第二部
3
月曜日を迎えていた。
働く者にとって、この日の朝ほど無慈悲なものはない。休息から労働へと精神の切り替えを余儀なくさせられる。
しかも私は休日出勤のせいで、切り替えどころの騒ぎではない。単なる労働の連続になってしまった。
それでも疲労をワイシャツで覆い隠すと、何事もなかったかのように家を出た。
会社に向かう車の中、自然とミツコのことが頭に浮かんだ。
彼女はもう出社しただろうか。今朝は見積もりの提出期限である。果たして彼女は間に合わせることができただろうか。本気で心配している自分が可笑しくなった。
しかし、ミツコのことだ。図面の隅々まで緻密な計算を入れて、首尾よく完成したに違いない。上司からねぎらいの言葉の一つも貰って、悠然と今日の仕事を始めているのではないだろうか。
朝の大渋滞を抜けて、ようやく会社に到着した。自分の席につくなり、電話機を見つめた。
今夜はミツコから連絡があるだろうか。
いや、その可能性は低い。私はあっさりと自分の考えを否定した。
徹夜明けの初日から、再び夜遅くまで仕事をするとは考えにくい。今日のミツコは定時に上がるのではないだろうか。
となると、今度彼女と話せるのは金曜か土曜の深夜になりそうだ。それまでは彼女に負けないよう、しっかり仕事に精を出すことにしよう。
私はミツコを思い出すことで、疲れた身体に鞭を入れているのかもしれなかった。
水曜日の夜だった。
得意先の棚卸しに付き合わされて、帰社したのは夜十時を回っていた。すでに他の社員は皆帰ってしまっていた。
営業マンは月末になると、このような予期せぬ残業を強いられることがある。
私は営業車から降りると、真っ黒な社屋を見上げた。裏口の鍵を開け、事務所に入ると明かりを点けた。
誰もいない事務所に私の足音だけが響く。
やっと自分の机まで戻って来た。書類が乱雑に積まれている。外出中に何件か電話があったようだ。それを知らせるメモがテープで貼り付けてある。
こんな雑然とした場所でも、心が落ち着くのだから不思議なものである。
私はネクタイを外して、机の上に放り投げた。
酷い一日だった。
得意先の社員の一人が風邪で寝込んでしまったのである。その欠員を補うべく、突如私が借り出されたという訳である。
営業マンは時に便利屋みたいなものだと思う。
私は同僚の椅子に足を投げ出すと、身を沈めるように、背もたれに頭をつけた。
理不尽な疲れが身体に残留している。肉体よりも先に精神が破壊されそうだ。
今日は自分の予定していた仕事がまるでできなかった。
しばらくだらしない姿勢のまま、時の流れに身を委ねていた。
かろうじて残された気力で真っ先に思い出したのは、やはりミツコのことだった。
彼女は今頃どうしているだろうか。
私はこのまま会社を去る気にはなれず、時間が経つのをじっと待った。
もしかしたらミツコから電話が掛ってくるかも知れない。そんな予感がするのだ。
私たちの相性は案外良さそうである。だからどちらかが会いたいと念じれば、恐らく簡単に再会できるような気がする。
嵐のように過ぎ去った今日一日の出来事をミツコに聞いてもらいたい気分だった。
私は目を閉じて、彼女からの電話を待つことに決めた。
どのくらい眠っていたのだろう。
突然、身体に電気が流れたような衝撃を覚えた。知らず身を守ろうと、両足がびくんと反応した。思わず椅子から転げ落ちそうになった。しかし何とか踏みとどまった。
首が痛い。長いこと不自然な格好でいたせいである。
時計を確認する。
まもなく午前一時になるところだった。
どうやらミツコからの電話はないようだ。今夜、彼女は残業してないらしい。
私はミツコが電話を掛けてくると信じて疑わなかった。根拠はまるでないのだが、自分が事務所にいるからには、彼女もいるにちがいない、そう思い込んでいた。
