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逆ハーとはなんなのか、それを知るため我々は異世界へと旅立ったのだった

そのとき、全私がスタンディングオベーションした。

作者: あかね

「戦況は?」


 私は腹心の秘書に尋ねる。


「最終直前、わたし、殿下のこと、までイベント終了しました」


「殿下ルートも抑えたと」


「正直、この過密スケジュールこなすことができる時点で優秀です。スカウトしましょう」


「そーよねー。残り一人か」


 私は目の前のシナリオリストを確認した。

 攻略対象の必須イベントが書いてあるが、ほぼチェック済み。好感度も誰かが突出しているということもない完璧なコントロール。


「最後の一人は婚約破棄するイベントが低確率で発生するので、控えていたんでしょうが、今のところその恐れはなさそうですし終わりに至るのも時間の問題です」


「ほんとすごいわぁ」


 呆れるやら称賛したくなるやらである。全くその行動理由は読めないんだけどね……。

 このままライバルエンド行こうぜ! と勧誘するタイミングというのは、そろそろかもしれない。



 私は前世がある。別の世界の別の誰かであった。その誰かはきっとドMだった。そうに違いない。

 ここはある乙女ゲーの中身である。本当にそうなのか、類似したなにかなのかは定かではないが、とても似たところが随所にあり、まあそういうものなのだろうと理解している。

 それを思い出したころ、私は恐怖した。

 転生先の私は主人公のライバル兼友人のような立場になる予定であった。初期のお節介やら何やらをしつつ私も負けませんわよっ! となるはずの。

 敗北したところで、あなたになら仕方ないわねと認めるようなお嬢様である。


 問題は別にあった。

 このゲームというのは、好感度が低いととっても冷たい対応をされることで有名になった。好感度は最高100%、最低-100%、というアレさである。なんでマイナスが必要なのだ。0でもフラットに冷たいのに。それなのに初期値はマイナスからというありえないハードモードがある。

 それを三周して前世の私は悟った。

 世の中には顔のいい男に冷たくされてきゅんとくる需要があるらしい、と。

 あるいは、そういう男どもを蹂躙し、愛を捧げさせた挙句、職業エンド(正統ルート)になり、全部振るという性癖が存在する、らしい。


 恋愛? うーん? ちょっと、解釈違いかなと首をかしげながらその評をみていた、と思う。

 わたしはふつーかなーと冷たい対応がちょっとぬるくなると好感度を下げに行く前世の自分も相当おかしい。


 奴はドMでよかったかもしれないが、私は違う。せっかく転生したのだからちやほやされて侯爵令嬢生活を満喫したい。

 だから、まじめにお勉強もしたし、いい子でいた。おかげで15歳の時にきた聖女候補の依頼も断ることができた。よほどの失点がなければほかにも候補がいるので別に断っても構わないのだ。お母様のお手伝いをしたいのですと言えば、簡単だった。

