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 テオジェンナは冷えた指先を握りしめて震えていた。

 何か考えようと思うのだが、思考がぶつぶつと途切れてしまって長く続けられない。

 レイクリードがロミオを連れて出て行ったのに気づいて、自分も追いかけようとしてふらりと足がもつれる。それをユージェニーが支えた。

 ユージェニーがジュリアンらに何かを告げて、テオジェンナを支えて歩みだす。テオジェンナは頭がぼんやりしたまま足を動かして、気づいたら自室で寝台に寝ていた。


「……夢、な訳がないか」


 一度、目をぎゅっと瞑ってから、体を起こした。部屋の中は少し薄暗い。じきに陽が沈むようだ。


「……ユージェニーが家まで送ってくれたんだな。くそ……情けない、失態だ」


 武勇を誇るスフィノーラ家の者が、心を揺らして動けなくなるなど恥でしかない。普段から自分を岩石だと言い張っているくせに、いざという時にまるでか弱い令嬢のような振る舞いしかできないなど、テオジェンナは己の不甲斐なさに失望した。


「しっかりしろ! 寝ている場合か! ルクリュスを探さなければ……」


 頭をガツガツと叩いて「働け!」と命じながら、テオジェンナはとにかく捜索に加わらせてもらおうと立ち上がった。手早く服を着替えながら、途切れ途切れの記憶の中からレイクリードの話を思い返す。

 確か、セシリアも狙われたと言っていた。狙われたのがルクリュスとセシリアだけなら、あの学園の中で何故二人だけが目をつけられたのか。


「ルクリュスとセシリア嬢……二人の共通点は、『人智を超えた可愛さ』!!」


 二人が狙われた理由に思い至り、テオジェンナははっと顔を上げた。


 そうだ。あの二人はとにかく可愛い。可愛い以外の何者でもない。


 人身売買組織の連中は可愛い子を探せと命じて偽ハンネスを送り込んだに違いない。


「そうとも知らず……私は呑気にルクリュスを偽神父に紹介してしまった! なんて愚かだったんだ!! ルクリュスが無事に帰ってきたら目の前で腕の一本でも切り落として謝罪しなければ!!」


 ルクリュスがただただ困りそうなことを叫びながら、テオジェンナはひたすら自分を責めた。


(ルクリュスを可愛い可愛いとあれだけ口にしておきながら、可愛い故にスゴイーケンリョーク国に狙われると危惧しておきながら、現実的な対処を何もしていなかっただなんて……! 私はなんて怠惰な人間なんだ! 私にはルクリュスの可愛さを愛でる資格などない……っ)


 その時だ。

 こつ、とかすかな音が耳に届いた。




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