しかし実際、二人の心はそこまで強く結ばれてはいなかったのだ。
(今日のところは帰るとするか)
しばらく机の電話機を見つめてから、潔く立ち上がった。
金曜日、私はめずらしく定時に仕事を終わらせることができた。
今夜はミツコから電話があるだろうか。
どうも自信がなくなってきた。もしかすると、ミツコと私は互い違いに残業をして、結局連絡がつかない状態に陥っているのではないか。
いやそれよりも、彼女の方は私のことなどすっかり忘れて、そもそも電話を掛けていない可能性だってある。
さて、今晩はどうだろうか。
しかし今この時間から深夜まではかなりの時間がある。まさかそれまでここで待っている訳にもいかない。
それに、たとえ彼女が電話を掛けてきても、こちらが待ってましたとばかりに応じるのもどこか癪である。
ミツコには、私と同じ気持ちを味わわせたいと思う。つまり話そうにも肝心な相手が現れないというもどかしさ、まさに今の私の心境である。
ミツコが私をどう思っているのか分からないが、そろそろ私と話したい気分でいるのではないだろうか。そんな彼女の気持ちを多少焦らしてみるのも、面白い試みのような気がする。
そんなことをあれこれ考えながら、私は帰途についた。
家に帰ってから、風呂に入り、テレビを観ていたが、どこか落ち着かない。
どうしてだろうか。
やはりミツコのことが気に掛かるのだ。
彼女の会社は週休二日だとは思うのだが、前回の電話は確か土曜の夜だった。もしかすると隔週で土曜日は出勤日なのだろうか。
もしそうならば、先週の土曜は出勤で、明日の土曜日は休みになる。となると、休日前の夜は仕事を抱えて、残業する可能性が高くないだろうか。
やはり今夜は彼女から電話があるような気がする。
これを逃せば、来週末まで彼女と話すことができなくなってしまう。
私はいつの間にか服を着替えて、仕事もない会社へ向けて出発していた。
照明のすっかり落ちた会社の駐車場に車を停めた。
今日は二度も出勤したことになる。社長が見たら、私のことを実に仕事熱心な社員と思うに違いない。
私は鍵を開けて、事務所に身体を滑り込ませた。
もし同僚と出くわしたら何と言い訳すればいいだろうか、そんなことをふと考えた。
自分の椅子に座ると、机にワンセグテレビを置いた。そしてスイッチを入れた。
そうだった、確かあの日もこうしてテレビを観ていたのだ。今夜はサッカー中継こそないが、これで条件は整ったような気がする。
十中八九、ミツコから電話がくる、そんな自信がどこからともなく湧いた。
私はテレビを観ながら、時に受話器に目をやった。
時刻は今、十二時を回った。
彼女は絶対に今夜、電話を掛けてくる筈だ。
時が静かに流れていく。
いつしか私の目には、テレビの映像は映っていなかった。ミツコは今夜、私に会いに来てくれるだろうか、そんな想いだけが心の中を占拠していた。
突然、事務所の電話が一斉に鳴り出した。
空気を震わせるその音は、別段私を驚かせなかった。やはり来るべきものが来た、という感じだった。
やっぱりミツコと私は相性がいいのだ、そう確信した。
「もしもし」
深夜の室内に、私の声が力強く響き渡った。
「もしもし?」
受話器からは控え目な声がした。その声がミツコと分かるまでに、まるで時間を要しなかった。
「ヒロシさんですか?」
すっかり忘れていた。私の名前はヒロシだった。
「こんばんは、ミツコさん」
「ああ、よかった。居てくれたのですね」
彼女の声は、ぱっと花が咲いたように明るくなった。彼女は私との会話を心待ちにしていたのだ。それは私も同じである。この瞬間をどれほど待ったことか。この嬉しさは言葉では表せないほどである。
「ミツコさんは、今日も残業ですか?」
「はい、そうなんですよ」