 侯爵夫人の仕事というのは多岐にわたり、前世の知識があっても中々に難物だった。概念が違うというところも邪魔をして大変ではあった。

 それでもやりがいがあり、楽しい日々だった。


 そういえば、主人公はどうしたのかなと思い出したのは16歳くらいだ。どうせ主人公補正で何とかなっているだろうと思った。

 一人くらい捕まえて、恋愛モードかしらとか、それなら鑑賞しようかなくらいの気持ちしかなかった。


 私はすっかり忘れていたのである。

 私が初期のフォロー役であったことを。何も知らない主人公プレイヤーにシステムを教え、アドバイスをし、仕方ないわねと時には助ける。そう言う役回りだった。

 他の誰かが代わりにやっているよね? そうだよね? と怯えながらお城でこっそり探した結果、主人公は見つかった。

 残念ながら主人公はすっかりやさぐれて、微笑みながら目が笑ってない美少女になっていた。手遅れだった。

 ひぃっと悲鳴を上げるくらいの眼光の鋭さで攻略対象を見つめて、何やらメモを片手に微笑んでいた。


 通りすがったふりをしてごきげんようと声をかけると怪訝そうな表情を素早く隠し笑顔を振りまいていた。元のゲームの純粋なヒロインちゃんはいない。

 私は即座に帰った。

 私のヒロインちゃんを返して! といやいや、初期対応しなかった自業自得でしょ? と罪悪感にまみれて泣いた。


 そこからさりげなく背後から観察を続けること数か月。

 彼女の目論見がわかった。


「勇者よ、勇者。すっごい」


「ですかねぇ。蛮勇では」


 私の転生した話を話半分に聞いている秘書は苦笑いしている。

 彼女の目的は全キャラ攻略。

 激烈に冷たい嫌味やらを乗り越えての全キャラ打倒。偉業だわと前世の私が恐れおののいている。ゲームですらナイトメアだとかヘルだとか修行だとか言われていたものである。ほんとにそれ、乙女ゲーなの? という気分はするのだが。


 彼女の戦歴は2/7。落としやすい将軍の息子(ショタ)女たらし(せんぱい)は陥落している。落としやすいが、落とした後のイベントが多いのでイベント管理がな……とは思う。

 そんな彼女の次の標的。

 遠くから私と私の秘書はそれを眺めて。主人公が見ている攻略対象はああ、ツンデレ眼鏡だ。ツン99%がツンデレの中に入れるかはわからないが。


「なに言ってるのかしら」


「あいつもそろそろ落ちるわね。だそうですよ」


「なんでわかったの」


「読唇術が趣味です」


「はじめて聞いた」


「信じたんですか?」


 なに考えてるかわからない。

 真顔なので余計わからない。


「行きますよ」


「あ、追いかけましょ。こっそり」


「承知しました」


 こそこそと追いかけ、その首尾を見守ることにした。やさぐれたヒロイン像は微塵も見せず、けなげで元気な女の子をやっている。


「あー、あの眼鏡、やさしく笑うんですねー」


「でも、彼女がこっそり、よっしゃってこぶしを握ったことに気がついてない」


「で、どうするんです?」


「なにがよ?」


「このままいくとお嬢様の婚約者も落とされますが」


「あ、いいの。私、他に私に甘い旦那様見つけたいから、婚約破棄上等」


「悪女」


「おほほほ。何とでもいうがよろしくてよ。初対面に喧嘩売ってくる男と結婚したくないわ。

 お母様が小領地を譲ってもよいというし、男爵くらいにはなるからお婿をもらうつもりよ」


「許されますかね?」


「なに言ってるの? 最終的には侯爵家はわたしのものよ」


「……悪女」


「どうとでもおっしゃい」


 その意味で言えば、彼女に頑張ってもらわねば輝かしい未来もないわけである。

 私は私として根回しを始めた。初期の対処しなかった詫びもこめて、なんかあったときにはちゃんと引き取りたい。というところと思うところがあるのである。

 ゲームとしては好感度で対応が変わっても別に構わないと思う。

 ただ、ここは現実である。現実の偉い人が好き嫌いで仕事しちゃダメだろ。普通に。身分ありの世界だけど、それで横柄にふるまうのは周辺諸国に後れを取る。

 また、女性も結婚以外の身の振り方を増やしたい。私の場合には、母が最先端を行くタイプなので仕事も爵位譲渡も許した。法で縛られているわけでないからと。


「まあ、微力ながらお手伝いしますけどね」


「あ、がっつり手伝ってね。家帰ってシナリオ検討して、断罪ルート潰し。バッドエンドはお呼びじゃないのよ」


 そうして始まった日々は騒がしかった。

 やりがいはあったけどね。


 そして、この日をむかえたのだった。


 自分の婚約者が私に向かって婚約破棄を宣言した。

 代わりにヒロインを婚約者にすると。

 彼女は焦りまくった表情で、違うんです! ちがうんですってばっ! と叫んでいる。


 そして、私は。


「どうしよう。謎の感動をしている」


 全私がスタンディングオベーションした。脳内では拍手喝采!おめでとーっ!がんばったねーっ!と大騒ぎである。

 なんならいますぐに彼女の手を握ってすごかったわ!と褒め称えたい。


「褒め称えてもよろしいのでは?」


「そうだよね?」


 こそこそと秘書と話をし、二人に向き合った。

 ヒロインがびくっとしている。彼女に安心させるように微笑んで。


「おめでとう、よかったわね」


 じゃあ、ここからは私が引き継いで、それからもらっていくことにしよう。

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