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王都から出る前に日はすっかり暮れてしまった。
空を飛んでいた小鳥は急に降下して、道の真ん中に座っていた猫の傍らにとまった。
猫は「にゃーん」と一声鳴いて立ち上がり、「ついてこい」というようにテオジェンナを見てからさっと走り出した。
小鳥は役目を終えたのか、森の方へ飛んでいく。
どうやら、夜目のきく猫に案内役が変わったらしい。
「モフモフが助けてくれる! さすがは小石ちゃんだ!」
テオジェンナは馬上で笑みを浮かべた。
こんなにも愛されているルクリュスをさらうだなんて絶対に許せない。
しかし、犯人に対する怒りと同時に、自分への怒りも湧き上がってくる。
何故、守れなかった? ルクリュスがさらわれた時、何故、そばにいなかった?
自分がそばにいて守れていたら……いや、ハンカチを拾った時点で何かがあったのだと気づくべきだったのだ。
「スフィノーラ家の娘と名乗っておきながら、肝心な時に役に立たないとは……父上にも兄上にも申し訳が立たない。私には最初から、誰かを守る力などなかったのかもしれないな……」
自嘲に伴う無力感を振り切って、テオジェンナは猫の姿を見失うまいと目を凝らした。
今はとにかくルクリュスをみつけることが優先だ。自己嫌悪など後でいくらでもできる。
「そうとも。敵は学園に潜入できるほどの組織……その辺のゴロツキとは違う。強大な敵だ。すごく強大な……スゴイーケンリョーク王国みたいな強大な……」
強大な敵、という言葉でテオジェンナの頭の中に思い浮かんだのは日中に妄想した架空の王国だった。
「そうだ。スゴイーケンリョークみたいな連中なら、学園に潜入するぐらい造作もないだろう……おのれ! スゴイーケンリョークめ!」
ちょうど日中の妄想でもスゴイーケンリョーク王国(注:架空の王国)に連れ去られるルクリュスというシチュエーションを思い浮かべていたため、頭の中で即座にイメージが完成した。妄想と、実際にルクリュスが連れ去られてしまった現実がテオジェンナの頭の中で混同してしまった。
「お前達の好きにはさせない! 必ず取り戻してみせる!」
テオジェンナは馬上で勇ましく吠えた。その声には力強い決意がみなぎっていたが、いかんせん相手はテオジェンナの脳内にしか存在しない架空の国である。
ともあれ、テオジェンナは着々とルクリュスの元へ近づきつつあった。




