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「ウサギはウサギの檻に入れるのが正しいんだ。子ウサギをジャイアントゴーリランの檻に入れちゃ駄目なんだ。ジャイアントゴーリランがウサギと仲良くなっても、ずっと一緒にはいられない。平和な草原で生きるウサギと、荒れ地で生きるジャイアントゴーリランでは……」

「ジャイアントゴーリランは架空のモンスターだ。落ち着け」


 生徒会室の隅っこで体育座りして壁に向かって喋っているテオジェンナの背中に、レイクリードが声をかけるが反応がない。


「また小石ちゃんと何かあったのか?」

「そのようです」


 激しく落ち込んでいるらしいテオジェンナの様子に、生徒会の面々は呆れて肩をすくめた。

 そんなに好きなら告白すればいいのに、と思うのだが、テオジェンナ本人は自分のようなジャイアントゴーリランは可愛いルクリュスには似合わないと思い込んで殻に閉じこもっている。


「共に軍部に君臨する二家で、身分的にも釣り合うのだから、二人がうまく行けば喜ばしいと思うのだが……」


 ゴッドホーン家とスフィノーラ家の結びつきが強くなるのは王国にとっても歓迎できる未来だ。

 レイクリードは王太子の立場からそう口に出すが、ユージェニーはふるふると首を横に振った。


「テオジェンナが「自分は彼にふさわしくない」と思い込んでいる限り、どうにもなりませんわ。思い込みを捨てて、向き合わなければ」

「確かにそうだが……」


 レイクリードは唸りながら壁に頭を打ち付けるテオジェンナの姿に、「無理じゃないか?」と呟く。ひびが入るのでやめてほしい。


「テオジェンナ。もう授業が始まるわ。教室に行くわよ」

「あ、ああ……」


 テオジェンナははっと我に返って立ち上がった。朝の打ち合わせの時間だったというのに、自分が取り乱していたせいで皆の時間を無駄にしてしまった。


(まったく、情けない。こんなことで皆に迷惑をかけるだなんて)


 自己嫌悪の溜め息を吐いて教室に向かったテオジェンナは、一時限目の授業を受けながら決意した。


(しばらくは、ルクリュスとは挨拶以外で言葉を交わさないようにしよう。向こうも忙しいだろうし……)


 テオジェンナは去年のことを思い返した。自分が一年生だった時、慣れない学園生活に戸惑うことも多くて全然余裕がなかった。ルクリュスに会ったのもほぼ一年ぶりだ。

 ルクリュスもきっと学園に馴染むだけで手一杯で、年上の幼馴染の相手などしている暇はないだろう。


 顔を合わせれば挨拶をして、用事がなければ会いに行かない。

 学年の違うただの幼馴染としてはそれぐらいの距離感が適切だ。


 そうすれば、ルクリュスが好きな女の子と仲良くなるのを見なくて済む。

 一年も経てば、きっと笑顔でおめでとうと言えるようになっている。


 そう自分に言い聞かせて、テオジェンナは心を落ち着かせた。




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