公爵夫人が娘と一緒に私の家にやってきました。
タチアナ様のお母様に母とタチアナ様のお母様たちの武勇伝を色々お伺いした。そして、今、何故か私はタチアナ様とそのお母様と一緒に公爵家のお忍びの馬車に乗っているんだけど・・・・。
いろいろなことを教えてもらって頭がパンクしそうになった私は、そろそろお暇しようと思ったのだ。
そうしたら、夫人が「ティナは家にいるのかしら」と聞いてこられたのだ。
「おそらくいると思います」
「そう、じゃあ少し待ってね」
と慌てて部屋を出て行かれたのだ。私はてっきり、お土産か何かを頂けるのかなと思ってしまったのだ。普通は固辞すべきだと思ったけれど、母と夫人は話を聞く限りはとても親しかったみたいだ。下手に固辞するわけにもいかないかもと少し悩んでいた。
そして、30分くらいして現れた夫人を見て唖然とした。
なんと、夫人は商会の御婦人が着るような平民の服の中でも上等な装いに身を包んでいきなり現れたのだった。
「お母様、その格好は」
「平民のお忍び服着てきてのだから、そんなの決まっているでしょ。ティナの家に一緒に行くのよ」
「えっ!」
「はいっ?」
私達はテレシア様の言葉に唖然としてしまった。タチアナ様なんて開いた口が塞がらなかった。
「聞こえなかったの? シルフィちゃんと一緒にティナのところに行くの」
「でも、お母様。日頃、他人のお屋敷に行くのは前もって連絡しないといけないっておっしゃっていらっしゃいますよね」
「そんな事したら逃げられるじゃない。こういう時はいきなり行くに決まっているでしょ」
なんか襲撃するみたいになっているんだけど、お母様、大丈夫なんだろうか。いきなり公爵夫人が家に来たら腰を抜かすんじゃないだろうか?
「大丈夫だから。心配なら貴方も一緒にいらっしゃい」
テレシア様は強引にタチアナ様も一緒に連れて行くことにされたのだ。
公爵家の馬車はお忍び用といえども立派だった。
「こうやってティナの娘のシルフィちゃんと一緒にお出かけするなんて、昔を思い出すわ。あの子とは本当に色んなところに一緒に行ったのよね」
なんかワクワクとテレシア様はされているんだけど、本当に母は大丈夫なんだろうか?
家に着くと、馬車を取り敢えず帰して、テレシア様は私について家に入ると言って聞かれなかった。
それは流石にまずいし、公爵家の人々を入れるような広い家じゃないと言うんだけど、
「そんなのティナの家にも何回も遊びにいったことがあるからよく知っているわよ。でも、流石に新婚家庭にはお邪魔したことがなくて、新居には行ったことがないのよね」
テレシア様はそうおっしゃるんだけど・・・・私はこの家しか知らないし。まあ、母の祖母のところも大きさは同じだ。
「ただいま」
私はそう言うと玄関の扉を開けた。
「まあ、おかえりなさい」
リビングの扉が開いて母が現れた。
「ティナ、久しぶりじゃない」
「えっ」
いきなり、私を弾き飛ばして、テレシア様が母に抱きつきに行ったのだ。
母は唖然と抱かれていた。あの何にも動じないと思われた母が固まっていたのだ。
「もう、全然ご無沙汰でひどいんだから」
抱擁を解いて、テレシア様が母から少し離れられる。
「いえ、あのテレシア様」
「テレシア!」
「しかし、公爵夫人にそのように呼び捨ては」
「ねえ、シルフィちゃん。お母さんの面白いお話聞かてあげましょうか。16歳の彼女の誕生日にね・・・・」
「わ、わかったわよ。テレシア。その話だけはやめて」
慌てて母が言った。沈着冷静な母が慌てるなんて余程のことだ。何があったんだろう。めちゃくちゃ気になる。
「でも、テレシアが何故シルフィと知り合いなの?」
「シルフィちゃんをうちのタチアナが家に連れてきたのよ。どこかで見たことがあると思ったらあなたの娘だって聞いたから、取る物も取り敢えずついて来させてもらったのよ」
「えっ、貴方、公爵家のご令嬢と友達になったの」
母が少し強めの口調で言ってきた。
「何言っているのよ。どの顔してあなたが言う? あなたも、私と王妃と親友じゃない。シルフィちゃんには貴方の昔の話を色々としてあげたわ」
「ちょっとテレシア、何勝手に教えているのよ」
母は文句を言う。
「だってあなた、私と親友だってことも言っていなかったじゃない」
「そんなの一介の平民が口が裂けても言えることじゃないでしょ」
「よく言うわ。シルフィちゃん、昔、この子貴族の令嬢にいじめられていた時に一人で堂々と言い返していたのよ。本当に。その姿の男前だったこと」
「そうでしょう。お母様。私もシルフィがステファニーに言い返しているところを見て、仲良くなったんです」
「ステファニーってあの生意気なトーナの娘でしょ」
「ああ、あの侯爵家の後妻に入った」
テレシア様と母が頷き合っていた。
「なんか最近、いい気になっているみたいよ。たまには締めないといけないわね」
なんかテレシア様は無敵なんだけど。その言葉に母は戸惑いつつ半分頷いているんだけど。やっぱりテレシア様の言われたことは本当みたいだ。母は、あの貴族が大勢いる学園を牛耳っていたらしい。
それからが凄かった。テレシア様のマシンガントークに家にいた弟もたじたじだった。
でも、母もテレシア様に負けないくらいよく話していたんだけど。親友だったというのは本当だったみたいだ。
私もタチアナ様も完全に蚊帳の外だった。
その後はタチアナ様をわたしの部屋に案内した。狭い部屋にタチアナ様は唖然とされていたと思う。
二人の母が親友だった点もあってタチアナ様とは結構親しくなったと思う。
「じゃあ、ティナ、今度は貴方が我が家にいらっしゃい」
帰り間際にテレシア様が誘われた。
「いや、そんな、公爵家なんて敷居が高くて、ご遠慮しとくわ」
「昔毎日のように来ていたのに、よく言うわね。ロッテが会いたがっていたわよ」
「ロッテさんは元気なの」
「まだ全然元気よ」
「でも、やっぱり我が家は平民だから」
「昔はそんなの全く気にしていなかったのに」
「昔は昔今は今よ」
母は一応常識人みたいだった。
「まあ、今日のところはそう聞いておいてあげるわ。でも、私がティナの家にお邪魔したって聞いたらルイーセが悔しがると思うわよ」
「何言っているのよ。相手は王妃様よ」
「そんなの関係ないわよ。今度は王妃様のお忍びがあるかもよ」
「ちょっと頼むから、それだけはやめてよ」
母は必死に嫌がっていた。そらあ一国の王妃様がこんな平民のあばら家に来たら大変なことになってしまう。公爵夫人でさえ大変だったんだから。
私は完全に他人事だった。アル様の正体を全く知らなかったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。
娘たちも凄いけど更に上を行く最強のお母さん軍団の登場です。
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