夏休みの再放送アニメへの追憶
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
小学校が夏休みに入った事もあり、娘の京花は午前中をノンビリと過ごす事が多くなったの。
私が呼びに行かなければ朝ご飯にだって来ないのだから、全く困ったものだわ。
「京花、呼ばれたら早く来なさい。」
「アハハ!ランドセルを学校に忘れるだなんて、伸也君ったら本当に鈍臭いなぁ!って…うわっ、お母さん!?」
テレビに映っていた「お願い!バケねこん」の掛け合いに没頭していたのか、娘は後ろを取られるまで私の存在に気が付かなかったの。
「何をグズグズしてるの、京花。もう朝ご飯だってのにアニメの再放送に現を抜かしちゃって…」
「ああっ!待って、待って!仕方ない、続きは後で見る事にしよっと。どうせ次話配信までにはまだ時間があるからね。」
そうして京花が慣れた手付きでリモコンを操作すると、畳に突っ伏して噴水みたいな涙を流していた伸也君の泣き声はピタッと収まり、代わりにスマホやパソコンでも御馴染みの動画アプリのメニュー画面が表示されたんだ。
そういえば今年の春から、京花の部屋のテレビもスマートテレビに買い替えたんだっけ。
「なぁんだ、京花。動画アプリの公式配信でアニメを見ていたのね。お母さんったら、てっきり『夏休み子供マンガ大会』で再放送を見ていたのかと思ったわ。」
「それって確か、私が幼稚園の時にやっていた再放送枠じゃない?気がついたら枠ごとなくなっちゃってたけど、あれはあれで風情があったなぁ。私が生まれる前にやってた『鋼鉄武神マシンオー』とか『キョンシーガール珠々ちゃん』とかが、平日の午前中に帯放送されていてさ!」
小学生という若さにも似合わず郷愁に浸る我が子に呆れながら、私は何とも言えない寂しさを感じていたの。
動画サイトやサブスクでの公式配信が普及した現在では、夏休みにおけるアニメの再放送枠はあまり重要視されていない。
少なくとも、私達が今の京花と同年代の子供だった頃に比べたら…
この出来事を会社から帰宅した夫に話してみると、何とも興味深そうな顔をして話題に食い付いてくれたの。
「僕が子供の頃は、夏休みや冬休みの再放送は待ち遠しくてたまらなかったなぁ。小さい頃に見た『少年太公望』や『マスカー騎士』が新聞の番組表に載っていたら、宿題なんかそっちのけでチャンネルを合わせていたのに。」
「そうそう、話の内容や掛け合いも何となく頭に入っているのに、それでも見ちゃうのよね。今回の再放送を逃したら、次は何時に見られるのか分からない。そう考えると、台詞の一字一句や些細な一カットも疎かには出来なかったわ。」
私達の子供時代には、毎週予約をしてくれるHDDレコーダーなんて便利な物はまだなかったわ。
録画と言えばビデオテープが一般的だけど、お小遣いの限られている小学生では再放送を全話録画出来るような本数のテープを買うなんて流石に現実的じゃないのよね。
それに映像ソフトで見逃した回を補おうとしても、近所のレンタル店にビデオが置いてあるとは限らないし、ましてやセルビデオやレーザーディスクなんて高価な代物は望外の贅沢品だったわ。
だけど、そんな具合に不便で至らない所があったからこそ、好きなアニメや特撮と夏休みの再放送で再会出来た時の喜びも際立つのよね。
「あれは確か、畿内大学に入学した年の夏休みだったかな。初代『アルティメマン』が南近畿テレビで午前中の平日に再放送されていて、奮発して標準速でビデオに録画したのは。」
「ああ、なるほど!映研の部室でアルティメマンの映像を参考資料として見せて貰った事があるけど、あれは再放送版だったのね。まさか十数年越しに出処を知る事になるとは、私も思わなかったわ。」
特撮ヒーロー番組の「アルティメマン」は、私達夫婦にとって特別な意味を持つ作品なの。
同じ大学の映画研究会に所属していた私達はホラーやSFのような特撮技術を駆使した映画をよく撮っていたんだけど、それらのフィルムには丸川プロダクションが創造した光の巨人のイメージが大なり小なり反映されていたのよね。
「大好きなアルティメマンの映像を手元に置けたのが嬉しくて、何度となく見直したっけ。そのお陰で、アルティメマンの主題歌を聴くと再放送の時の事が色々と芋蔓式に浮かんで来ちゃうんだよ。提供クレジットを再放送用に差し替えた事で映像の最後の辺りが静止画になっちゃったり、合間に流れるCMがローカル色の強い物になっていたりさ。この辺りだと、大浜潮湯や高鳥屋百貨店のCMがよく流れていたっけ…」
「そうそう!分かるわ、修久さん。大浜潮湯のサマービュッフェの告知とか、高鳥屋百貨店堺東店の屋上で開催されるキャラクターショーのCMとか!」
夫が畿内大学映画研究会の新入部員だった時、私は志望校へ入学するために受験勉強に邁進する高三の女子生徒だった。
だからテレビもそんな悠長に見ていらる身分ではなかったんだけど、それでも地元のローカル局で夏休みにやっていたアルティメマンの再放送は、何となく覚えているの。
DVDやブルーレイといった映像ソフトは少し気の利いた家電量販店やネット通販を使えば簡単に手に入るし、ネット環境さえあればサブスクサービスや動画配信で居ながらにして色々な作品にアクセス出来る。
視聴環境にだけ注目すれば、京花の世代は私達の子供時代よりも恵まれているのかも知れない。
だけど私としては、夏休みの午前中に編成されていたアニメや特撮の再放送枠の思い出をどうしても忘れる事が出来ないのよね。
もしも何かの拍子で、夏休み子供マンガ大会が再開されたなら。
その時は願わくば、京花と一緒に見てみたいものだわ。