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ルクリュスは内心焦れていた。
ザックはルクリュスをからかうのをやめた後も部屋を出ていかず、扉を背にして座ってしまった。これではうかつに動けない。
ザックは目を閉じて眠っているように見せているが、ルクリュス達への警戒は解いていない。何かしようとすればすぐに押さえつけられてしまうだろう。
逃げるにしても、この暗さの中で出口を探すのは難しい。夜明けの、すこし明るくなった時間帯を狙いたいが、窓の塞がれたこの部屋では朝になったかがわからない。
隙を見て飛びかかろうにも、ルクリュスの腕力では弾き飛ばされて終わりだ。フロルならもしかしたら大の男でも倒せるかもしれないが、状況を理解していないお花畑女がこっちの思うように動いてくれる保証がない。
そもそも、フロルは壁にもたれ掛かってすやすや眠っている。それがまたルクリュスの神経に障ってイライラさせられた。
(くそっ、おとなしく助けを待つほかにないのか……)
ルクリュスは己の無力さに歯噛みした。こういう事態を想定して何か仕込んでおくべきだった。
ルクリュスが一人でぎりぎりしていると、不意にザックが目を開けて立ち上がった。
「おい、あいつらまだ飯食ってんのか?」
扉を少し開けて、外にいる仲間に声をかける。
「戻って来ねえなあ」
「チッ。しょうがねえな。呼んできてくれ」
ザックが外の男に命じ、男の足音が遠ざかっていった。
「お前も少し寝ておけよ。商品には元気でいてもらわなきゃ困るからな」
扉を閉めながら、ザックがルクリュスに向かって言う。ルクリュスは唸り声で応えた。
その時だった。
短い呻き声のようなものと、何か重い物が落ちたような音がした。
ザックが勢いよく振り返り、扉に肩をつけて外の様子を窺う。
新たな物音はしない。だが、ザックは真剣な顔つきで壁の向こうを睨んだ後で舌打ちをした。
「来い」
扉から離れたかと思うと、ザックはルクリュスの襟首を掴んで無理やり立たせた。
縛られているふりをしているため、もしも腕を引っ張られると縄が解けているのがバレてしまう。ルクリュスは冷や冷やしながらザックに従うふりをした。
ザックは扉を開けて慎重に廊下に出る。
右手、先ほど物音がした方の廊下の曲がり角の向こうが明るい。見張りが持っていたランタンの明かりだろう。
ザックはしばし動かない明かりを睨みつけ、それからルクリュスの首に腕を回すと曲がり角の向こうに声をかけた。
「出てこいよ。歓迎するぜ」
一寸の間の後、曲がり角の向こうから姿を現した人物を見てルクリュスは目を見開いた。
「テオ!」
剣を手にしたテオジェンナはザックとルクリュスの前で足を止めた。