彼女は以前と同じ調子である。一週間という空白を一気に飛び越えた。まるであの日に戻ったようだった。一旦休憩を挟んだ後、今続きが始まったような感覚だった。
「また、一人で見積もりを?」
「はい、その通りです」
そう答えながらも、ミツコは今にも笑い出しそうである。
自分の理解者がいてくれる。そのことに彼女は喜びを感じているのだろう。
私も心が軽くなる。
今晩のスタートラインは、先週よりも遥かに前進していた。お互いの立場を理解しているところから始められる。
ミツコと話したいことが山ほどあった。何から話せばいいだろうか。
「そう言えば、前回の見積もりはどうなりました?」
まずはそんな疑問から投げかけてみた。
「確か月曜提出でしたよね。あれはどうでしたか?」
「はい、何とか間に合わせました」
「それはよかった。実は電話を切った後も、もしや仕事の邪魔をしたのではないかとずっと気掛かりだったのです」
「それは全然問題ないのですけれど、その後が良くないんです」
ミツコの不満が受話器を通して、ひしひしと伝わってくる。
「どうかしたの?」
私はすかさず訊き返した。
「朝、見積もりを受け取るなり、上司は何て言ったと思います?」
私には見当もつかなかった。計算が間違っていたのだろうか。
口も利けずにいると、ミツコは言葉を続けた。
「その物件は他社に決まったから、見積もりは必要なくなった、ですって」
「えっ、そうだったんですか?」
私は心底驚いた。何という仕打ちだろうか。それでは彼女があまりにも可哀想だ。
「ホント、失礼しちゃいますよね。こっちは深夜までかかって仕上げたというのに」
確かに彼女の言う通りである。これでは労働意欲もそがれてしまう。
「私の上司は、逆ホウレン草なんです」
「えっ、何ですって?」
私は聞き慣れない言葉にそう反応した。
「ほら、ビジネスのホウレン草っていうのがあるじゃないですか」
ああ、そのホウレン草か。
二人は声を合わせて、
「ホウこく、レンらく、ソウだん」
と言った。
「そう、それなんです。上司はいつも社員にホウレン草を説いてるくせに、自分こそ、私に報告せず、連絡せず、相談もしないんですから、逆ホウレン草という訳です」
「逆ホウレン草か、そいつはいい」
私は不覚にも声を立てて笑ってしまった。
「私、別のお野菜で上司を表現できますよ。月曜日の昼間にずっと考えていたんです」
「別の野菜?」
「カボチャです、いいですか」
ミツコは少し間を置いて、
「カんがえることなく、ボさっとしているだけ、チャんと仕事しなさいよ」
そう一気に畳みかけた。
私は、涙が出るほど笑った。
上司への復讐としては、ささやかだが上出来である。そんな語呂合わせを、昼間に一生懸命考えていたと思うと、なお可笑しかった。しかし、そんなひどい目に遭わされたというのに、結局彼女は次の見積もりを引き受けているではないか。
私は彼女に親近感が湧いた。
「でも、本当は私、上司を恨んでなんかいませんよ」
ミツコはそんなふうに言い出した。
「だって、あの日徹夜したおかげで、ヒロシさんと知り合えたのだから」
確かにそうである。もし上司が彼女に見積もりを頼まなかったら、二人が出会うことはなかっただろう。その意味では、カボチャ上司に感謝するべきなのか。
「あの晩、サッカーの選手たちと、ヒロシさんに元気の素を貰ったと思うんです。私も頑張ろうという気になりました」
「いや、僕の方こそ、君のことを思い出して、一週間仕事を続けられました」
それは本当の話だった。今の自分にとって、ミツコは大きな存在だった。
「ヒロシさんは、あの後、お仕事大変だったでしょう?」
ミツコが訊いた。
私は日曜日ヘルパーとして仕事に出た時の話をした。
ミツコは興味深そうに聞いていた。
「そう言えば、テレビはどうなりましたか?」
私は突然思い出して訊いた。
「あのままです」
