親友の婚約者なら恋愛対象外。そう思って気軽に美女を褒めまくってたら、超絶的にコミュ障な婚約者の姉だった話
大改稿版をカクヨムにアップしました。
## 職場にて
ある日唐突に、モテナイ同盟を組んでいた同僚に土下座で謝られた。
同僚の義経と僕は中学校からの親友だ。
工業系の男子校を卒業後、地元大手企業の技術職として働いている。
僕は勘違いしていた。
僕たちはお互いに、女性との出会いがないと思っていた。
そんな女性と縁のない、モテナイ辛さを共有してきた親友なのだから、僕に土下座などする必要は何もない。
「実は親が再婚をしたんだ」
地元暮らしで地元企業。
もちろん実家の子供部屋に住んでいる。
だから親の再婚は、大きく生活に影響する。
「ああ、聞いているぞ」
土下座の必要など全く無い。
「親父の相手、つまりお義母さんには、連れ子がいるんだ」
まだ、怒らないよ。
「女の子なんだ。いわゆる義妹というやつだ」
「へー」
まだワンアウトだぞ。
「17歳なんだ」
「ほー」
ツーアウトだぞ。
仏の顔も三度までだからな、気をつけろよ。
「すんげぇ美少女で。俺のことをお兄ちゃん、お兄ちゃんって慕ってくるんだ」
「土下座くらいで済むと思ってんのかぁぁ」
……というのは、親友同士のいつもの冗談だ。
「それは、気苦労が絶えないだろうな。そりゃまぁ、羨ましいけどさ」
土下座までするなら、許してやろうじゃないか。
そもそも美少女義妹は親友のせいではない、不可抗力なのだ。
「もちろん、それだけなら土下座まではしない!」
「はぁ? 既に土下座案件ですがぁ!?」
「落ち着いて聞いてくれ……婚約した」
「……え?」
「異性として意識してしまって、お互いに気持ちを確認してな。ちゃんと両親に話を通して、婚約をした」
もしもこれが親友ではなかったら、さっそく未亡人が増えていたかも知れない。
そのくらいの衝撃だった。
「義妹と?」
「婚約した」
「こ、婚約ってことは、つ、つ、付き合ってたって事か?」
「もちろんそうだ」
「結婚を前提にするようなお付き合いを?」
親友が言葉を詰まらせる。
僕に対する、せめてもの情なのだろう。
「……そ……ちょ……あぁぁ……」
僕は言葉に詰まる。
たっぷりと、四十秒くらいは固まった。
ああ、僕は勘違いしていた。
義妹と婚約するのは妄想だけだと。
「……おめでとう。親友として祝福するよ」
「ありがとう! お前ならそう言ってくれると半信半疑だったんだ」
「いやそこは、信じてたと言ってくれ」
「それで本題なんだが。是非、お前に紹介したいんだ。今週末、家に来てくれ」
そう言うと親友は、なぜか再び深く深く土下座をしたのだった。
## 自宅へ遊びにゆく
そういえば、ここ一年ほどアイツの家で遊んでなかったな。
いやぁ、まさか義妹を秘蔵していたとはねぇ。
親友曰く、めちゃめちゃ可愛いらしい。
家族の欲目とか恋は盲目とかではなく、初見から凄い可愛いので覚悟をしておくように言われた。
ふぁみふぁみふぁみーま、ふぁみ、ふぁみまー♪
……あれ?
誰も出てこない。
もう一度インターホンを鳴らす。
……おかしいな? LINEを送ろうかと思ったとき、ゆっくりとドアが開いた。
薄暗い玄関の中からドアチェーン越しにこちらを覗き込んでくる。
そこにはトンデモナイ美人が居たのだった。
## 非モテでも完全脈ナシなら社交辞令がいくらでも言える
僕がもし、まだ高校生で。
この美人がもし、クラスメイトだったなら。
絶対に目も合わせられないような美女だ。
下手に視線を合わせようものなら『あいつ、凡夫のクセに美人を見つめる身の程知らずだぞ』と後ろ指をさされかねない。
そのくらい住む世界が違う美人だった。
あいつの家に美人が何人も居るだろうか?
