頷いていた。
無理だ。これ絶対逃げられないやつだ。
どうしよう。俺、これから有名人コース一直線じゃねえか。
最悪だ。泣きたい。マジで。
でも【虚構の怪物】とかいう二つ名付けられている時点で今更だろう。
「して、アルクス大尉」
王は俺の顔を見ながら続ける。
「そなたが倒した暗殺者を検分したころ、帝国の暗部だろうと我々は結論付けた。しかし、戦った本人の意見も聞いておきたい」
全員の視線が俺へと向けられる。
現状、帝国とは微妙は関係だ。加えて向こうは軍事力で圧力をかけてくることも多い。
「そうですね。陛下のおっしゃる通り、あれは帝国の暗部――間違いありません。それも、ただの兵ではない。精鋭部隊『黒影』でしょう」
「なっ⁉ それは……本当か⁉」
俺は静かに頷き、さらに言葉を重ねた。
「暗殺者にしては動きに無駄がなかった。連携も技術も、雇われの域を超えている。単なる暗部なら、城内への侵入もここまで鮮やかにはいかない。……それで、少し鎌をかけてみたんです」
一瞬の場の沈黙の後、俺は続けた。
「わずかな反応でしたが、相手が動揺したのを見て確信しました。ノイアス帝国直属の、選りすぐり――黒影、で間違いないと」
俺の言葉に、謁見の間が一気にざわめき始めた。
「黒影だと……?」
「まさか、本当に帝国が……?」
「いやしかし、これが事実なら――」
おいおい、やばいってこの空気。
俺、ただでさえ目立ちたくないのに、今完全に『重要参考人』みたいになってるぞ⁉
しかも王が、めっちゃ目を細めてこっち見てるし。
「帝国は……何を考えているのだ」
王が低い声で呟いた。
ここで「実はこの世界がゲームで、帝国が戦争を仕掛けてきて、裏で魔族と繋がっているんですよ」とは言えない。
だが、ここで黙ったらたぶん後が怖い。
しゃーない、続けるか……。
俺の天才的頭脳(自称)が、この場を切り抜けられ、尚且つすべてが裏で繋がっていると分かるように説明してやろうではないか!
「……正直、まだ確定じゃないですけど」
俺は軽く息を吸ってから、口を開いた。
「以前の――あの大規模スタンピード、覚えてますか?」
その場にいた全員が、ぴくりと眉を動かした。
そりゃそうだ。あれはこの王都の歴史でも語り継がれるレベルの大災害だったからな。
「王都近郊での大規模なスタンピード。原因はSランクの魔物だと。それを其方が討伐した」
そのせいで俺は今、注目の的なんだけどな!
「……あれも、帝国が裏で糸を引いてた可能性が高いです」
「えっ……!」
リリアが隣で小さく息を呑む音がした。
いや、お前もびっくりしてんのかよ! もしかして、俺の話信じてなかった⁉
王様も険しい顔で腕を組む。
ああ、ヤバい。これ、ぜったい深刻なやつだ。
「つまり……帝国は、我が王国に対して――」
王の重い声に、俺は静かに頷いた。
「……戦争を仕掛けるつもりでしょうね。今までは、その下ごしらえってところでしょうか。スタンピードでこちらの戦力を削って、暗殺者で内側からグラつかせる。混乱続きで、王国の足元はグラグラです。……陛下、こんなにおいしい隙、普通は見逃しませんよ?」
俺は軽く肩を竦める。
「俺だったら――遠慮なくここで宣戦布告して、大軍を差し向け、相手方に整える暇も与えず領土を根こそぎいただきますね。まるで、焼きたてのパンを盗むくらい簡単に」
その瞬間。
謁見の間の空気が、ガチンって音立てて凍った気がした。
いや、比喩じゃなくて。マジで。
誰も息すらしてねえ。怖い怖い怖い! 俺のユーモア溢れる説明じゃダメだった⁉
よし、ここはウィットに富んだジョークで場を和ませるしかない!
……ヤバい。
俺、今たぶん、この国で一番空気を凍らせた男になってる。
嬉しくねぇ! 一ミリも嬉しくねぇよ!
だからこそ、ここで沈黙はまずい。
よし、勇気を出せ俺! この場を救うのは、ユーモア、そう、センスだ!
「――でもまあ、安心してください!」
俺は両手をぱんっと打ち鳴らして、ドヤ顔を作った。
「結局、スタンピードも抑えましたし、兵力もピンピンしてますし、暗殺もこの通り、超絶イケメンの俺が阻止してますからね!」
……どうだ。完璧な流れだろ?
場の空気もこれでほんわか――誰も笑ってねえ……。
むしろ、全員、めっちゃ静か。
目だけが、めっちゃこっち見てる。
あれ? おかしいな? 今、絶対に拍手喝采か、せめて失笑は取れると思ったんだけど?
……もしかして、王宮ギャグ、レベル高すぎる?(震え声)
そんな中。
「……アルクス大尉」
王様が、低く、しかしハッキリと俺の名前を呼んだ。
お、おう、なんでしょうか陛下? できれば空気読んでスルーしていただきたい。
けれど、王様は続ける。
「仮に、そなたが帝国側の将軍であったとしよう。……この状況、どう動く?」
……。
…………。
………………は?
いやいやいやいや、何? 今の質問?
俺、今ギャグ滑らせたペナルティゲーム中なのに、なんでそんな重い球投げてくるの⁉
ま、待って、落ち着け、超絶クールな俺。
これ、無理に答えたら余計に地獄だし、黙ってたらそれはそれで怒られるやつだ。
……そんな葛藤をしてるうちに、謁見の間中の人間が、王様から、俺に――視線を集めた。
そう、全員。
いや、こっち見るなよ! 助けてよ誰か! リリアとか! システィアとか!
俺が何かすごい策士だとでも思ってるのか⁉ やめろ、その期待の眼差しやめろ!
心の中で絶叫しながら、俺は叫んだ。
――俺に振るんじゃねえぇぇえええ!