「ずっと壊れたままなんですか?」
「はい、仕方がないので図書館で本を借りてきて、夜はそれを読んでます」
「へえ、それはまた随分と生活が変わってしまいましたね」
「そうでもないんですよ、これでも私、学生時代は文学少女でしたから」
それは意外だった。自分の中で、積算課の女性と文芸とがどうにも重ならなかった。
「どうやら僕の持っているイメージとは違うみたいですね」
「えっ、それはどういう意味ですか?」
ミツコはこの点は譲れないとばかりに、勢い込んで訊いてきた。
「頭の回転が速くて、鋭い感じ。すらりと背が高くて、黒縁のメガネを掛けている」
ミツコは思い切り笑い出した。
「それは全然違いますよ。数学は大の苦手。背は高くないし、メガネも掛けてません」
「それじゃ、もし君が目の前を通り過ぎても、気づかなかったかもね」
「何の話ですか?」
「店に出ていた時、テレビ売り場に女性がやって来る度に、ミツコさんが来たんじゃないかと思っていたんです」
「それで、私は見つかりましたか?」
「いえ、見つかりませんでした。今思えば、まったく違うタイプの女性を探していたことになります」
ミツコは笑ってから、
「残念ながら私、お店には行けませんでした」
と言った。
そうだ、ミツコはこの電話をどこから掛けているのだろうか。
「ミツコさんは日本のどの辺に住んでいるのですか?」
思わず私は訊いていた。
彼女は何かを言い掛けたようだったが、途中で止めてしまった。
「それは内緒。だってその方がロマンチックじゃないですか」
そう言い出した。
「でも私の方は、ヒロシさんの住所を知ってますから、ちょっと不公平ですよね」
「えっ?」
自分の住所をミツコに教えた覚えはないのだが。
ミツコは含み笑いをして、
「だってこの携帯電話に、ヒロシさんの会社の番号が表示されてますので、市外局番を調べれば、大体分かります」
「ああ、そうか。ここはそちらから遠いですか?」
「そうですね、ちょっと遠いと思います」
私は感慨が湧いた。
そんな離れた場所から、ミツコは自分に電話をくれている。
そんな遠くから、私を元気にしてくれているのだ。
私は受話器を強く握りしめた。
誰もいない深夜の事務所に、二人の会話だけが淀みなく流れていた。
ミツコは私の住んでいる場所の見当をつけていた。しかし私の方は、彼女の住所をまったく知らない。
彼女の言う通り、それは確かに「不公平」である。
「ミツコさんは、どんな街に住んでいるんですか?」
私は訊き方を変えてみた。
「平凡な街だと思いますよ。大都市でもなければ、極端な田舎でもない。ありふれた街でしょうね」
彼女はそう答えたが、私はミツコの住む街にひたすら興味が湧いた。
「海とか山とか、特徴的なものはありますか?」
「海なら、割と近くにありますよ」
「ミツコさんは、そこで泳いだりするのですか?」
「いいえ、全然。学生時代プールで泳いだきりですね」
彼女のかすかな笑い声が受話器から伝わってくる。彼女は私との会話を楽しんでいる。そんな彼女の様子が、私の気分を明るくする。
「近くに観光地はありますか?」
「むむ、それはいいところを突いてますよ。結構、有名な観光地があります」
しかし彼女はそれ以上詳しく教えてくれなかった。確かに観光地の名前を言った途端、どこか分かってしまうだろう。
彼女の住む街は、海があって観光地もある。
それはヒントのようで、ヒントとは言えない。日本のどの街もそんな感じである。これでは彼女に迫っているとはとても言えない。
「やっぱりヒロシさんも気になりますか?」
ミツコは、ぼそりと言った。
「えっ、何が?」
私はそのわずかな言葉を聞き逃さなかった。自然と訊き返した。
「相手がどこの人だろうって。無性に知りたくなりますよね」
