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「今朝方、港湾で人身売買組織の船が取り押さえられた」
とりあえず生徒会室に移動して、レイクリードが切り出した。テオジェンナとロミオの他に、まだ帰宅していなかったユージェニー、ジュリアン、ケインもいる。
「船に乗せられていた誘拐の被害者を保護したのだが、その中にこの学園の聖堂神父を務めていたクロウリー卿がいた」
一同は息を飲んだ。
「クロウリー卿は前年度末に知人に会うために王都を離れた際にさらわれたそうだ。その時、彼は自分の後任として学園の聖堂に務めてくれるように嘆願する書類を所持していた。知人に後を任せて隠居するつもりだったそうだが、その道中で誘拐され持っていた書類を奪われてしまった」
「つまり、その書類を利用して、人身売買組織の人間が新任の神父のふりをして学園に侵入していたということですね」
ケインが眉間を押さえて言った。
「学園の情報はクロウリー卿から聞き出したのでしょう」
「ああ。クロウリー卿は後任をみつけて引退を前から口にしていたため、新任の神父を誰も疑わなかったようだ。入学式前後の忙しさで偽造された書類も見落とされたのかもしれない」
クロウリー卿が発見されてすぐに調べたが、コール・ハンネスという名のクロウリー卿の知人は何も知らずに離れた街で暮らしていた。人身売買組織の人間が学園に入り込み、神父のふりをして虎視眈々と生徒を狙っていたのだ。
セシリアを狙った二人組も偽ハンネスの仲間だろう。彼女はたまたま近くにいたロミオのおかげで助かったが。
「ル……ルクリュスは、その連中にさらわれたっていうんですか?」
テオジェンナは震える声で尋ねた。
そんなこと信じたくない。何かの間違いだと思いたい。だが、聖堂の前に落ちていたハンカチと行方のわからないルクリュス。
神父がいなくなっている以上、目的を果たして逃げたのだと思わざるを得ない。
「セシリア嬢の誘拐には失敗したが、代わりにルクリュス・ゴッドホーンをさらったのか。或いは最初からその二人が狙いだったのか」
「とにかく、全力で捜索に当たる。お前達は他の生徒達が動揺しないようにいつも通りの態度でいてくれ」
レイクリードはそう言いながらテオジェンナに目をやった。
もちろん、テオジェンナが冷静でいられる訳がないとこの場の誰もがわかっていた。