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「どうも。コール・ハンネス神父様」


 ルクリュスはきっと偽ハンネスを睨みつけた。


「初めまして。ルクリュス・ゴッドホーン様。私はあの学園以外の場所ではザックと呼ばれております」


 偽ハンネスは愉快そうに言った。


「なるほど……薄汚い人さらいの名前はザックというのですね。覚えておきます」


 ルクリュスが怯むことなく言い返すと、偽ハンネス――ザックは「ふん」と鼻で笑った。


「見た目はたいそう可愛らしいが、度胸はあるようだな。さすがは武勇誉れ高いゴッドホーン家の息子というところか」


 嘲るような口調でルクリュスを見下ろしてくる。ルクリュスは下から顎を殴りつけてやりたい衝動を必死に抑えた。


「僕達をどこに売り飛ばすつもりだ? こんなところでのんびりしていていいのか? 今頃は皆必死に僕を探しているぞ。こんな隠れ家すぐにバレる」


 自分の父と兄達ならばすぐに兵を動かすだろう。国境にも検問が置かれる。時間が経てば経つほど、国外への移動は難しくなる。

 だが、ザックは余裕そうな表情を少しも崩さない。


「……国内に取引相手がいるのか?」

「ご名答。昔からのお得意先でね。男女問わず愛らしい子供を可愛がるのが趣味の方なんだ」


 ぞっとするようなことを言うザックに、ルクリュスはぎりりと奥歯を噛み締めた。

 お得意先とやらもどうせまともな商売をしている人間ではないのだろう。


「そのお客が今度は貴族の可愛い子と遊びたいと言い出してね。いやあ、苦労したよ。学園に潜入するだけでもとんだ時間と手間がかかったもの。でも、早めに君と仲良くなれて助かったよ。紹介してくれたテオちゃんに感謝だね」


 テオジェンナを馴れ馴れしく呼ばれて、ルクリュスは目を吊り上げてザックを威嚇した。


「しかし、残念だ。本当ならここにセシリア・ヴェノミンもいるはずだったんだが、仲間が下手を打って捕まえ損ねた。きっと高く売れたのになあ」


 ザックは心底残念そうに肩を落として溜め息を吐いた。


(あの蜘蛛女も狙われていたのか……くそぉ、あいつは捕まらなかったのに僕だけ誘拐されただなんて……帰ったら、絶対に嘲笑される!)


 ルクリュスの脳裏に、「無様ですわね!」と言って高笑いをあげるセシリアの姿が思い浮かんだ。

 それと同時に、「絶対に無事に帰ってやる!」という気概が込み上げてくる。怒りは原動力だ。


 それに、テオジェンナのことも心配だ。ルクリュスがいなくなって、どんなにショックを受けていることだろう。ショックのあまり幻覚を見たり妄想に囚われたり記憶を失ったりしていなければいいのだが。


(僕は絶対に無事に帰らなきゃいけない。テオの心の健康のためにも……!)


「無駄な皮算用だな。僕は売られるつもりはない!」


 ルクリュスがきっぱりと宣言すると、ザックは面白そうに吹き出した。


「逃げられるとでも? それとも、俺達みたいな悪者はやっつけてやるー、とか考えてるのか? 『岩石侯爵家の小石ちゃん』が?」


「あんまり小石を馬鹿にするなよ? 僕はただの小石じゃない。――最高に頼れる岩石どもに愛されている、『岩石侯爵家の小石ちゃん』だ!」


 ルクリュスはふっと口角を上げた。


「僕と、僕を愛する岩石どもを甘くみるなよ!」





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