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「あなた!」


 ルリーティアは庭から戻るなり夫に抱きついた。


「おお、ルリーティア。俺と息子達も今から捜索に加わる。ルクリュスは必ず助け出すから、お前はここで待っていなさい」


 ガンドルフは小さな肩に手を置いて妻をなだめた。

 結婚した当初から少しも変わらず少女のような見目の妻が不安そうに震えていると、ガンドルフは何でもしてやりたいという気持ちになる。

 ルリーティアはそれを見抜いていたから、ことさらにか弱くみえるようにしなを作った。


「あなた……お願いがあるの。隣街の、丘の上の空き屋敷を調べてほしいの」

「空き屋敷?」

「ええ。不審者が出入りしているのを見た人がいるの。それに、隣街では子供の行方不明が頻繁に起きているようなの。気のせいかもしれないけど、どうしても気になってしまうの」


 ルリーティアが上目遣いで訴えると、ガンドルフは「ううむ」と顎を撫でて唸った。


「しかし、ただの噂では……」

「何もなければそれでいいの。それに、街道や港湾などは既に皆様が調べてくださっているでしょ? 同じところを捜す前に、この空き屋敷を見てきてくれるだけでいいの」


 お願い、と呟いて、ほろりと一粒の涙をこぼす。

 途端にガンドルフは肩を掴む手に力を込めて頷いた。


「わかった! 母親の勘が当たるかもしれないしな! 今すぐその空き屋敷に向かう!」

「ありがとう、あなた」


 夫は妻の涙にめっぽう弱かった。


「あなた達も、お父様を手伝ってくれるかしら?」


 ルリーティアは夫の陰から顔を出して、息子達にうるうるとした眼差しを送った。


 ゴッドホーン系の長男から七男まで、ことごとく可愛らしい末の弟を溺愛している。

 故に、末の弟によく似ている母にも当然ながら弱かった。


「まかせてくれ!」

「母親の勘は侮れないからな!」

「絶対にルクリュスを見つけだす!」

「今すぐ隣街に捜しにいくぜ!」

「確かに空き屋敷は怪しいな!」

「行くぞ皆!」

「俺はトラヴィスと一緒にテオジェンナを捜す!」


 口々に言って、ガンドルフと共に駆け出ていく。どどどどっ、と、城の中とは思えぬ轟音が床を揺らした。岩石大移動である。


「皆、頑張って!」


 ルリーティアは涙をぬぐって夫と息子達を見送った。


「さすがですわ、ルリーティア様」

「元王女ですもの、あれくらいは」

「無垢な魅力で男達を動かす……わたくしには真似できませんわぁ」


 こっそりと様子を窺っていた三人はルリーティアに讃辞を送った。





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