我が家が子爵位に昇爵することになり、怒り狂った貴族令嬢に囲まれてしまいました
その日珍しく父が早めに帰ってきた。
「どうされたのですか。アントン。こんなに早く帰ってくるなんて」
母が驚いて聞いていた。
「実は陛下に呼ばれたんだが」
父は口を濁した。
なんか悪いことがあったんだろうか? 私は悪い予感しかなかった。
「陛下に呼ばれてどうされたんですか」
「子爵位を賜ることになったのだ」
母の問に父が答えた。
「えっ」
皆唖然とした。
「いきなり子爵位って、我が家は平民で、爵位は何もないのでは。そもそも、男爵位もずうーっと断っていらっしゃったではありませんか」
母がきっとして父を詰問する。
「いやあ、陛下に承諾するまでは部屋を出さないと言われてしまって」
「そんな事、陛下がおっしゃったのですか」
母が更に不機嫌になって言う。
「それで止む無く」
ええええ! そんな事で認めたの?
「判りました。明日あなたと一緒に私が断りに一緒に行かせていただきます」
母が眦を決して宣言した。ええええ! 国王陛下に断りに行くって母はどれだけ強いのよ。そらあ、学園時代はいろいろしたかもしれないけれど・・・・
「えっ、ティナがか?」
父は驚いて母を見た。
今までいくら誘われても一切王宮には行かなかったのに。
私と弟も驚いて見ていた。何しろ母は今まで王宮からの招待状を全てそのままゴミ箱に捨てていたのだから。
「本当に、陛下も困ったものだわ。平民の娘を王太子殿下の嫁にくれとか訳のわかんない事を言ってくるし」
ええええ!
なんか母がとんでもないことを言ってるんだけど。今日のお昼に皆の前でアル様の言ったことは冗談だよね。この前は王妃様にはそれっぽいことは言われたけれど、何で今は主語が陛下になっているんだろう?
私は混乱してよく寝れなかった。
翌日お昼に皆で食事していると
「そういえばシルフィのお家、子爵家に昇爵になるんだって」
いきなりタチアナが決定事項として話してきた。
私達の周りのみんなが一瞬固まったのが判った。
「えっ、そんな事ないわよ」
「いや、決定事項だと聞いたよ」
クンラート様までが言う。
「今日、母が宮殿にお伺いして断るって言っていましたけど」
「さすが、シルフィの母上ね。王宮に断りに行くなんて」
感心してタチアナが言う。
「うーん、でも、それ難しいんじゃないかな。うちの母が手ぐすね引いて待っていると思うけれど」
アル様が首を傾けて言われる。
「でも、こうと思った母に翻意させるのは難しいかと」
「それはうちの母も同じだよ」
「そういえば私の母も今日は王妃様に呼ばれていたわ」
「えっ、テレシア様も」
私は不吉な予感がした。
「うちの母とタチアナ嬢の母上が組めばいくらシルフィの母上が強いとは言え難しいんじゃないかな」
アル様は他人事だと思って笑って言われた。
「バース殿は財務官としての実績も十分ににあるし、元々子爵に昇爵しても、何も問題ないと思うよ」
クンラートまで言うんだけど。いやいや、ちょっとまってよ。
私のめちゃくちゃ嫌そうな顔を見て
「何だ。昇爵して嬉しくないのか?」
クンラートが言うんだけど。
「はい。全然嬉しくありません。我が家は由緒正しき平民なので」
「えっ、由緒正しき平民って・・・・」
私の返答にクンラートはぽかんとした顔で見てくるし、
アル様とタチアナは吹き出していた。
「まあ、シルフィ、諦めたら」
「そうだ。本気になった母上とタチアナ嬢の母上の二人がかりでは絶対に勝てないから」
タチアナとアル様に言われるんだけど。貴族になれば礼儀作法とか煩くなるし、いろんな柵ができる。一人で全部できるのに、侍女に手伝ってもらうとか信じられないし。それだけは嫌なんだけど。というか、あの母が認めるわけはないと思うのだ。
お昼の後は礼儀作法の授業だった。
私は母からは徹底的に鍛えられていたので、今までは叱られることはなかったのだ。
しかし、今日は違った。
「バースさん。そこはもっと優雅に」
立ち居振る舞いで初めてファネッサ先生に指摘されたのだ。
「優雅にですか?」
「一連の座るまでの仕草を連続して止まらないように、するのです。今の動きは少しぎこちなく感じました」
「はい」
私はもう一度部屋に入ってくるところから席に座るまでやり直させられた。
何回も。
いい加減に私は疲れてしまった。
ええええ! 絶対に他の子爵令嬢よりもちゃんとで来ていると思うんだけど・・・・
私の思いは全く先生に通じなかったが。
そして、その授業の後、先生の部屋に呼ばれたのだ。
ファネッサ先生は王宮の礼儀作法の先生でもあるので、個室があるのだ。先生の部屋に呼ばれるなんて初めてだった。
おっかなびっくりでいくと、ファネッサ先生は笑顔で私を迎えてくれた。
「よく来てくれました。まあ座って」
私は先生に指摘されたように、優雅に座った。
「そう、その調子よ」
先生は褒めてくれた。
「いつもその所作を注意して行ってね」
「はい?」
私は不思議そうに先生を見た。
「お父様が子爵位に昇爵されるそうね。おめでとう」
先生がお祝いを言ってくれるんだけど、
「いえ、今日、母が断りに行っているはずです」
「さすが、ティアね。王宮に断りに行くなんて」
そう言うとファネッサ先生は笑われた。
「でも、今回は難しいと思うわよ。王妃様はやる気満々だったし」
「そ、そうなんですか」
まあ、あの王妃様はうちの母と同じで一度思ったことを中々変えそうにはないと思ったが、母も同じだ。そう簡単に頷くとは思ってもいないのだが。
「まあ、それは良いわ。実は王妃様からはあなたのことを気に入ったからビシバシ鍛えるように言われたのよ。出来たら王宮の侍女に欲しいと言われたんだけど」
「えっ。でも私、父みたいな文官になりたくて」
「そうなんだ。でも文官になるにしても立ち居振る舞いは大切よ。王宮の舞踏会にも出る必要は出てくるとは思うわ」
先生の言葉にそう言うものもあるのかと私は改めて知った。
「と言うことだから今後もビシバシと鍛えていくからそのつもりでいてね。今日はそれを伝えたかったのよ」
なるほど、それで、こんなに厳しかったのかと納得はしたんだけど・・・・。
その後教室に戻ったら、わらわらと貴族の令嬢らが私の周りを囲んだのだ。
「ちょっと、バースさん。あなた、自分の家が昇爵するかもしれないってことで、いい気になっているんじゃなくて」
眦を決したクロメロンらに囲まれてしまった。何か相当怖いんだけど。クロメロンは私を殺しそうに睨んでいるし、デブアニカも睨んでくる。
さすがの私も命の危険を感じたのだった。
お忙しい中、ここまで読んで頂いてありがとうございます。
次話は今夜更新予定です。