仮にお義母さんが美魔女だとしても若すぎる。
17才の娘が居るとは思えない、どうみても大学生が限界だろう。
ならば、この美人さんが婚約者ということになる。
しかし……親友は可愛いと言っていたが、僕基準では可愛いではなく美人さんだ。
それも大人の魅力たっぷりの美人だ。
この人を可愛いと表現できる親友を尊敬するよ。
可愛いって、若干上から目線の表現だと思うんだよね。
余裕が無いと言えない言葉だよ。
あれだ、親の再婚の連れ子同士。
出会った頃は妹だったのだ。
妹に対する兄の余裕というやつか?
この美人の大人の魅力。
いや、言い直そう。このドスケベ美人を可愛いと言えちゃう親友。
僕は勘違いしていた。
親友は何歩も先をゆく大人なんだな。
あぁ、打ちのめされた気分だよ。
「こんにちは、義経の友達です。今日は招待ありがとうございます」
超絶美人を相手に淀みなく、大して緊張もせずに挨拶をした。
この彼女いない歴が年齢と同じ僕がだ。
なぜか?
だって、この人は親友と既にラブラブな婚約者なのだ。
そう、全くもって、万が一にも僕と恋仲になる可能性がない。
絶対に恋愛に発展しない。
僕が男としてどう思われるかなんて、気にしてもしょうがないのだ。
そう。例えるなら、友達のお母さんみたいな感じ。
僕は親友の友達としての印象だけ気にしていればいいのである。
親友の婚約者だ。
これはもう、お互いに仲良くするしか選択肢がない。
だがしかし、ドア越しの美人さんは沈黙を続けている。
ドアの隙間からチラッと見えた姿は、ぴっちりセーターにストレッチジーンズ。
ボンキュッボンでドスケベな身体のラインが見えていた。
だが!
だがしかし、僕は鉄の意志で美人さんの顔だけを見据えて微笑んでいる。
相手は親友の婚約者なのだ、絶対の絶対にエロい目で見てはいけない。
俺はこの美人と友人を超えた親戚のようで良好な関係を、それこそ一生維持する事になる。
一瞬でもエロ目線を勘付かれては駄目だ。
その唯一の方法は、ドスケベボディに視線を向けない事。その一択である。
「あの、義経は?」
「す、すこし……で、で、出かけて」
ドアの隙間、チェーン越しに婚約者さんは怯えているように言葉を絞り出した。
「出かけて……います……」
僕は、勘違いしていた。
親友の話から、てっきり快活なギャル系の婚約者を想像していたんだ。
「わかりました。では近くを散歩してまた来ます」
僕は速攻で踵を返す。
「あ、いえ、その」
「気にしないで下さい。散歩が大好きで、今とっても散歩がしたい気分なんです」
初対面の男と二人きりは気まずいのだろう。
婚約者の居る身ではなおさらだ。
僕も初対面かつ親友の婚約者で、さらにドスケベボディの美人などと二人っきりはまっぴらごめんなのだ。
さっさと退散することにしよう。
キィ
背後でドアの音がした。
「さて、近くの公園にでも行くか」
ドサッ
「ま……まって」
不穏な物音に振り向けば半開きのドアと、挟まれて倒れている超絶エロい美女がいた。
## リビングにて親友の婚約者を褒めちぎる
親友の婚約者さんを、リビングのソファーに座らせる。
出来る限り、出来うる限りに細心の注意を払って、エロい身体に触れないようにはしたのだが、婚約者さんはフニャフニャのグニャグニャだった。
冷蔵庫からミネラルウォーターを選んでグラスに注ぐ。
親父さんの再婚から暫くは来ていなかったものの、以前は我が家のように入り浸っていたので勝手は知っていたのだ。
対面キッチンから婚約者さんの様子を伺う。
まず目に入るのは、テーブルに所狭しと並べられた料理の数々。
キッチンの鍋や冷蔵庫の中を見るに、これらは全て手作りだ。
親友や親父さんが作ったとは思えない。
そうなるとこれらは婚約者さんが作ったのだろう。
「水をどうぞ」
近づくと警戒されたので、テーブルにグラスを置いた。
美人に警戒されるなど、普通なら大ダメージだ。
「す、すみません。久しぶりに、外に出たものですから」
「ああ、在宅勤務だそうですね」
とはいえ、外に出ただけで倒れるだろうか。
「在宅と言いますか……引きこもりと……言いますか」
あまりのエロスなオーラで気づかなかったが、よく見れば髪はボサボサだし、Vネックのセーターもスキニージーンズもタイトというよりもサイズが小さい。
体の成長に合わせて買い替えていないみたいな。
美人過ぎて見逃していたが、なんかこう全体的に身なりがヨレヨレなんだ。
「す、すぅ……すみません。お客さまなのに、こんな事をしていただいて」
「いえ、気にしないで下さい」
ところで、と話題を変える。
「この、とても美味しそうな料理は貴女が作ったのですか?」
「は、はい。まぁ、そう……です」
「どれも美味しそうです。待ちきれないですよ」
本心なので淀みなく褒めちぎる。
これには婚約者さんもご満悦だ。
「え、その。あ、ありがとう、ございます」
「愛する人と、美味しい家庭料理。幸せだろうなぁ」
「そ、そうでしょうか?」
「もちろんです!」
無責任に美人を褒められるって意外と楽しいぞ。
なにしろ親友の婚約者だ。
下心を疑われる心配がない。
すっと、婚約者さんが立ち上がる。
ゴメン嘘。
ボヨヨ~ンと婚約者さんが立ち上がる。
この人、下着つけてんだろうか?
