1年待ちの人気デザイナー工房に強引にドレスを作らせました
「あのう、王妃様。ここって出来るまで1年待ちもザラだと言われている工房ですよね」
私は思わず聞いていた。
そうだ。噂によると早めに作れと言った王族に対しても「気に入らなければ帰って頂いて結構」
と叩き出したので有名なの工房なのだ。
そんな所に頼んで、今から間に合うように作ってくれるんだろうか?
「大丈夫よ。シルフィちゃん」
王妃様が鷹揚に言われた。さすが王妃様。この工房との取引もあるんだ。私は感心した。
「マルティーナをお願いするわ」
チャイムを押すと、一応、応接には案内された。
真ん中に王妃様、その横がテレシア様、誕生席に母で私はその向かいに腰掛けた。
出てきた若い女が、私達を胡散臭そうに見た。
そらあ、侍女がどかりとでかい顔で真ん中に座っているのは変だろう。それも3人も。それがいくら王宮の侍女でも。まあ、王宮の侍女には伯爵クラスの令嬢が見習いでなっているのもいるからあながち場違いというわけもないけれど。学生服を来た平民の一人は端に座っているし。
「マルティーナ先生とお約束がございましたか」
若い女が不審そうに聞いてきた。
「いえ、無いんだけど、実はこの子にすぐに衣装を作って欲しいの」
王妃様が言われるんだけど。
「すいません。当工房は今、予約が山積みでして、たとえ王妃様のご要望でもすぐには難しいのです」
女は胸を張って断ってきたのだ。ええええ! 本人前にして言い切ったよ。この子。まあ、王妃様だとは判っていないからだと思うけど。流石にまずくない?
私が思った時だ。
「あーーーら。マルティーナも偉くなったのね」
王妃様が若干怒り気味で言われた。
「そらあ、天下のドレス工房マルティーナの主ですもの」
王妃様の言葉にテレシア様が言う。
「あなた、学園時代のマルティーナのニックネーム知っている」
王妃様がいやらしい笑みを浮かべて言われた。ああ、これはやばい奴だ。
「いえ」
「すっぽん女よ」
「えっ?」
流石に女は唖然とした。王妃様は言ってやったとばかりに笑顔になった。この人は本当に遠慮がない。
「見目麗しい男を見るとすぐに食いつくの」
「そのたびに私たちは忠告してあげたのよ」
「そうよ。遊ばれるだけだから止めなさいって」
「本当にプレイボーイばかりに食いついて、遊ばれて捨てられていつも泣いていたわ」
若い女の人は敬愛する女史の学園時代の放蕩生活を聞いて唖然としていた。
「隣国の王太子に食らいついたときも、止めたほうが良いわよって、散々忠告してあげたのよ。その当時王子はそこのティナに夢中だったし」
「相手にもされないのに、私達の言うこと聞かないし」
「もう少しで、隣国の高齢の伯爵の後妻に売られそうになったのよ。騙されて」
「本当に酷い王太子だったわよね」
王妃様達が言っている。
「そんな最悪、最低、女の敵の王太子の娘を私の息子のアルの婚約者にした大臣たちは許せないわ」
何か別のことで王妃様が怒り出したんだけど。
「それとこれは別でしょ」
テレシア様がとりなしてくれた。
「その売られそうになった、あなたの所のマルティーナを助けてくれたのがその子の母のティナなのよ」
王妃様が母を指さした。
「隣国の王太子にマルティーナの仇討だって、唐辛子ジュース飲ませたのもティナよ」
「そうよ。あやうく、この子不敬罪に問われるところだったんだから。その危険を冒してまで、あんた所の女史を助けようとしてくれたのよ」
いやいや、ジュース飲ませたのはしつこいから嫌がらせでやったって、さっきおっしゃられてましたよね・・・・・私はそう思ったが、言える雰囲気ではなかった。
「そんな、ティナの頼みをあなたのところは聞いてくれないの?」
「えっ、いや、それは」
女は慌てだした。
「マルティーナは恩を仇で返すのね」
「酷ーーーい。この話は私達の年代では有名なのよ」
「王宮でね。ここで酷い目にあったって噂したら、流石にあなたのところもやばいんじゃない」
「そうよね。マルティーナは成功して天狗になって昔の恩義を忘れたって」
「す、少しお待ち下さい」
女は王妃様とテレシア様の話に慌てて飛んで行った。
「ちょとルイーセ。脅し過ぎじゃない」
母が言うんだけど。
「事実じゃない。マルテイーナはその時に言っていたわよね。いつか服飾デザイナーとして独立したら、私達の仕事は何が何でも最優先でさせてもらうって」
「そこまでは言っていないんじゃない。ジュース飲ませたのは私の嫌がらせの面もあったし」
「まあ、そこは良いんじゃない。嘘も方便よ」
嘘ナンカイ! 私は思わず突っ込みたくなった。
「ティナ!」
そこへ扉を蹴破らんばかりにして女が飛び込んできた。
そして、女性は母に抱きついたのだ。
「マルティーナも、久しぶりね」
母も軽く抱き返した。
「当然、ティナの仕事は最優先にするわよ。名前出してくれたら良かったのに。学園時代はあんたには本当にお世話になったわ。王妃様とかテレシア様に虐められたときも助けてくれたし」
「いや、マルティーナ」
母は慌ててその二人を見るんだけど、マルテイーナさんは気付いていない。
「あの二人、本当にえげつなかったわよね。学園長の頭を10円ハゲにするわ、陛下の筆入れにヤモリ入れるわ」
マルティーナの前で必死に母が手をふるのだが、マルテイーナは見えていなかった。
「本当にあんたも二人のお守り大変だったわね」
「あーら、お守りが大変だったって言われているわよ、ルイーセ」
「何言っているのよ。テレシアねあなたもでしょ」
「えっ?」
マルティーナさんはひどい噂をした王妃様とテレシア様がその場にいるのに初めて気付いて、固まってしまったのだった。
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