第16話
「淵舞」
正直賭けだった。これは全盛期の力を取り戻せる代わりに使ったあと全ての力が出せなくなって倒れる言わば博打。しかも今は10秒程しか使えないこと。
でも俺はその10秒でも決め切れる自信があった。
「そんなものを使っても……グフッ……」
息付く間もなくゼロを俺は吹っ飛ばした。
「雷神」
俺の打つ雷神はラインも絶望するほどの一撃を叩き入れた。ラインの打つ無差別な雷ではなく一撃で決め切れるほどの大きな雷だ。
「終わりにしようゼロ。俺の全てを見せてやるよ。
絢爛流奥義 無月」
あたりの時空がズレたような感触がした。当たりが無音に包まれた次の瞬間、ゼロの体が木っ端微塵になった。そして周りの闘技場の1部までも破壊し尽くした。
「お前は人を馬鹿にする前に自分の面を……」
このまま俺の意識はフェードアウトした。今からかっこつけようとしたのにだぜぇな俺。
俺が倒れたあと周りからは溢れんばかりの歓声が上がった。
俺が倒れたあと一人のやつが降りてきた。
「こんにちは。リリアさんそして、ルークさん 皆さん紹介が遅れました。 スミリ・ランドロフです。
所詮貴方たち騎士団はルークさん無しでは戦うことの出来ないろくでなしですね。」
リリアは怒りを込み上げながら奴に向かっていった。
「お前なんかに」
彼は手を抜きつつ、
「怒りだけでは私を倒すことは難しいでしょうね。」
リリアは元いた場所に吹っ飛ばされてしまった。
「私は宣戦布告を言いに来ただけです。私たち魔族軍は今から1ヶ月後を持って王都含めカルラン大陸を支配させていただきます。」
そう言って奴は去っていった。 音すらも残さずに。
彼らは俯くままこの絶望にも満ち溢れた、騎士団選抜が終了した。
俺は目が覚めると隣には俺の手を握るリリアの姿があった。いや寝起きにいざまじまじと見るとめっちゃ可愛いな。まぁリリアには言わないけど。
俺は鼻の下が伸びていたのか、リリアは首を傾げながらもほっとしていそうだった。
ルークやラインも俺の近くで俺の回復を待ってくれていた。
「俺はどれくらい寝ていたんだ。」
「3日くらいねていました。心配したんですかねほんとに……」
涙を浮かべているリリアを前に俺は申し訳なさを感じていた。
だが俺はまず話すべき相手に声をかけた。
そいつは俺の安否を確かめ席を外そうとしていた。
「おい待てシルバ。お前はいったい何をしていたんだ。お前が入れば誰も怪我しなかったかもしれねぇだろ。」
彼は俯きながらも答えた。
「俺がいても変わらねぇよ。俺はもう戦う力なんて残ってない。はなから戦力としてかぞえられてないよ。それはお前もそうだろ危険を察知して早めにお前が立ち回って居なかったらこんなことにはなってない。」
シルバが俺とかいうのは珍しいが俺は冷静さが足りず、シルバに掴みかかった。他がすぐに手を解いた。今ここで何をしても無駄だから。
「それも大事な話だが。ルークさんよ俺はあんたに話があるんだ。あの雷神はどうやって打ったんだ。そして、淵舞はどんな技なんだよ。」
あれだけは言いたくない。雷神は言ってもいいが淵舞は言ってしまうべきでは無い。
そんな事も知らず、シルバが語り出した。
「淵舞は闇の魔術だろ? ルーク。闇や光、重力は独立した魔術だから四災の力では消されない、だが闇魔術を利用することは正直良くない……だからお前も10秒程度で倒れてしまった。それでお前は四災の力を取り込みながら淵舞を打ってるから尚更だな。」
「なんでシルバが知ってんだよ。」
「俺も似た技が使えるからな気持ちは分かる。他が使うのは程々にしろよ。ただでさえ四災に力を奪われているのに闇にまで飲まれてた意味が無いぞ。」
そこでとりあえずの会話が終わった。騎士団の選抜では、ザクロ・グラス、ライム・レオン、トーチの3人を騎士団に認める結果になった。
パール・ライトは意識不明の重体で未だに目を覚まさない。
俺たちはどん底に落とされた中、1人だけ輝いている姿があった。ラインだ。
俺は四災を倒す前は雷魔術は割と自信があったのだが、ラインがそれに興味があるらしく、ラインに魔術を教えて欲しいと懇願しているんだ。
ラインは広範囲魔法は得意だが魔力を圧縮するのが苦手らしく苦戦していた。彼の膨大すぎる魔力を1点に集中するのは難しいだろう。
「魔術はな、範囲攻撃したいなら腹辺りに力を溜め込むイメージだ。一点を狙いたいなら手だけに力を入れることだ。これを使ってみろ。」
そう言って俺が渡したのは俺の姿を風船だった。
「この風船は一点に力を入れない限り割れてしまうようになってるだからこれを割らずに魔術を込めれるようになるまでは力をコントロール出来ないからな。」
* * *
「グラスお前は、ルークを殺せなかったな。」
「俺は殺したくないです誰も……」
覆面の男はグラスをぶん殴った。
「そんな気持ちなら今からでもお前を殺せるんだ。グラス俺たちの恩を決して忘れるなよ、だれがルークと結びつけてやったんだか。」
グラスは何も言うまもなく覆面の男は去っていった。