悪役令嬢を呼捨てにさせられてお昼を食べていたら侯爵令嬢が現れました
月曜日、私はいつものように、学園に歩いて行った。母からはくれぐれも公爵家の令嬢とはあまりお近づきにならないようにと、言われたけど、公爵夫人と親友の母に言われたくない。
それにアル様の件だ。テレシア様はアル様の件は母には何も言わないでおいてくれたから、助かったけど、母が聞いたら大変なことになる。それにアル様って結構お貴族様よね。やっぱり子爵家の令息とかそんな感じなんだろうか。まあ子爵家でも全然お近づきにはなりたくないんだけど。
私はめちゃくちゃ失礼なことを考えていた。アル様が王族、それも王太子なんて全く知らなかったのだ。だって王族なんて興味もなかったし・・・・。
アル様もその日はまだ接触がなかった。会ったらなんてリアクションしたら良いか判らなかったし。
でも、お昼休みはどうすれば良いんだろう。食堂に行かないでパンでも買って中庭ででも食べようか。そう思っていたのだ。
何事もなくお昼休みまでは来たのだ。アル様が現れたらどうしようと、半ば恐れ、半ば期待していたのだけど、アル様は現れなかった。ほっとした反面、心のなかではがっかりした面もあった。
でも、昼休みにいきなり、動きがあったのだ。
授業が終わるとクラスの扉がガラリと開いたのだ。そこには仁王立ちしたタチアナ様がいた。キョロキョロと辺りを見回している。
「タチアナ様。いかがされました?」
クロメロンとデブアニカらがタチアナ様に近付いていった。
「ちょっと人探しを・・・・あっ、いたいた。シルフィ!」
タチアナ様がいきなり私を名前呼びしたのを見て一同びっくりしていた。
「えっ、タチアナ様はシルフィと仲良くなられのですか?」
クロメロンが聞いていた。
「そうなの。シルフィ、お昼に行きましょう!」
逃げようとしたのに、早速タチアナ様に捕まっていた。
「はい。タチアナ様」
「タチアナよ」
私が応えるとタチアナ様はムッとして言い直していた。ええええ、いくら私がおっちょこちょいでも名前は間違えていないわよ。何がおかしいのか判らなかった。
「だからタチアナ様と」
「様はいらないわ」
「そんな、公爵令嬢のタチアナ様を呼び捨てにするなど」
「貴方のお母様はしていたそうじゃない」
「いや、だから、母は特別で」
「何が特別なのよ。貴方のお母様が出来て貴方が出来ないわけないわ。昨日は母にあの後散々自慢されたのよ。平民の親友がいるのは貴族界ひろしと言えども自分くらいだって。だからシルフィも私と友だちになって」
ええええ! 母親に対抗するためにやらなくても。と私は思ったが、
「あなたが呼び捨てにしないなら土曜日のアル様の件、皆にバラすわよ」
タチアナ様の爆弾発言に私は固まった。
「判ったわ。タチアナさん」
「皆聞いて、実はシルフィが」
私が呼び捨てにするわけには行かないので、さん読みにするという必死の一言なのにタチアナは容赦がなかった。
「判った。判ったからタチアナって呼べば良いのよね!」
「そうよ」
私がゼイゼイして言うと、タチアナが頷いた。
「はい、もう一度言って、シルフィ」
「タチアナ」
「そう、よく出来ました」
それをクロメロンとかデブアニカらは唖然としてみていたんだけど。
「お貴族様に苛められたらタチアナが責任とってよ」
私はタチアナと食堂に向かって歩きながら文句を言った。
「大丈夫よ。私がそうしろと言ったんだから」
私の抗議にもタチアナはびくともしない。それはあんたが公爵令嬢だからよ。でも平民に対するあたりは違うんだって!私の悲鳴はタチアナには届かなかったけど。
「これから一生涯宜しくね、シルフィ」
「学園の間だけよ。お母様もそうだもの」
私が当然のように言うと
「そうかな。シルフィのせいで貴方のお母様も貴族世界に来ざるを得なくなると思うけど」
「なにか言った?」
「何でも無いわ」
タチアナが愛想笑いするんだけと、絶対に今、なんか良くないこと言ったよね!
私達二人が食事のトレイを取っていつものタチアナの席についた。
公爵令嬢のタチアナと最下層の平民のわたしが一緒に座っているのを見て皆驚いてみていく。
金曜日はアル様の端の席だったからまだ目立たなかったのかもしれないが、今日は真ん中に近い席なのだ。
まあ、ゲーム上のヒロインと悪役令嬢が仲良くしているのだ。ゲーム上では絶対にありえない組み合わせだった。
なんかゲームとは全然違ってきているんだけど、どうなっているんだろう?
「ちょっと、シルフィっ、勝手にこっちに来て、酷いじゃないか」
そこへ慌ててアル様とクンラートがやってきた。
周りの女の子がアル様に黄色い声を上げる。話しかけられている私には、鋭い視線を向けて来たんだけど。
ああん、アル様も私に話しかけないでほしい。私は針のむしろなんだけど。それに昨日のこともあるし、どうアル様に接していいか判らなかった。
「アル様。私、シルフィと親友になりましたの」
タチアナがいきなり爆弾発言をしてくれた。何もこんな多くの人の前で言わなくてもいいのに。
「えっ、そうなの?」
タチアナの発言に心配そうにアル様は見てくるんだけど。
「少し、親しくさせて頂いております」
私はアル様にそう答えた。
「違うでしょ。シルフィ。私達お友達よね」
その言え視線、怖いんだけど。
「はい」
「シルフィ」
「何よ。タチアナ」
私がそう呼んだ瞬間、周りのみんなはギョッとしたのだ。
「そう、二人で名前呼びするくらい親しくなったのです」
「な、なんと、じゃあシルフィ、俺のこともアルと呼び捨てで呼んでよ」
いきなりアル様が爆弾発言しているんだけど。周りの女共もぎょっとして見てくる。
「えっ、それは流石に無理です」
「そうですわ。アル様」
私の言葉にタチアナも頷いてくれる。
「何でだよ」
「殿方と女同士では当然違います。それに私達お互いの家を行き来する間柄になりましたの」
「えっ、本当かよ。良くあの公爵夫人が許したな」
アル様が驚いて言われた。
「母はシルフィをとても気に入っておりました」
「いえ、私の母と公爵夫人が元々知り合いで」
私の発言にアル様がえっと驚いた顔をなさる。
「な、何故」
「まあ良いではないですか」
タチアナが婉然と笑って、何故か誤魔化そうとした時だ。
「アル様。私もご一緒させて頂いて宜しいですか?」
侯爵令嬢ステファニーが現れたのだった。
そして、ステファニーはニコニコ笑顔をアル様に向けながら、ちらっとその敵意に満ちた鋭い視線を私に向けてきたのだ。
一発触発、ステファニー対シルフィ 第二弾勃発の予感です。
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