「味見しませんか?」
婚約者さんは早口で言うと、手早くエプロンを着けた。
胸当て部分がハート型でフリルの付いている……こ、このデザインは! 新婚用と言うか……裸エプロン専用じゃね!?
親友が贈ったのだろうか?
ヤバイ、尊敬が止まらない。
そんな婚約者さんを追いかけて、僕もキッチンに立った。
「キッチンに立つ家庭的な女性も素敵ですよね」
隙あらば褒める。
楽しい。
婚約者さんは鍋から小皿に味見用に料理をすくうと、それを箸でつまみ僕に差し出す。
えっと。
超絶エロボディの美人が料理を差し出し、なんで食べないの? と小首をかしげる。
僕だってこのままア~ンとか言いたいけどね。
アウト!
それは僕の友情に反する。
「ありがとうございます。でも、誰にでもそういう事をしないほうが良いです」
一瞬、ぽかんとして。
それから自分の行動に気づいたようだ。
婚約者の居る女性が誰にでもして良い行動ではない。
僕は、勘違いしていた。
僕なんかの言葉に、婚約者さんが悲しそうな、寂しそうな表情になったのだ。
「うれしいですよ! 本当に! 貴女みたいな美人さんに食べさせてもらうなんて、そりゃ幸せですよ。でもほら僕なんてモテナイ男ですからね。そんなことされたら簡単に惚れちゃいますから」
慌ててフォローをする。
彼女は親友の婚約者だ。
生涯のお付き合いとなる可能性が高い、仲良くなっておかなくては。
しかし、距離感が難しい。
突き放しすぎた分を、縮めなくてはならない。
「いやぁ、それにしてもお綺麗ですね」
直球勝負。
「ひやっ」
あ、引いてる。だが大丈夫だ、僕を警戒する必要はないと教えてあげればいい。
「婚約者さんのような美人と家族だなんてアイツは幸せ者です」
共通の接点である親友に、全部つなげてしまえばいい。
婚約者さんの表情が明るくなる。
「そ、そうなんです。毎日幸せで……私も、うれしいです」
「そう、幸せそうなんですよ。アイツの人生がバラ色に見えます。職場でも婚約者さんの自慢とノロケ話ばかりですよ」
「わ、わかります。す、すごい幸せそうです」
「でも、素敵な婚約者さんなら自慢したくなるのも無理はないですよ」
「ありがとう、ございます」
婚約者さんが微笑む。
とても魅力的で、儚げで、庇護欲をくすぐられる。
アイツの婚約者でなかったら、僕は一発で好きになってただろう。
「本当にアイツは素敵な婚約者さんがいて幸せですよ」
「そ、そうなんです。そんなに褒めてもらえるなんて、う、嬉しいです」
婚約者さんは身を乗り出して喜んだ。
Vネックから覗く胸元……を、僕は絶対に見ないように彼女のオデコの辺りに視線を固定する。
今視線を下げれば、それはそれは素晴らしい景色を拝めるだろう。
だが駄目だ! この人は親友の婚約者! 親戚みたいなもの! エロ目線は絶対NG!
