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「これはこれは。スフィノーラ嬢。こんなところまで追いかけてきていただけるとは男冥利につきますね」
ザックがにやりと笑みを浮かべて言う。
「神父……ルクリュスを放してもらおう」
テオジェンナはきりっとした顔つきで対峙する。
「そんなことより、どうやってここがわかったんだ? 貴族のご令嬢にみつかってしまうとは、自信なくしちゃうな」
ザックは軽口を叩くような口調だが、その奥底には真剣な響きが含まれていた。
「ルクリュスは大いなる自然に愛されている。その導きによって私はここにたどり着いたんだ。スゴイーケンリョークがどんなにすごい権力を持っていたとしても、ルクリュスを捕らえることをこの世界が許さない!」
「すごい? 何?」
「とにかく、ルクリュスを返してもらおう!」
テオジェンナは剣を構えて吠えた。
その時、ザックの後ろの扉が開いた。
「皆さん、どこに行ったのですか~?」
目をこしこしこすりながら、フロルが寝ぼけた様子で部屋から出てきた。
テオジェンナはもちろん、ザックも振り向いてフロルを凝視した。
「は……? あ? お前ら、縄を……」
「でぇいっ!」
フロルのせいで縄を解いたことがばれてしまった。ルクリュスは咄嗟にザックの顔に手を伸ばした。
目潰しを狙ったのだが、届く前にザックに腕を押さえられてしまう。
「ぐっ……」
「どうやって縄を……まあいい。俺としたことが、油断しすぎたぜ」
ザックは舌打ちを漏らすと腰からナイフを引き抜いた。
「おい、侯爵令嬢。妙な真似をすると……」
「かっ……」
テオジェンナは剣を構えたままぶるぶる震えていた。目を見開き、ある一点をじっと見つめている。
その視線を追ったルクリュスは、はっと気づいた。
「まさかっ……」
「か……かわいいいぃぃぃ~っ!!」
テオジェンナの絶叫が響きわたった。
「か、かわいいかわいい可愛い!! 銀髪に青い目、真っ白いドレス……ゆ、雪の妖精? 雪ん子? 雪ん子ちゃんなの? なんでこんなところに? え? まだ冬じゃないよ? 大丈夫? 融けちゃわない? か、かわっ……可愛すぎて私にはもう何がなんだか」
ルクリュスは頭を抱えて「うがーっ」と喚きたくなった。
そうだった。可愛いもの大好きなテオジェンナが、フロルに反応しないわけがなかったのだ。
(くそっ! 腹黒妖精もどきの次は頭花畑のなんちゃって雪ん子かよ! どいつもこいつも、僕の苦労も知らずに簡単にテオの心を奪いやがって!)
新たなる強敵の出現に、小石はぎりぎりと歯を噛み鳴らした。




