私は恋愛の都市伝説を3っつとも、アル様とやってしまっていたことを教えてもらいました
それから、母と公爵夫人のテレシア様のお話を延々聞かしてもらった。母は貴族にも結構人気があったそうだ。そんなのは聞いたこともなかった。母は父一筋だと思っていたほど仲は良いのだ。でも公爵夫人の話を聞く限り、とても人気が高かったそうだ。隣国の王子様まで母にご執心だったらしい。結局凄まじい倍率を突破して母の心を射止めたのは父だったそうだ。
まあ、平民には平民のほうが気が楽だものね。前世も日本で平民だったし、私も貴族に嫁ぐ気はないのだ。
そう思いながら母と公爵夫人の武勇伝を色々聞かせてもらった。母はこの公爵夫人と一緒にとんでもないことをやっていたみたいで、それに比べたら私なんて大人しいものだと思った。
現国王様と王妃様をくっつけたのも本当か嘘かはわからないが、公爵夫人と母だそうだ。
なんでも、恋人の泉の噴水で手を繋いで、コインを投げて、コインが掌に乗ったら結婚するという約束で王妃様がコインを後ろ向いて投げたら、ものの見事に掌に乗ったので、王妃様も諦めて結婚したのだそうだ。何でも王妃様も母と並んで学園を二分する人気で、対抗馬は多かったのだが、それを国王様が射止めたのだとか。実際は母と公爵夫人が魔法を使って上手く乗せたらしい。
「ルイーセもあのヘタレのベルンハルトのことが好きだったみたいなんだけど、仲々踏ん切りがつかなくて、仕方ないから私と貴方のお母さんで後ろから押してあげたのよ」
そんな事があったなんて、私は知らなかった。ベルンハルトって国王陛下の名前だそうだ。国王の名前を呼び捨てにして不敬にならないのかと思うけど、公爵夫人にかかったら何でも無いみたいだった。
それ以来、その泉は恋人が手をつないで、コインを投げて掌に乗ったら結婚するというルールになっているらしい。
「えっ!」
その泉ってあの中央広場の泉で、恋人の泉っていうんだった。
あのコイン投げにはそう言う意味があったの? 私は知らなかったのだ・・・・
というか、私、アル様と手を繋いでコイン投げたじゃない。私は女神様の頭の上だったけれど、アル様が投げたコインは掌の上にしっかりと乗っていた。
ええええ!
私アル様と結婚しなければいけないの?
「どうしたの。シルフィちゃん。驚いているみたいだけど」
夫人はまじまじと私を見てくれた。
「えっ、いや、その・・・・」
「あなたひょっとして誰かとコイン投げしたの?」
「いえ、その」
私は真っ赤になってしまった。そんな意味があったのなら絶対にアル様とそんなことはしなかった。でも、それって結構有名なことなの?
「タチアナ、どうなの?」
私じゃ埒が明かないと思ったのだろう。夫人は娘に聞いていた。
「シルフィさんとアル様とでやっているの見ましたけど」
「まあ、アルちゃんと! 本当なの? シルフィちゃん」
タチアナ様の言葉に夫人は黄色い声を上げる。完全に野次馬気分だ。
「いえ、そんな言い伝えがある事なんて、全然知らなくて、ついタチアナ様を待っている間の暇つぶしで」
「ひ、暇つぶしであのコイン投げしたの? 陛下と妃殿下の世紀の大恋愛として有名なコイン投げを・・・・」
目を見開いて夫人は私を見た。そんなに有名だったんだ。それなら母もちゃんと前もって教えてよ。何故娘の私が何も知らないの?
「すいません。知らなかったので」
仕方なしに私は頷いた。
「でも、アルちゃんは絶対に知っていてやったと思うわよ」
ニヤニヤ笑って夫人が言われるんだけど。
「そ、そうなんですか?」
そこまで有名ならば確かに情報通のアル様が知らないわけはないだろう。でも、何で私なんかとやったんだろう。絶対にからかうために違いない。あの意地悪アル様だもの。
「という事はあなた、アルちゃんが誰かも知らないのよね」
「えっ、貴方知らないの」
夫人に次いでタチアナ様まで驚いて私を見てくる。
「はい、何も聞いていないので」
「そうなんだ」
夫人は考えるように言った。タチアナ様は唖然としていた。そんなにアル様って有名なの? だって私は平民でお貴族様のことなんて殆ど知らないのだ。
「まあ、そのコイン投げの伝説を作ったのは私達のおふざけからだから、無視してもいいけれど、アルちゃんはまさか本気なの?」
「そんなわけないと思いますよ」
私が言うが、
「結構本気だと私は思いますよ」
タチアナ様が言われる。
「だって、茶色い帽子のジャンボパフェを二人で食べてましたし」
ええええ! あのジャンボパフェにもなんか言い伝えがあるの?
私が驚いて二人を見る。
「あそこはしばらく休みだったのよ。店主が亡くなったから。この度隣国に留学していた息子が帰ってきて店を引き継いだのよ。そして、ジャンボパフェは先代の頃からあるわ」
何故か夫人が赤くなっている。
「あのジャンボパフェをお母様とお父様が仲良く食べてその後結婚したから、縁結びのパフェって言われているのよ。王都では有名な話よ」
赤くなった夫人に代わってタチアナ様が説明してくれた。
「本当に、ティナとルイーセに嵌められたのよ。あの子らクラス中、いや、王都中にあのパフェを二人でわけわけしたら結婚することになるって言いふらすんですもの。まあ、私は旦那様が好きだったから良かったけれど」
夫人は真っ赤になっている。
「へえええ、そうなんですね」
私は他人事で聞いたていた。
「何他人事だと思っているのよ。それ以来、二人であのジャンボパフェを食べたら結婚するって言われているのよ」
タチアナ様に言われて私は青くなった。そうだった。2つも恋人になる言い伝えを実践していたのは私だ。本当に言われるままに何も知らなかったのだ。
「タチアナ様もクンラート様と食べられたじゃありませんか」
私が言うと
「私はクンラート様と婚約しているもの。別に何の問題もないわよ」
そうだ。タチアナ様の言われるとおりだ。問題は婚約もしていない私達の方だ。
「ええええ! あのヘタレのクンチャンが貴方とカフェ食べてくれたの?」
夫人が言われる。
「もう、お二人に食べてもらうのが大変でした。そのために私も食べる羽目になってしまって」
私が苦笑いして言う。
「そうよね。この二人側で見ていても本当に焦れったくなるのよね」
「そうですよね」
私は夫人に頷いた。
「何言っているのよ。シルフィ、あなた、もう一つの言い伝えも実践したって聞いたわよ」
話題を帰るためかタチアナ様が話題を変えてきた。
ええええ! もう何もしていないわよ。
私は覚えがなかったのだ。
「もう一つってあの図書館の恋人席のこと?」
「そう。あの隠れた机の席にアル様と二人で向かい合って座っていたそうよ」
「えっ、あの席ってそんな謂れがあるんですか?」
私は全く知らなかったのだ。
「何言っているのよ。それこそ貴方のお父様とお母様の出会いの場所なのよ。あの二人いつもいない時はあそこで二人でいたんだから」
夫人の話に私は唖然とした。知らなかった。あそこはタチアナ様を見るのに都合が良かったからだ。だからアル様を連れて行ったのに!
そんな伝説があったなんて!
お母様もそんな事あったら私に教えておいてよ!
私はそう思ったがもうどうしようもなかった。
その3っつが恋愛の都市伝説として残っていて、私はアル様とその3っつとも何も知らずにやってしまったのだった。




