王妃様をあばら家に招き入れたら慌てたアル様がやってきて彼が王太子だと知りました
お忙しい中、ここまで読んで頂いてありがとうございます。
私は生まれて初めて王宮の馬車に乗り込んだ。
これ本物だ。
とても作りが豪華だ。それに、王家のマークがはっきりと馬車の前に描かれていた。でもこんなのが家に横付けされたら、もう近所からなんて言われるか、判ったものではないような気がするんだけど。それに護衛の近衛が20騎もいるし。
「本当にティナは酷いわ。私達3人いつも一緒だったのに、あの子ったら知らない間にアントンと仲良くなっていて、図書館で極秘デートなんてしていたのよ。それ知ってからあの恋人席で二人でいたら結婚するって噂流してやったら、二人共めちゃくちゃ目立ってしまって。隠れてやるなんて酷いと思わない?」
王妃様はそう言うけれど、王妃様は元侯爵令嬢だそうだし、テレシア様も公爵令嬢だ。そらあ隠れて付き合うしか無いのではないだろうか、と私は密かに思ったのだ。
「ティナは、本当にモテたのよ。平民は元より隣国の王子にも言い寄られていたし、どこかの侯爵令息も言い寄っていたと思うわ。プレイボーイの王子は本当にしつこくて、どうやったら諦めてくれるか3人で色々考えたのよ」
王妃様は懐かしそうに話してくれた。
「で、アルなんだけど、あなたから見て、そんなに魅力がないのかしら」
「魅力がないも何も、それ以前に、我が家は平民でお貴族様と付き合うなんて到底無理です」
「えええ、そうなの? 平気でティナは付き合っていたけど」
そうか、母は私にあれだけ言っておきながら自分は付き合っていたのか。
「それで、アントンと付き合いだしてからは男関係を精算するのが大変で、それで苦労したようよ」
王妃様はあっけらかんとバラしてくれた。
あのボケ母。振られたほうでなくて、振る方で大変だったのか。どれだけ遊んでいるんだよ。私は頭が痛くなってきた。
そうこうするうちに我が家に着いた。この前、公爵夫人は連れてきたけど、今度は王妃様なんだけど、どうなるんだろう?
王妃様が私に合図して、自らが呼び鈴を鳴らしてくれた。
「はああい」
そう言って母が扉を開けてそこに王妃が婉然と立っているのを見ると、慌てて扉を締めた。
「えっ、ティナ」
「ティナは留守です」
王妃様の呼びかけに母が答える。
「ふうん、そうなの。じゃあ、あなたの17才の誕生日にやったこと、ご近所にバラしても良いのね」
それを聞いた途端にバタンと扉が開いたのだ。
「ルイーセ、止めて、それだけは絶対に止めて!」
母はゼイゼイ肩で息をしていた。余程バラされたくないことみたいだ。一体どれだけ秘密を抱えているんだろう。今度怒られたら私もカマかけて言ってみようか。
やむを得ず母は王妃と一人の女性護衛騎士を中に入れた。
「ティナ、酷いじゃない。テレシアだけ招待するなんて」
「招待はしていないわよ。勝手にあの子が娘についてきただけよ。シルフィ、今度はルイーセをどこで引っ掛けてきたの?」
母がムッとして聞いてきた。
「引っ掛けたって何よ。学園で罰ゲームしていたの見つけたから、助けてあげたのよ」
「あなた罰ゲームって何したの」
きっとして母が聞いてきた。
「いえ、その」
私は恨めしそうに王妃様を見た。何も母の前でも言わないでいいじゃないか。
「何怒っているのよ。ティナ。罰ゲーム一番食らっていたのはあなたじゃない」
「何言っているのよ。あなたでしょ」
二人はなんかなすり合いを始めたんだけど、そういえばバルテリンク先生の落書きしていたのも二人だし、この二人は絶対に碌なことはしていない。私達の方が余程品行方正だと思う。
「あなたが居眠りしている歴史の先生のかつらに火をつけた時は本当にどうしようかと思ったわ」
王妃様の言葉に私は固まった。そんな事していたの。
「何言っているのよ。あなたなんて、今の学園長の椅子に画鋲仕込んだじゃない」
なるほど王妃様も凄いことをしていたみたいだ。
「よく言うわね。それよりも、最近全然来てくれないじゃない。どうしてよ」
「そんなの王宮に一平民がいけません」
「何言っているのよ。そんなの関係ないじゃない。今の国王にもあんた色々やっていたんだから」
「それあなたでしょ」
「よく言うわね。あなた王族なんて歯牙にもかけていなかったじゃない」
二人の言い合いを私たちは唖然として聞いていた。母は日頃から色々やらかしていたらしい。
「それにそもそも何回も男爵位への昇爵の話は出ているわよね。それ断っているのはあなたの所でしょ」
ええええ! 私は初耳だった。そうか、男爵位になっていなかったのは母らが断っていたからか。でも、ゲームでは確か養子だったと思ったんだけど・・・・
ダンッ
「母上!」
その時大きな声がして、誰かが飛び込んできた。
えっ、アル様!
「あらあら、アルフォンス、人様のお宅にノックもなしに入ってくるなんてどう言うつもり」
王妃様がアル様に注意した。
でも、私はそんな事は聞いていなかった。
「いえ、母上がシルフィに酷いことをしているのではないかと気になって」
アル様が言われるんだけど、それ以前のことだ。
「今母上って言われました?」
アル様はまずいことを言ったという顔をされた。
「あなた知らなかったの?」
私は王妃様にコクコク頷いた。
「そう、本当にこのヘタレはどうしようもないね。彼は私の息子のアルフォンスよ。あなたが昔、『出来ない王子様とは結婚しない』って振ったのが彼よ」
私はそれ以前に固まっていたので、王妃様の言葉はよく聞こえていなかったけど。




