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世界で一番可愛い小石ちゃんが世界で二番目に可愛い子と幸せになるのを見守る。
それがテオジェンナの人生の目標だ。
「私はっ、ルクリュスの幸せを守るためならなんでもできるのに……」
「じゃあっ! 僕と、世界で二番目に可愛い子とやらが、別々の場所で同時に殺されそうになっていたらテオはどうやって僕の幸せを守るんだよっ!?」
「えっ……?」
ルクリュスが吐き捨てた質問に、テオジェンナは面食らった。
どちらを、と問われれば、それはもちろんルクリュスだ。
答えはすぐに出た。
けれど。
それではルクリュスが大切な相手を失ってしまう。
ルクリュスの肉体を守ることはできても、ルクリュスの心は守れない。
そのことに思い至って、テオジェンナは愕然とした。
そんなことにも気づかずに、軽々しく守ると言ってしまっていた。
「テオに僕の……いや、誰にも、誰かの幸せを守ることなんてできないよ。思い上がんな」
ルクリュスはぎりっと歯を噛み締めて吠えるように言った。
「幸せなんて、いつどこであっさり壊れるかわかんないんだっ。そんなもの、外から見てるだけで守れるわけないだろう!」
テオジェンナはぐっと声を詰まらせた。
ルクリュスはさらに言い募る。
「僕の幸せを壊したくないんだったらなあ、どれだけ丈夫かわからない誰かをあてがうんじゃなくて、自分が僕の「幸せ」になれよっ!」
ルクリュスはテオジェンナの目をまっすぐに見据えて言った。
「自分が、絶対に壊れない頑丈な「幸せ」になって、何が何でも僕を幸せにすればいいだろ! 「幸せになってほしい」なんて無責任なこと言うな! 自分でやれ! 僕を幸せにしろ! 「特別」だって言うなら、僕の幸せを他人任せにすんなよっ!」
瞬間、テオジェンナが感じたのは、今まで味わったことのない清々しさだった。まるで、強い風に頭の中を全部さらわれたような、心臓を丸ごと洗い流されたような。
自分がルクリュスの「幸せ」になる。
それは、幸せを守るよりもはるかに責任重大だ。
(わ……私で、いいのか?)
自分にその資格があるのだろうか。
「僕は……」
テオジェンナの逡巡を感じ取ったのか、一つ息を吐いたルクリュスが今度は静かに言った。
「僕は、テオの「幸せ」になりたい。……テオは、誰の「幸せ」になりたい?」
少し微笑みを浮かべてそう尋ねられて、テオジェンナは目を見開いた。
自分が、誰かの「幸せ」になれるとして。
「私はっ……」
胸の上で拳を握りしめる。
誰の「幸せ」になりたいか。
答えは、頭で考えるより先に出た。
自分が、誰かの「幸せ」になれるとして。
「私はっ、ルクリュスの「幸せ」になりたいっ」
ルクリュス以外の誰かの「幸せ」になどなりたくないと、魂が叫んでいる。




