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テオジェンナは唇を噛んで拳を握りしめた。
普段は心優しく素直でこの世の純真さをすべて集めて結晶にしたような存在であるルクリュスが、何故かテオジェンナに食ってかかってくる。
頰をふくらませた拗ね顔も、今ここでジャンプして空中で五回転半してもいいぐらい可愛いのだが、いつものルクリュスならこんなことで怒ったりしないはず。
(誘拐された恐怖で攻撃的になっているのか……あるいは、まさか、これは反抗期?)
「何考えてるかだいたいわかるけど、恐怖でおかしくなったわけでも反抗期でもねーからっ!!」
テオジェンナが頭の中で考えた内容に、ルクリュスが突っ込みを入れた。
「!? 何故わかった!?」
「何年一緒にいると思ってんだよ! 僕はちゃんと考えてるんだ。テオと違って……」
言い当てられたことに驚愕するテオジェンナに、ルクリュスはうつむいて歯を食いしばった。
「テオが何を考えてるかも、何を望んでいるかも、死にかけるタイミングも、僕はちゃんとわかりたいと思っている」
ちゃんとわかれば、誰より近くにいられると思ったからだ。
侯爵を脅迫したのも、生徒会の男共を牽制したのも、理想通りの可愛い小石ちゃんを演じるのも、すべて。
「テオにわかってほしかったからだ! 僕が……剣も振れずに倒れる弱い僕だけどっ、テオがいれば強くなれるんだってこと!」
幼いあの日、自分の弱さに絶望していたルクリュスを救ったのは、テオジェンナの誰より力強い純粋な心だった。
強くなれるのは体だけじゃない。心でも強くなれると知ったから。
「ルクリュス……」
「……あー、もう。結局、僕ばっかりだ。必死なのは」
ルクリュスはがくりと肩を落として「はああ~」と深い溜め息を吐いた。
「あれだけ侯爵や殿下達を脅しておいて、テオの「特別」にすらなれていない……あの腹黒妖精に嘲笑されちゃうな」
「なっ……」
ルクリュスの言葉に、テオジェンナは絶句した。
色々言われて頭の中はこんがらがっているが、これだけは聞き捨てならない。
「私はルクリュスを「特別」に想っている!」
それだけは、誰がなんと言おうと自信がある。
胸を張るテオジェンナだが、ルクリュスは首を小さく横に振った。
「何が特別だよ、僕とずっと一緒にいるつもりもないくせに」
「ルクリュスが望むなら、いくらでも一緒にいるとも!」
「嘘だね。僕のことを「世界で二番目に可愛い子」とやらに引き渡すつもりのくせに」
ルクリュスが不満そうに唇を尖らせる。
「そしたらもう、僕のことなんかどうでもよくなるんだろ?」
「そんなわけないじゃないか! ルクリュスの運命の相手がみつかっても、私がルクリュスを「特別」に思う気持ちは変わらない!」
テオジェンナは力強く言ってのけた。




