閑話 アル様視点8 シルフィに、さり気なく12本の薔薇の花束を受け取らせて騙したように強引に婚約しました
俺は渾身の申込みがシルフィに全く通じなかったことにショックを受けていた。そうだ。シルフィは鈍いのだ。そこがまた可愛いのだが・・・・。でもこれでは前に進まない。
そうかと言ってまともに言っても受けてもらえそうになかった。
このままでは絶対にシルフィに同意してもらえない。
シルフィは自分が平民の女だから、俺の横に立つのは難しいと思っているのだ。実際はもう子爵令嬢になるのが確定しているのに関わらずだ。地位的にはそんなに問題はないはずだ。
そもそも、王太子妃になっていちばん大変なのが俺の母に気に入られることなのだ。ステファニーは失敗しているし、幾多の侍女見習いが母のいじめに耐えきれずに辞めている。隣国の王女なんて元々母は気に入らなかった。その問題満載の鬼王妃と怖れられている母が気にいっているのだ。最大の難関を既に乗り越えているのだ。
何しろ、シルフィの後ろには王妃と公爵夫人とそれとシルフィの母の悪魔の三つ子がついているのだから。はっきり言って無敵だ。王立学園に在学していたもので、上の2学年と下の2学年含めて、5学年の連中でこの3人に逆らえるものはいない。父ですら完全に頭が上がらない。宰相もだ。隣国の俺の元婚約者の父親の国王もそうだ。
父は未だに、シルフィの母が復帰するのが気に入らない。というか、とても怖れている。
父は母には首ったけなのに、その友人の二人にはとても酷い目にあったそうだ。なんでも、友人を取られるのが許せないみたいな感じだったとか。
いや、シルフィの母なんかは王族を目の敵にしていたのかもしれない。
「あの3人が揃うと碌なことがない。今までせっかく静かにしていたのに・・・・」
何故か父の目が涙目だった。
既に3人は社交界の女王として活躍していた。
だから、貴族関係は全く気にしなくて良いのに。
でも、シルフィは頑なだった。
もう、こうなったらヤケだ。
俺は既成事実を作り上げる作戦を考えた。
どこのどいつだ! 子作りを目指す気か、なんて言っている奴は? 流石にそんな事したらシルフィの母に燃やされてしまう。
まず、俺はシルフィの母の気を引くために白いバラの花束を用意した。
次いで赤い12本のバラだ。そう、これは貴族の間で今もはやっていることで、結婚の申込みの時に12本のバラをプレゼントするというものだ。うちの父が母に対してやり始めたのが最初で、受け取ってくれたら結婚する意志があるという意味になる。
おそらくシルフィはその意味を詳しくは知らないはずだ。いや、知っていても気取られずに受け取ってもらうことに意味がある。そして、それを人目のつくところでやるのだ。
俺は予定の場面に多くの人を配置することにしたのだ。
噂好きな夫人にも、なんか王太子がやるそうよと女官共から話を振らせておいた。
そして、当日になった。
シルフィの母は、白いバラであっさりとシルフィを連れ出すことを許してくれた。
そして、バラ園にシルフィを案内する。
おおお、いるわいるわ、遠くに噂好きな伯爵夫人や子爵令嬢、多くの女官たちがいるのを視界の端に止めた俺は、ほくそ笑んだ。
あとは、いかにさりげなく、シルフィに花束を渡すかだ。
緊張の一瞬だ。
「はいっ」
俺はさりげなく、シルフィに12本の赤いバラを渡したのだ。
「えっ、これは?」
シルフィが驚いて聞いてきた。うーん、さりげ無さ過ぎたか? 俺は失敗したかなと思いつつ、必死に
「シルフィへのプレゼント。受け取って欲しいんだけど」
少し強引に話す。頼む。突き返すなよ。俺は神にも祈る気分だった。
「えっ。ありがとうございます」
笑顔でシルフィが受け取ってくれたのだ。やった~~~。シルフィが受け取ってくれたのだ。俺は天にも昇る気持ちだった。
「いい匂い」
シルフィがバラの香りを楽しんでいるんだけど、周りの婦人たちや女官たちは手に汗握ってこちらを見ている。黄色い悲鳴を上げている奴らもいる。もう上出来だ。これで俺からの婚姻の申込みをシルフィが喜んで受けたという既成事実は出来た。
更に畳み掛けるのだ。
俺はシルフィの前に跪いたのだ。
皆、俺を見ている。
「シルフィア・バース。俺の申し出を受けてくれてありがとう」
「えっ?」
俺の声にシルフィが唖然としていた。
そんな俺たちの周りにどんどん人が集まって来る。黄色い悲鳴が聞こえる。
「いや、アル様、跪くのは止めて下さい」
「シルフィがこの手を取ってくれるまでは止めない」
俺は言ったのだ。
「えっ、いや、その、手を取ればいいんですね」
「そう」
俺はシルフィのいつもの勘違いを期待した。そして、シルフィは手さえ取ればいいと思ったのだと思う。でも、俺はもう逃さなかった。
そのままシルフィを抱きしめたのだ。
シルフィは思いっきり固まっていた。
「騙したようになってしまって御免。好きだよシルフィ」
そう言うと俺はシルフィのかわいい唇を奪ったのだった。
ここまで出来たらもう完璧だった。
完全にシルフィはカチンコチンに固まってしまっていた。でも、そんなシルフィも可愛い。
「御免。シルフィ。でも絶対に幸せにするから」
俺はもう絶対にシルフィを離すつもりはなかった。
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『ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされました。護衛騎士と悪役令嬢の恋愛物語』
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絶好調更新中です。こちらも宜しくお願いします。
1日2回更新なります。




