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こつ、こつ、と、小さな硬い音がする。どこから音がするのかと部屋を見回したテオジェンナの耳に、窓ガラスを叩く「こつっ」という音が聞こえた。
窓に近寄ると、一羽の黄色い小鳥が窓ガラスを必死にくちばしで叩いているのがわかった。
窓の外の空は灰色だ。鳥はそろそろ寝床に帰る時分だろうに。
「……この鳥は」
見覚えがあった。時折、ルクリュスの肩にとまっている鳥に似ている。
もちろん、黄色い小鳥などどこにでもいるし見分けなどつかないが、それでもこれはルクリュスの鳥だとテオジェンナは確信した。
「私に何か言いたいのか?」
窓を開けると、小鳥はテオジェンナの頭の上をぐるぐると飛び回ってピイピイと鳴いた。何かを訴えるように。
「何か伝えようとしているのか? ルクリュスの居場所か?」
小鳥がまるで頷くように首を振ったように見えた。
普通なら、小鳥が仲良しの人間のために助けを呼びにきたなどという夢物語をテオジェンナは信じない。だが、それがルクリュスなら話は別だ。
人智を超えた可愛さを持ち、生きて息をしているだけでこの世に清らかな空気と愛と希望を撒き散らしているルクリュスならば。
生きとし生ける者達からその愛らしさ清らかさ温かさを愛されているルクリュスであれば。
彼を助けるために小鳥が助けを呼びにくるのも少しも不自然ではない。(断言)
「よし! 今行くから待っていろ!」
テオジェンナは小鳥が必ずルクリュスの元へ導いてくれると信じた。
出来ればこのことを他の者にも伝え、ルクリュスを助け出すための大軍団を率いて不届きなる誘拐組織を討伐に行きたいところだ。
だが、他の者に説明している時間が惜しい。夜になれば小鳥は飛べなくなる。今、空にかろうじて日があるうちに行けるところまで行かなくては。
そのためには、身軽な方がいい。
テオジェンナは覚悟を決めた。
屋敷から駆け出て、愛馬にまたがってテオジェンナは空を見上げた。小鳥はやはりテオジェンナを導くようにまっすぐに飛んでいく。
「道案内を頼むぞ! 必ずルクリュスを救い出す!」
硬い決意を胸に秘め、テオジェンナは夕闇の中を駆けていった。