「あの、義経さんの親友で、何でも話せる人だって聞いています」
「男同士だから言いやすい事ってのもあるでしょうね」
「はい、男……ひやぁ! お、男の人ぉ」
急に怯えて僕から離れた。ソファーに置いてあったクッションを抱え込み、僕との間に小さな壁を作る。
婚約者以外の男性とは一定の距離を取りたいのだろう、素晴らしい心がけだ。
でも大丈夫、僕は安全安心で無害な男です。
「アイツとは兄弟みたいなもんです。ケンカもよくしました」
「……兄弟……家族?」
「ええ、家族みたいなもんです」
抱えていたクッションを、膝の上に置いた。
そのクッションの更に上に、もっと柔らかそうなバストが乗って形を変えている気がするが、絶対に見ないぞ。
「家族だからこその気遣いも大事ですよね」
なぜか、この話題は婚約者さんの琴線に触れたようだ。
再び身を乗り出してきたので、僕は鋼の意志で視線に気を使った。
「か、家族だからこその……気遣いってどうおもいますか?」
「もしかして、気を使われすぎて困っていたりします?」
婚約者さん頷く。
アイツめ、こんな素敵な人を困らせるなんて。
「僕から、それとなく言いましょうか?」
「あの、実は、その……でも、こんな事を相談するわけには」
なるほど。僕は気が利く男なので察した。
この人はもともと、アイツの義妹だった。そう、親の再婚相手の連れ子同士なのだ。
そして、アイツは父親がいた。つまり、再婚相手はお母さんだ。
本人に直接言えない事を、血の繋がらない親父さんに言えるはずがない。
婚約者さんは、家族の事を相談できる男性が居ないのだ。
それこそ、親戚のおじさんみたいな僕の出番だろう。
「僕のことは親戚、アイツの兄弟だと思って下さい」
「親戚? 家族?」
「そう、家族みたいなもんです」
「何月ですか?」
「はい?」
「誕生日」
僕は6月生まれ、ちなみに親友は12月生まれだ。
「年上……お兄ちゃん?」
お、おおお!
クソエロい美人から見上げられて、お兄ちゃんと呼ばれるの強い!
アイツよくもまぁ、こんなのに耐えられるな……いや、耐えなかったのか。
それに、あいつの義妹だったのだから、僕より年下なのは当たり前じゃないか?
「お、お兄ちゃんでは無いですが」
「え? じゃあ、赤の他人の男の人!」
怯えないでよ極端だなぁ。
「他人ではないです。アイツの親友です」
なにその、こいつ微妙だなって表情は?
「義経さんがですね」
あ、話が続く。親友はギリセーフらしい。
流石に婚約者さんから『お兄ちゃん』とは呼ばれていないらしい。
「義経さんとの夜のことなんです」
アッチの話なんだ。
まぁ、アイツからはソッチのほうはオープンで積極的だと聞いていた。
目の前の女性とはイメージ合わないどね。
でもなぁ、僕にソッチの相談に乗る知識はないぞ。
だが、いづれ僕も家庭を持って家族ぐるみで付き合いをするはずだ。
長い付き合いになるんだ聞いておこう。別に助平心じゃないから。
「我慢しているんです」
おや?
「その、婚約者なら許されそうなことを?」
「はい、やっていません」
なんてこった。
こんな幸薄そうなのにムチムチで超絶美人なエロエロ婚約者と一つ屋根の下で我慢かぁ。何か事情がありそうだ。
「分かりました、俺からそれとなく聞いてみます」
## なんか変じゃね?
「いえ、もう理由は聞いたんです。……そうしたら、親友の貴方を連れてくると」
「え? 俺ですか?」
どういう事だ?
「アイツの我慢に俺が役に立つと?……まさか! 俺の尻狙いですか!?」
こういうのなんて言うんだ? 親子丼でも姉妹丼でもないし、親友義妹丼?
なんだその牛あいがけカレーみたいなメニューは?