彼女は実に楽しそうに話す。自分は彼女とは昔からの親友のような気になっていた。
「実は私、電話を切った後、すぐに市外局番を調べてみたのです。ほら、電話帳の後ろに載っているでしょ?」
ミツコも私のことが気になっていたのだ。嬉しくなった。
「でも、距離なんてカンケイないですよ」
ミツコは続ける。
「近くにいても疎遠な人だっている。逆に、あなたのように離れていても、とても親密に思える人もいるんですから」
その言葉に心が動いた。まったく同感だった。
「ミツコさん、会社に同世代の女性社員はいないのですか?」
私はそんなことを訊いてみた。
「小さな営業所ですからね。私の他にもう一人女性がいますけど、その方は私よりもずっと年上です」
「同じ積算課の方ですか?」
「いいえ、その人は完全な事務員さんで、積算課は私一人です」
ミツコは、昼間はその人の指示で事務仕事をやらされている訳か。その合間に一人で見積りをしている。
私は孤独に働く女性の姿を想像した。電話口の明るいミツコとはどうにも重ならない。
「でも変ですよね。私一人しかいないのに、積算課だなんて」
「確かに大げさに聞こえますね」
大会社ほど、名目や所属だけはやたらと主張するものだ。しかし地方の営業所では、その区分けは実に曖昧で、他の仕事も兼務しなくてはならない。現に彼女も本来の仕事以外のことで忙殺されている。
「でも、手当は付くんでしょ?」
「私に、ですか?」
彼女は確認するように訊き返した。
「だって積算課で、特別な仕事をしているのだから」
「いえいえ、そんなのはありません。ウチの会社は、営業は全員本社採用ですが、事務員は現地採用なんです。ですから給料体系も全然違うんです」
「へえ、そうなの?」
「社員にもランクがあって、私は地元採用ですから営業さんより下なんです」
大企業には、社員にそんな区分けがあるのか。それは知らなかった。
「だからお給料もまるで違いますし、住宅手当も私にはありません。一人アパート住まいするのも、結構大変なんですよ」
いつしか彼女の悩みを聞いてやっている自分がいた。
不思議なことに、彼女の話は飽きることなく、いつまでも付き合ってやれそうな気がした。
「あら、もうこんな時間なんですね」
ミツコが突然そんな声を上げた。
私は反射的に時計を見た。午前一時半を回っていた。
「すみませんが、ヒロシさん、今日はこの辺で」
「分かりました」
私は素直に応じた。
「実は明日、結婚式なんです」
「えっ」
私は驚いた。
「結婚されるんですか?」
「いえいえ、私じゃありません。友人です」
なんだ、そうだったか。
冷静に考えれば分かることである。結婚式を明日に控えた新婦が、こんな遅くに会社に残って見積もりをしている訳がない。
結婚するのが彼女ではないと分かって、妙な安心感が生まれた。この気持ちは何なのだろうか。
「それではヒロシさん、さようなら」
「さようなら、ミツコさん」
私は受話器を置いた。
今晩はあっさりと終わってしまった。彼女に明日の予定があるのだから仕方がない。しかし私の身体は途端に寂しい気持ちに包まれていた。
彼女が突然会話を終わらせてしまった。そのため、こちらはどうすることもできなかったが、実は次いつ話せるか、彼女と相談しておこうと思っていたのだ。
電話の日時さえ決めておけば、お互いすれ違いをしなくて済む。実を言うと、今晩ミツコは携帯の番号を教えてくれるのではないかと期待していた。しかし次の電話の取り決めすらしなかった。
彼女にとっては、この深夜の電話は、それほど積極的なものではないらしい。所詮彼女は、仕事で溜まったストレスのはけ口として、この電話を利用しているに過ぎない。
でも、それもいいのかもしれない。
ミツコが話したくなったら、電話をくれればよい。
その時をじっと待つことにしよう。
私は、椅子から立ち上がった。