悪役令嬢と婚約者を一緒に食事させるためにアル様と食事することにしたら、二人してこちらに向かってきました
どうしよう!?
私は自分がヒロインだと知って唖然としてしまった。
私にとってはタチアナ様は前世で生きる力を与えてくれた、大恩人、神様に等しい人だった。
ゲーム上のタチアナ様は悪役令嬢だ。そして、私がヒロインと言うことは、その悪役令嬢と対立するのがこの私、ヒロインの役目なのだ。
でもタチアナ様の婚約者はクンラート様で、ヒロインの私がそのお二人の邪魔さえしなければ良いのではないか。
そうだ。確か、第2攻略対象の確か公爵令息とか留学している隣国の王子とか狙えば良いのではないだろうか?
いやいやいや、待って! 私の家はそもそも男爵ですらない平民なのだ。公爵だろうが隣国の王子様であろうが、到底家格は合わない。それはクンラート様でも同じだ。そんな方々と恋仲になるなんて、絶対に無理だ。というか、そもそも、どう見てもタチアナ様とクンラート様は相思相愛の仲みたいだし、何もしないでもお二人はうまくいくのではなかろうか。私はそう思っていたのだ。
でも、今日も学食で見る限り二人は妙によそよそしかった。
せっかく、私があんな恥ずかしいことバラしてあげたのに、何やっているのよ。
私の怒りはクンラート様に向いた。
「ちょっとベーレンズ様。何でタチアナ様がちらっと見られたのに、無視してこちらに来るのですか? 一緒にお昼食べられたら良いではないですか」
「はあ、そんな小っ恥ずかしいこと出来るわけないだろう!」
赤くなってクンラートは言ってくれた。
「本当にヘタレなんだから」
私がムッとして睨む。
「お前本当に失礼な事言うな」
少しムッとしてクンラート様が言われる。
いや、私が悪いのか?
いやいやいや、あんなにがっかりしたタチアナ様を残してこっちに来るこいつが悪いだろう!
私が睨み付けると、
「それに、そんな事したら、アルが一人ぼっちになるだろうが」
と、言い訳してきた。
「俺は別に一人でもかまわないが。どのみち、ここにシルフィがいるから一人ではないし」
「いやいや、お前をこんな変な女と一緒になんてしておけるか!」
「変な女ってなんなんですか。変な女って」
私がムッとして言い返した。
「いや、名前呼びは下手な誤解与えるし、バースは文官でいるから、ややこしいし」
「でも、変な女は嫌です」
「なんかお前、変な所にこだわるんだな」
いやいやいや、名前は大切だ。
「まあ、クンラートが俺が一人で食事するのをそこまで気にするなら、俺はこのシルフィと一緒にここで食事するから、クンラートはタチアナ嬢と一緒に食事すればいいだろう」
アル様がとんでもないこと言い出したんだけど、ムッとしてみると
「お前、クンラートとタチアナを一緒に食事させたくないのか」
と囁かれて
「わかりました。私がここでアル様と一緒に食事しますから、クンラート様はタチアナ様と食事してください」
仕方なしに私は頷いたのだ。
翌日だ。私は初めて学食で食べることにした。そうだ。今日は私の推しのタチアナ様が、愛しの婚約者のクンラート様と初めて一緒に学食で食べられるのだ。これを学園デートというのだろうか?
私は朝からうきうきだった。
「シルフィ、えらくご機嫌ね。今日は好きな人と一緒にお昼食べるの?」
いきなりは母がとんでもないことを聞いてきたのだ。
「そんなわけないでしょ。友達と食べるに決まっているでしょ!」
私は言い切った。確かにアル様は異性だけど、恋人ではない。私はなんとも思っていないし、アル様も思っていないはずだ。
「朝からなんかソワソワしているから、そうかなって思ったんだけど」
「いやだから友達だって」
私が再度いう。
「まあ、いいけれど、もしお相手がお貴族様だったらほどほどにね。何しろあなたは平民なんだから、お貴族様とは釣り合わないからね。遊ぶだけ遊ばれて棄てられるのが落ちだから」
何か母の言葉は実感が籠っているんだけど、昔、何かあったんだろうか?
でも両親は恋愛結婚だと聞いているけど?
まあ、アル様と恋愛になるなんてあり得ないし、私はそう思って、私はさっさと家を出たのだ。
初めて学食で食券を並んで買うのがまた大変だった。凄い列なのだ。
何だったら用意しようかとアル様には言われていたのだが、私は平民、何でも自分でやらないといけないのだ。
でも、この列、本当に凄いんだけど。
私は学食の列を舐めていた。でも、これって高位貴族の方も同じなんだ。並ぶという行為を初めてされて、高位貴族の方々も平民の暮らしを少しは味わうという思考なんだろうか。前世では自動販売機だったが、ここでは当然人手だ。おばちゃんが3人で必死に捌いている。そのおばちゃんからA定食の食券を買い求めた。
そして、そのままA定食に並ぶ。
食堂のおじちゃんから受け取ると、それを持ってアル様のいる端の席まで持っていった。
アル様のいる端の席は空いていたが、そこまでが結構混んでいた。
「おまたせしました」
私はアル様の前の席に腰掛けた。
「結構並ぶだろう」
「本当にすごいですね。次からはお弁当にします」
私は呆れて言った。
「弁当か、それも良いかもしれないな」
アル様が言われた。
「1つ作るのも2つ作るのも同じなので作ってきましょうか」
「えっ、本当か」
「はい。別に問題はありません」
私がそういうと嬉しそうにアル様は微笑まれた。
うーん、美形の微笑みは流石に凄い。私はよろけそうになった。
いやいや、それよりもタチアナ様は・・・・
そちらを見るとお一人で座っていらっしゃる。あれ? クンラートは・・・・
見るとなんか10メートルくらい離れてトレイを持って突っ立っているんだけど。
何してるのよ?
何故かこちらを見るんだけど。
「早く行きなさいよ」
思わず私は声が出てしまった。
やばい、慌てて口を押さえる。
「早く行きなさいか。凄いな、王弟の息子に対してそんな事言うなんて」
アル様はお腹を抱えて笑っていらっしゃる。
「アル様も笑っていないで何とか言ってくださいよ」
ムッとして私が言う。
「でも、やるのはクンラートだしな」
言いながらも私が更にムッとしたのを見て、顎で王弟のご子息に行けって指示しているんだけど、王弟の息子に顎で合図するって、私とどっちが不敬だと思わないでもないんだけど。
諦めたみたいで、クンラートはタチアナ様の所に歩いて言った。
そこで声をかける。
そうよ、そこで許しをもらって座るのよ!
「お前、声に出ているぞ」
アル様から注意を受けるが、私はそれどころではない。
あれっ? でも、二人してこちらを向いているんだけど。
何で?
そのままタチアナ様が立ち上がると二人してこちらに来るんだけど、えっ? 何で?
タチアナ様のお顔が少し怖いんだけど・・・・
何か私に文句があるんだろうか?
えっ、今の私の声が聞こえた? それともこの前の続き?
私は蛇に睨まれたカエルのように驚き固まってしまったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
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