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 テオジェンナは見たものをすぐには信じられなかった。

 扉を開いて出てきたのは、純白のドレスに身を包んだ雪色の少女。


 可愛い。可愛すぎる。


(落ち着け、私! 今はそれどころじゃない! 小石ちゃんを助けなければ……ああ、しかし! こんなところに雪ん子が出現するだなんて……はっ! そうか。雪の女王が可愛い小石ちゃんを助けるために雪ん子を派遣したのね。さすがは小石ちゃん!)


 テオジェンナはくっと唇を噛んだ。


「おのれモッテルーナめ! 小石ちゃんだけじゃ飽き足らず、雪ん子まで毒牙にかけようと!」

「持ってる……? 何?」


 たびたび心当たりのない単語が飛び出すので、ザックは意味がわからず困惑した。


「あら? どなたですか~?」


 テオジェンナに気づいたフロルがことんと首を傾げる。


「ぐはあっ!」


 可愛さの直撃を受けたテオジェンナはがくりと床に膝をついた。


「わ、私はっ……こんなところでやられるわけにはっ!」

「俺が何もしなくても倒れてくれそうな気もするが……とりあえず武器を捨ててもらおうか」


 ルクリュスの頰にナイフを突きつけてザックがテオジェンナを脅す。


「お前の大好きな可愛い顔を台無しにしたくはないだろう?」


 ザックはニヤリと笑ってテオジェンナを見下ろした。

 偽神父を演じていた時に、テオジェンナがどれほどルクリュスの容姿に心を奪われているか嫌というほど思い知らされた。こちらの手にルクリュスがいる以上、テオジェンナは何もできないだろう。


「この可愛い顔を傷つけたくなければ、言う通りに……」

「……かわいい」


 ぼそり、と低い声がした。


「かわいい……そうだよ、僕はかわいいよ」


 抑揚のない低い声でそう言ったのは、ザックの腕に囚われているルクリュスだった。


「あんまり可愛く生まれすぎちゃってさあ、そのせいでこんな目に遭ってんだよ……ふっ、はははっ」


 小さく笑うルクリュスの不気味さに、ザックは思わず体を少し離した。


「おい……?」

「相手は可愛い子が大好きなんだからっ、誰よりも可愛く生まれついた僕なら楽勝じゃん! と思っていた時期がっ! 僕にもありました!」


 いきなり、ルクリュスが顔を上げて天井に向かって吠え出した。


「誤算だったのは、僕が可愛すぎたあまりに相手が頻繁に死にかけることだよ! 急ぐ必要はないんだからゆっくり落としていこうと余裕でいたら、妖精だの雪ん子だの邪魔な連中が出てくるしさあ!」


 ルクリュスはいろいろと限界だった。何一つうまくいかない。


「所詮、僕なんて、テオにとってはぽっと出の要請や雪ん子と同じレベルの「可愛さを愛でる対象」であって、いつまでたってもそれ以上にはなれないんだよ!」


 溜まった不満をぶちまけるように、ルクリュスは叫んだ。





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