「ち、違います! 義経さんは一途ですから。こ、心に決めた相手以外は絶対に手を出しません、たとえ男性でも親友さんでもです」
そうだよな。アイツ、ネトラレものもネトリモノも駄目だったよな。
「うらやましいですね」
「はい。二人はラブラブです」
「ああ、貴女みたいな美人さんと住んでいるなんて本当に羨ましい……あ! 婚約者さんをそんな目で見たりはしませんよ! 信じて下さい。でも僕も貴女みたいな素敵な人との出会いがあったらなぁと思っただけです。もしも、貴女がアイツではなく僕の義妹だったら……きっと僕も恋をしていたと思います」
「え? は、はい!?」
「勘違いしないでくださいね。貴女のような素敵な人が、もしもアイツの婚約者では無かったらです」
そう。僕は盛大に勘違いをしているのだ。
## 親友の帰宅
なぜか激しく動揺している婚約者さん。
ん? 大丈夫だよね? 僕は親友と婚約者さんを祝福しつつ、羨ましいって話をしてるよね?
それなのに婚約者さんは首筋まで真っ赤にしてさ、クッションで顔を隠してしまった。
なんでだ?
「ただいまぁ!」
親友のご帰宅だ、ナイスタイミング。
いや、待て待て。僕が婚約者さんに何か変なことを言ったと誤解されないか?
ここは慎重に迎えなければ。
「おう、遅かったな。お前の話ですっかり盛り上がってたぞ、お前の話題でな!」
めっちゃ強調する。
ん? 親友の後ろに誰か居るぞ?
「……そちらの女性は?」
「ああ、紹介しよう。元義妹で俺の婚約者だ」
え?
「はじめまして〜、いつもお兄ちゃんがお世話になっておりま〜す! 真音で〜す」
うわ、明るぅ。凄え美少女。そして陽キャだ、コミュ力高そう。
「じゃあ、この凄い美人さんは?」
俺の後ろにソファーに座っている、ドチャクソにエロい美人は誰だよ。
「真音のお姉ちゃんで〜す」
美少女が両手を広げると、そこに超絶エロ美人が飛び込んだ。
「真音ちゃん! 会いたかったよ!」
「うん、買い物行っただけだよ」
美少女と美人の抱擁に、僕は混乱と眼福で目が回りそうだ。
そんな僕の肩を親友がバンバン叩いてくる。
「仲良くやってたみたいだな」
「そうでもないよ。お姉さんが居るなら言っといてくれよ」
「いやいや、初対面で同じ部屋にいるなんて凄いよ。俺なんて部屋から出て顔を見るまで三ヶ月位かかったよ」
玄関での事を思うとありえない話ではない。
「でも、僕が訪ねてきたときは出迎えてくれたよ」
「それは真音のためだな」
抱きしめ合う姉妹を見ていると分かる気がする。
お義姉さんは、義妹さんの為に頑張ったのだろう。
「真音は在宅のクリエイターなんだ、それも凄い人気なんだぞ」
「でもね~、真音は家事とかな〜んにも出来ないの〜。だからお姉ちゃんを、専属の家政婦さんとして住み込みで雇ってるの。だから〜、ダーリンとのラブラブ愛の巣に一緒に住んでもらってま〜す」
「こんな美人二人と住んでるなんってな。はぁ、お前が恨やましいよ。まるでハーレムじゃないか」
軽い称賛のつもりで言ったのだが。
「おい待て、聞き捨てならないな」
あ、ヤバ。
「俺がハーレムだって? 俺はハーレム否定派だって知ってるだろ! ハーレムもスワッピングもNTRも全て邪道だ、愛ってのはな二人っきり、ペアで慈しむもんなんだよ!」
地雷を踏み抜いてしまった。
「辛いんだ。人はな、二人で愛し合うように出来てるんだよ。ハーレムだって? 三人以上になってみろよ、どこかで必ず一人余るだろ? ましてやNTRだなんて、悲しすぎるだろ」
「わかってから。落ち着けよ」
婚約者さん。義妹さんの方が、悲しみに崩れ落ちそうになるコイツを支えた。いやいや、そこまでダメージ受けなくてもいいだろ。
だがしかし、コイツの主張はすぐに証明されることとなる。
義妹さんがヤツを支えると言うことは、それまで抱きしめ合っていたお義姉さんからは離れるということだ。
「……真音ちゃん」
お義姉さんは拠り所をなくして、義妹さんを抱き締めていた腕がワキワキと虚空を彷徨う。
義妹さんとお義姉さんというペアに、コイツという異物が入り込んでしまったのだ。
お義姉さんは何か代わりのものを探し求めて、三度ソファーのクッションに狙いをつけた。
「だが、そうはいかない!」
既のところで義妹さんがクッションを先に取り上げた。
いや、義妹さんの代わりを求めてるってのに、なぜそれを本人が奪う?
