23
***
迷いなく口にしたが、テオジェンナはすぐに不安にかられた。
「でも、どうすればいいんだ? 私がルクリュスの「幸せ」になるなんて、どうやって……」
「うん。簡単だよ。まずは「婚約」だ!」
ルクリュスは力強く断言した。
「こ、婚約?」
「そう! 「婚約」こそ僕を幸せにする早道だ!」
「そ、そうなのか?」
堂々と言い切られて、テオジェンナは目を瞬いた。
「で、でも、私ではルクリュスに似合わない……」
「じゃあ、テオはその辺の吹けば飛んで転んで壊れそうなか弱い女の子を僕の「幸せ」にしろって言うの? 僕の「幸せ」なんて、そんな脆いもんでいいと思ってるんだ?」
「そっ、そうじゃない! 私は……」
「僕はただ、僕の「幸せ」が頑丈でちょっとやそっとじゃ壊れない相手だったらいいなあって。僕は「幸せ」がほしいだけなのに……テオは叶えてくれないんだ……」
くすんくすん、と、わざとらしく泣き真似をするルクリュスを目にして、テオジェンナの頭が真っ白になった。
元々、ルクリュスがさらわれたショックやすごい権力の妄想で頭の中がだいぶふやふやになっていたのだ。
そんなテオジェンナに「小石ちゃんの涙」は空っぽの頭に良くない燃料を打ち込まれたようなもんだった。
(わ……私が小石ちゃんを悲しませている!?)
テオジェンナはあまりの衝撃によろめいた。
(私は間違っていたのか!? いったいどこから……ああ、そうか。私は可愛い小石ちゃんは可愛い子と結ばれるべきだと勝手に決めつけて、小石ちゃんの望みを聞いたことがなかった)
己の過ちに気づき、テオジェンナは涙を流した。
(小石ちゃんが選んだ相手こそが小石ちゃんにふさわしいに決まっているじゃないか! 私はただ小石ちゃんの想いを尊重すればそれでよかったんだ。たとえ、相手がどんなに屈強な岩石であっても、小石ちゃんの望みこそが最優先だったのに!)
そんな当たり前のことに気づくまでに、ずいぶん時間がかかってしまった。
「すまないルクリュス! 私が間違っていた!」
「じゃあ、婚約してくれるかな?」
「ああ! それがルクリュスの望みならば!」
感極まってだくだく涙を流しているテオジェンナは、もしかしたら会話の内容をあまり理解していないのかもしれないが、そんなことルクリュスには関係ない。その場の勢いであろうが雰囲気に流されたのであろうが、とにかく「ああ」と言ったのだ。
「しゃあ!! 言質とったああーっ!!」
長かった。あまりにも長く不毛な戦いだった。だが、ついにルクリュスは勝ち取ったのだ。
「今の聞いたな! ちゃんと証人になれよ!」
そこでようやくルクリュスが自分を捕らえている男に話しかけた。
「……俺は何に巻き込まれたんだ?」
痴話喧嘩としか言いようのない言い争いに口を挟めずに取り残されていたザックが、げっそりした表情で呟いた。