お休みにカフェに皆で行くことにしました
「アル様、シルフィさん。私もご一緒させて頂いて宜しいかしら?」
タチアナ様が言ってきた。うーん、いきなり怒られるかと思っていた私は肩透かしを食らった。
「ああ、良いけれど」
アル様は戸惑いながら頷かれた。
私も慌てて立上って
「どうぞお座りください」
と頭を下げる。
タチアナ様は私の横に座られた。タチアナ様と一緒に座るのは入学式以来2回めだ。
私は緊張してしまったが、クンラートに向かって何で連れてきたのよ。と視線で聞く。折角二人で食べられる機会だったのに!
それともクンラートはタチアナ様と二人で食べるなんて出来ないほどのヘタレなんだろうか?
なんか、クンラートが目で謝ってくるんだけど。やっぱりヘタレの方なんだ。
でも、私も憧れのタチアナ様を前にして、緊張しているんだけど。
何なんだろう。この沈黙は。二人は黙々と食べているし、私は緊張のあまりあんまり話せない。
私は必死にアル様に話してくれと合図した。
でも、アル様は知らない顔で食べている。
ムカついた私は思いっきりアル様の脚を蹴った。
「痛い!」
思わずアル様が叫ばれる。
「な、何し・・・・」
私の必死にの視線を受けて、アルさまはムッとした。
が、次の瞬間ニコッと不吉な笑みを浮かべられた。これは絶対に嫌なやつだ。私は蹴ったのが失敗だったと知ったのだが、もう遅かった。
「タチアナ嬢。君の横にいるシルフィア嬢は、何でも、夢にまで君を見る君の大ファンなんだそうだぞ」
アル様は爆弾発言をしてくれた。
そらあそうだけど、今、それをバラすか!
「いや、あのその・・・・そんな訳では」
私は真っ赤になって言い訳する。
「あれ、シルフィ、君は俺に確かそう言っていたと思ったけれど」
その変な笑みを止めて欲しいわ。アル様は本当に意地悪だ。
「はいっ。そうなんです。昔からタチアナ様をお慕い申しておりました」
私は真っ赤になってそう言った。
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいわ。でも、あなた、私の家に来たことあったかしら? 何故私のペットがラートという名前だと知っているの?」
「何でも、夢で見たそうだぞ」
言わなくてもいいのに、アル様が言ってくれる。
「夢で?」
不思議そうにタチアナ様が言われる。
「そうだ。こいつは王太子が隣国の姫に振られたのも夢で見たと言ってくれたからな」
それを聞いてタチアナ様は呆れた顔をして私とアル様を見比べてくれた。やっぱり夢というのは荒唐無稽過ぎただろうか。
「まあ、殿下の失恋のお話は高位貴族の間でも、結構噂になっておりますから」
タチアナ様はさも当然のように言われた。
「そうなのか。極秘になっているはずなのだが」
「貴族のうわさ話ほど早いものはありませんわ。隣国では平民でも知っているほどですら。皆に知れ渡るのも時間の問題かと」
タチアナ様の言葉に何故かアル様はショックを受けられたようだ。
ちょっとそこで話を止めちゃ駄目だって。
私は必死に話題を探した。
「この、ほうれん草、美味しいですよね。味がしみていて」
私はなんとか眼の前の食材に話題を移してそのほうれん草を食べながら言った。
「えっ、そうか。俺はこのほうれん草の苦味が苦手だ」
クンラートのボケナスが私が折角作った話題を台無しにしてくれたんだけど、潰すなら他の話題出せよ。怒った私はクンラートを睨みつけた。
「そうですか。でも私はこの苦味も好きです」
さすがタチアナ様だ。どこかのボケナスとえらい違いだ。
「そうかな」
「ベーレンズ様。好き嫌いはよくありませんよ。お貴族様は食事会に呼ばれる事も多いと思うのです。そんな時の料理はその領主の自慢の料理だと思うんです。それを残すということは、下手したら社交に大きく影響すると思うんです」
「えっ、バースさんはそんなことまで考えているんだ。平民なのに」
クンラートが驚いた顔で私を見た。
「母が言ったんです。あなたも他のお貴族様にお仕えすることもあるでしょう。だから好き嫌いはダメだって。私なんか、母に嫌いって言ったら、その食材を好きになるまで毎日出されて本当に大変だったんですから」
「へえええ、シルフィのお母さんって結構スパルタなんだな」
「そうなんです。本当に大変だったんですから」
アル様に感心されて私は頷いた。
アル様はデザートを食べようとしてスプーンを止められた。
「あれ、シルフィ、デザートは」
「そこまで気が回らなくて」
私が物欲しそうに見ていたんだろうか?
「じゃあ、これ食べるか」
「えっ、でも、そんな」
遠慮しようとする私に、アル様はあっさりデザートをくれたのだ。
「まあ、良いよ。女性は甘いもの好きなんだろう」
「本当ですか。ありがとうございます」
私は遠慮しようかどうしようか悩んだけど、くれるというならば貰うことにした。
スプーンをすくって一口食べる
「美味しい」
私は笑って言った。
「女って本当に甘いもの好きだな」
クンラートが呆れて言う。
「だって、ブルーセマ様も甘いもの好きですよね」
私はタチアナ様が甘いものに目がないのをよく知っていた。プリンとかを本当に嬉しそうに食べているシーンの絵を見たことがあったのだ。
「えっ、まあ、嫌いではないですわ」
タチアナ様は相変わらず、テンプレ全開だ。
ここは、カフェなんかにタチアナ様を連れていけば良いんじゃないかな。
私は言外に必死にデートの約束を取り付けろとクンラートに視線を送るんだけど、クンラートはキョトンとしている。
「シルフィ、都内に出来た、新しいカフェがあるんだけど、連れて行ってやろうか」
アル様が言ってくれたんだけど、
「えっ、本当ですか」
思わず喜んでしまった。でも、お貴族様にそんなところに連れて行ってもらったら母からなにか言われるかもしれないと躊躇すると、
「タチアナ嬢もクンラートと一緒にどうだ」
アル様が誘ってくれた。そうだ。そうすれば、タチアナ様とクンラート様のためにもなるし、グループで行くなら問題ないだろう。
「そこは、チョコレートパフェが有名なんだ」
「ひょっとして『茶色い帽子屋』ですか」
私が王都にできた所の人気店の名前を出すと、
「そうだ」
アル様が頷いてくれた。これはめちゃくちゃラッキーだ。
「えっ、そうなんですか。私もぜひとも行ってみたいと思っていたんです」
タチアナ様も乗ってきた。
私はそのチョコレートパフェなるものがどんなお菓子なのか、早速期待で頭の中が一杯になったのだ。
シルフィは甘いものに目がありません。