ジャンボパフェを食べていたら自称アル様の婚約者に文句を言われました
『茶色い帽子屋』は広場からすぐのところにあった。まだ午前中なのに、既に並ぶ列は出来ていた。
でも、アル様は予約してくれていたみたいで、すぐに窓側の席に案内されたのだ。
ウェイターがメニューを持ってきてくれる。
「当店自慢のパフエがこのジャンボパフェでございまして、これをカップルの方がお二人で食べられるのが人気でございます」
ウェイターが説明してくれた。
周りを見ると結構カップルが多くて、皆そのジャンボパフェを食べていた。
「じゃあ、クンラート様とタチアナ様は私達を気にせずにジャンボパフェにされたらどうですか」
「えっ、でも」
「二人だけじゃなあ」
私は流石にアル様とカップルではないから遠慮しようとしたのだけど、二人共戸惑った視線で私を見てくる。というか、タチアナ様はもう真っ赤だ。本来ならば思いっきりクンラートの脚を蹴りたいのだけど、この前、アルさまにやって、散々な目にあったのと蹴れる範囲にクンラートの足が無かったので、諦める。
アル様が目で合図してくるんだけど、ええええ! 私もアル様と食べるの? そんなのアル様のファンに見られたら殺されると思うんだけど。
「いま、セットで1つ頼まれるともう一つはサービスでおつけしております」
えっ、何なに何? という事は1個分の値段で2個食べられるってこと。
「俺はジャンボパフェ2個で良いと思うけれど」
アル様が言われるんですけど、そんな・・・・
アル様は必死に私に目配せする。
ええええ! 私が決めるの? 何故か残りの3人が私を見ているんだけど。
「でも、私はアル様のファンに見つかって、怒られるのは嫌なんですけど。アル様もご迷惑でしょう」
私が言い張るが、
「いや、俺は今は婚約破棄されたところで婚約者はいないし、ファンなんて者もいないから全然かまわないぞ。でも、シルフィが迷惑ならば止めるが」
アル様が言われた。
そうなんだ。アル様も振られたところなんだ。
でも、だからって平民の私と噂が立つのはどうなんだろうと思うんだけど。まあ、私は結婚するつもりもないし、卒業したら父みたいに国の機関で働けたらと思っているので、アル様と噂になっても問題はないけれど。
3人の視線が私に来るので、特にクンラートの縋るような視線に仕方なしに私は諦めて頷いた。
「じゃあ、ジャンボパフェ2個で」
アル様が注文された。
良いんだろうか?
「うわあああ、凄い」
でも、出てきた巨大パフェを見て、私の悩みは吹っ飛んでいた。
でかいカップに大きなチョコパフェが鎮座している。大きさは普通の4倍はある。
こんなパフェは一人では到底食べられないし、これはカップル限定だそうだから、女友達と来ても食べられないのだ。しばらく彼氏ができる予定もないから、この機会を逃したら二度と食べられないかもしれないし・・・・
私はアル様に感謝して、アル様のファンには心の中で謝って、早速巨大パフェにスプーンを突き刺した。
「頂きます!」
私は喜び勇んでチョコアイスを口にしたのだ。
「美味しい」
私は幸せいっぱいだった。
「本当に幸せそうに食うんだな」
呆れてクンラートが言うんだけど、お二人は全然スプーンを付けていない。さっさと食べればいいのに!
「タチアナ様。本当に美味しいですよ」
私はそう言うと更にもう一口、口に入れる。
アイスは口に入れた途端にふんわり蕩けるのだ。
もう私は幸せいっぱいだった。
それを見ていたアル様も反対側からスプーンですくって食べる。
「本当だ。この口の中の蕩ける感が凄いな」
美味しそうにアル様が食べられる。
それを見てやっと二人も少し食べ始めた。なんか二人共私と違ってお上品だ。
パフェを食べるのも作法があるみたいだ。
でも、こんな大きなパフェは作法なんて言っていたら絶対に食べられない。
私はもう夢中で食べた。
アル様がチョコの棒を手に取ったんだけど、ええええ、私もほしい。
私が物欲しそうに見ていたからだろうか。
アル様が私の口元にチョコの棒を突き出してきた。
思わずパクリと食べてしまった。
「えっ」
なんか横のタチアナ様が固まっているんだけど。
ひょっとして、これは食べさせになってしまうのかも・・・・
気づいた時は遅かった。
ああああ! やってしまった。これはアル様のファンに確実に殺されるパターンだ。
私は真っ赤になって固まってしまったけれども、アル様はどこ吹く風で残りのチョコレーの棒を食べてしまった。
ちょっと待って、それって間接キスになるのでは・・・・。
私は更にカチンコチンに固まってしまった。まあ、1つのパフェを二人で分け合って食べている時点でアウトなんだけど。お貴族様のアル様とパフェをわけわけして良かったんだろうか?
私がうじうじ考えている所へ、騎士らしき人が近付いてきてアル様に一言二言話す。
アル様がムッとしてその騎士を睨みつけていたが、クンラートと一言二言、話された。
「シルフィとタチアナ嬢。ちょっと緊急の用が出来てしまったんだ。ごめん、折角俺から誘ったのにこんな事になってしまって。このお詫びは必ずするから」
と言うとアル様が立ち上がられた。
それにクンラートもついて立ち上がる。
えっ、クンラートも?
せっかくタチアナ様と二人だったのに、まだほとんど話せていないじゃない。
私がムッとしてクンラートを見るがクンラートは手を上げて謝ってきていた。
仕方がなかった。
二人が去ってタチアナ様と二人だけになるなんて。タチアナ様とは話したいことは色々あるんだけど、仲々話せない。まだ全然仲良くはないし。基本的にタチアナ様はお貴族様の中では王族に次ぐ地位にいらっしゃって、私みたいな平民がそう簡単に話してはいけないのだ。
私が話さないと当然会話がない。仕方なしに、そのまま食べ続けていると、タチアナ様はトイレに立たれた。
ジャンボパフェも、やっと半分くらい食べられたところだ。
ようし、まだまだ食うぞ、と思った時だ。
カツカツカツカツ
と足音も高らかに誰かが近付いてきた。目の覚めるような真っ青な髪の令嬢だ。
見た目はとても綺麗だと思うのだが、その目が吊り上がっていてとても怖い感じだった。
「ちょっとそこのあなた」
ぴしっと人差し指を向けられた。その目が怒り狂っている。ゲームの中の悪役令嬢演じるタチアナ様みたいだ。でも、その顔が本当に怖いんだけど。
「あなた、平民のくせにアル様に近づくなんてどういうつもりなの? 身の程をわきまえなさい。それにそもそもアル様には私というれっきとした婚約者がいるのを知らないの?」
その令嬢の言葉は私には衝撃だった。
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
真の悪役令嬢? の登場です
どうするシルフィ? シルフィを応援したい方は評価頂ければ幸いです。