「うわぁぁ、真音ちゃーん。お姉ちゃんのクッションを返してぇぇ」
お義姉さんの絶望っぷりに思わず口を挟んだ。
「それは流石にかわいそうだろ」
「そう思いますよね!?」
義妹さんの目が獲物を捕らえたネコ科のように煌めいた。
取り上げたクッションを、お義姉さんの前でフリフリして誘導する。
お義姉さんも、愛に飢えたゾンビの様にふらふらとクッションを追った。
そして、そのクッションを……
「はい、パス!」
僕に抱えさせる。
「あぁぁ、うぅぅ」
愛情ゾンビは、僕の前で立ち止まった。
僕はどうしていいかわからず、親友と義妹さんに助けを求める。
「他でもない、お前を呼んだのは他でもない。お義姉さんのことについてなんだよ」
## 愛情ゾンビとネクロマンサー真音
「義姉さんは、見ての通り俺の婚約者に劣らない、とんでもない美人だ」
「ああ、そうだな」
愛情ゾンビ改め、お義姉さんの頬が赤く染まる。
「いや、可愛さならもちろん真音が上だが、美人さとエロさに限っては義姉さんが飛び抜けているだろう」
「確かに、僕が知る限り世界一エロいと言っても過言ではないな」
人の感情を取り戻しつつあるお義姉さんが、一歩後ずさる。
「そんな義姉さんなものだから、世の男どもは黙っていない」
そうだろうな。
「道を歩けば声をかけられ、話をしたなら惚れられる」
やめろ! その表現は僕に刺さる!
「そんなわけで義姉さんは男性不信となり引きこもってしまったのさ」
それは申し訳ないことをしたな。
「それは、気の毒だな。外に出ないと生活できないだろ」
それには義妹さんが答える。
「まぁ、私専属の私を甘やかしてくれるお姉ちゃんですから丁度いいけどね、お給料だって一流企業の部長クラスを払っています」
「バランスは取れているんだな」
「ところがだ。その役目に俺という婚約者が加わってしまった」
「お姉ちゃん、お仕事が減っちゃったの」
「働かずに高給取りなんて最高じゃないか」
「さらに、昼夜と場所を問わず、家の中のどこでも俺たちはイチャイチャしている。俺は、俺が忌み嫌う三人目になりはてたのだ!」
呻きながらよろめく親友を義妹さんが支えた。
なるほど、そうやってイチャイチャしてるんだな。
「お姉ちゃんが飢えちゃったの、甘やかす相手に。そのクッションでは真音の代わりにはならない。真音はクッションより可愛いから」
お、おう。そうだな。
「お義姉さんは、友達作ったほうが良さそうだな」
「しかし、美人過ぎてエロ過ぎて、妹の真音と俺以外に知り合いが居ない」
「お姉ちゃんのスマホには真音との通話履歴しか無いの、しかも消さずに全部残してあるの」
「そこでお前を呼んだのだ」
「いやいや、コミュ障で男性不信なのに僕なんか役に立たないだろ」
「義姉さんはな……家族には緊張しないんだ」
「……僕は家族ではないだろう?」
「お姉ちゃ〜ん。お姉ちゃんの大好きなクッションはここだよ〜」
義妹さんが僕の手にあるクッションを、アピールする。
「クッション……でも、知らない男の人……怖い」
義妹さんは僕からクッションを奪うと、親友に預ける。
「こっちなら?」
「義経くんは義弟だから……家族?」
「そう、ダーリンは家族だよね」
「俺と親友は、それはもう仲が良くてですね。もはや他人ではありません。義兄弟の様なものです」
「兄弟?……でも、義兄弟の義兄弟は他人な気がする」
オイオイ。お義姉さん、混乱してるじゃないか。
「お姉ちゃん、よく考えてみて。義理の弟の義兄弟なんだよ」
「……義が多い」
「お姉ちゃん。そんなときはね、約分するんだよ」
ん?
「義弟の義兄弟だから義と義が消えるでしょ」
「う、うん」
「そうすると?」
「弟と、兄弟!」
「つまりこの人は?」
「六月生まれの兄弟」
「お姉ちゃんの誕生日は?」
「九月」
「早く生まれた兄弟と言えば!?」
「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃんは?」
「家族!」
「家族は?」
「怖くない!」
お義姉さんが僕の持っていたクッションに触れる。
そして、僕ごと抱きしめてきた。
「お兄ちゃん」
えぇぇぇ。お義姉さんてば、洗脳されてない?
「お兄ちゃんは妹を?」
「エッチな目で見ない。お兄ちゃんはエッチな目で見なかった」
僕の手をグイグイと引いて、ソファーに座ると自分の膝をポンポンと叩く。
期待を込めた目で僕を見つめてくる。なに?
「甘えて、膝枕させて」
「人助けだと思って、頼むよ」
「早く! お姉ちゃんの母性が暴走する前に!」
流されて膝枕をされる事になった。
「はぁ、落ち着くよぉ」
お義姉さんが僕の頭を撫でながら安堵の息をつく。
「あのぉ」
不満を訴えてみる。
頭の下の太ももはムチムチだし、目の前はバインバイン。
バインが大きすぎて顔も見えないのだから、僕は全く落ち着かない。
「よかったね、お姉ちゃん専用の家族ができて」
テーブルから料理を箸でつまむと。
「はい、あ~んして」
美味しい。
惚れそうです。
「うん。これで真音ちゃんが義経くんに取られていても、お姉ちゃんは大丈夫です」
親友と真音さんも膝枕されている僕を覗き込んだ。
これではまるで、赤子になったような気分だ。
「やっとだね」
「やっとだよ」
何がやっとなんだ?
「真音がな、お義姉さんより先は駄目だって言うんだよ」
「当たり前です。こういうのは、おねーちゃんから順番に経験するものです」
「何の話をしているんだ?」
誰も僕の疑問に耳を貸さない。
「さぁ、お姉ちゃん。大好きなモノにはいつものア、レ、を!」
膝枕から頭を抱え上げられた。
顔の半分があり得ないほどセーターに埋まる。
「さぁ、お兄ちゃん。お姉ちゃんですよぉ」
「激しく矛盾してませんか?」
そのまま、綺麗な顔が近づいてくる。
「お姉ちゃんはねぇ、自分の可愛がっているものにチューをする癖があるの」
「真音がな、お義姉さんより先にファーストキスは出来ないっていうんだ」
は? え? うぶぅ!
「ぷは。ん〜、お兄ちゃんは可愛いでちゅねぇ」
「よし、キスしたな」
「うん、キスしたよ! 義経くん、おまたせ!」
二人も口づけを交わす。
「もぅ、真音ちゃんたらはしたないですよ」
お義姉さんがそれを言う?
「本当にお前のおかげで助かったよ。やはり持つべきものは親友だな」
「クリスマスにはぁ、初体験しようねダーリン」
クリスマスは来週だ。
そしてこのバカップルは順番が大事らしい。
つまり初体験もお義姉さんが先でなくては駄目なのだ。
「そうだな。そういうわけだからよろしく頼む」
「まさか、真音のお姉ちゃんでは不満だなんて言わないよね!?」
「あのね真音ちゃん。お兄ちゃんね、二人っきりの時にね……お姉ちゃんの事、いっぱい好きだって、結婚して手料理が食べたいって……言ってくれたの」
お兄ちゃんは確定なのか。
むしろ兄妹で結婚のほうが駄目だろ。
「かぁ、お前もやるな。親友!」
前例が居た。
「じゃあ、じゃあ。来年には結婚ね」
「式は一緒でもいいよな?」
「んー、誓いのキスが後ならいいよ」
そう言って二人はキスをする。
「ダーリン、子供は三人欲しい!」
「そうだな。でも子供は親友とお義姉さん次第だな」
「お姉ちゃん、あんまり待たせないでね?」
「任せて、真音ちゃん。お姉ちゃん、がんばるからね!」
僕は、勘違いをしていた。
この人は親友の婚約者だと思っていたが、どうやら僕のお嫁さんになるらしい。
終わり。
面白いと思いったのが勘違いでなければ、評価やコメントをお願いします。
お姉さんの魅力マシマシで大改稿版をカクヨムにアップしました。
カクヨムコンに参加しております、是非こちらもお楽しみ下さい。