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 家からの迎えが到着して、テオジェンナもようやく帰宅できることになった。

 いつもの御者の他に護衛も付いた馬車に乗り込もうとした時、血相を変えて走ってきたロミオに呼び止められた。


「テオジェンナ! ルーを見てねえか!?」

「!?」


 テオジェンナはその言葉に耳を疑った。


「どういうことだ、ロミオ。ルクリュスがいないのか!?」


 息を切らしたロミオの様子から、彼がしばらくの間弟を探し回っていただろうことが窺える。テオジェンナの背筋に冷たい汗が流れた。


「ああ……教室にいなくて、もちろん家にも帰っていない。今、校舎の中を探してもらっているが……」


 ロミオの言葉に、テオジェンナの気が遠くなる。だが、現実から逃げている場合ではないと気力を振り絞って踏みとどまった。

 ルクリュスは黙って抜け出すような真似はしない。何かが、あったのだ。


 そこでテオジェンナははっと気づいた。


「聖堂! 神父様がルクリュスと会ったかもしれない……!」


 聖堂の入り口の前にハンカチが落ちていた。もしも、いなくなる前のルクリュスが聖堂を訪ねていたとしたら、最後にルクリュスを見たのは神父の可能性がある。


 テオジェンナがロミオにそう説明するのと同時に、数台の馬車が荒々しく校門をくぐってきた。馬車には騎兵も付き従っている。

 停まった馬車から硬い顔つきのレイクリードが降りてきたのを見て、テオジェンナは声を上げた。


「殿下!」


 レイクリードは一瞬こちらを振り向いたが、すぐに前を見て騎士達を引き連れて足早に去っていく。

 彼も学園に不審者が侵入した事件を知って駆けつけてきたのだろう。

 それよりも自分達は早くルクリュスをみつけなくては、と、テオジェンナはロミオを促して聖堂へ向けて駆け出した。


「さっきは聖堂が閉まっていて神父様もいなかった。戻ってきてくれていればいいけど……」


 走りながら、テオジェンナは必死にルクリュスの無事を祈った。


 やがて聖堂のある中庭に辿り着いたテオジェンナとロミオが目にしたのは、騎士達に命じて聖堂の扉をこじ開けさせるレイクリードの姿だった。


「くそっ、遅かった。逃げられたか……」


 開いた扉から中を覗いたレイクリードが悔しそうに顔を歪める。


「探せ! まだ遠くへは行っていないはずだ!」

「殿下……? 何故、聖堂に……」


 テオジェンナは騎士達に指示を飛ばすレイクリードに駆け寄った。


「スフィノーラ嬢。ここに近づいては駄目だ。家に帰るんだ」


 レイクリードは王者の威厳を湛えた声でテオジェンナに命じたが、テオジェンナは引き下がることはできなかった。


「私は聖堂に……神父様に用があるのです」

「そうです! ルー……弟がいなくなって、神父様が何か知っているんじゃないかと」


 テオジェンナに続いたロミオがそう訴えると、レイクリードは目を見開いて顔色を変えた。


「ルクリュス・ゴッドホーンがいないのか!?」


 これほど真っ青になったレイクリードを、テオジェンナは初めて見た。

 レイクリードのこの態度、聖堂を囲み中を調べる騎士達、「逃げられた」という言葉……

 テオジェンナの胸に嫌な感覚が湧き上がってきて、ぐるぐると胸が掻き回されるような気持ち悪さに襲われた。

 彼らは誰かを探しにきた。聖堂にいると思われる相手を。

 それは、つまり――


「殿下は……神父様を探しているのですか?」


 テオジェンナの問いかけに、レイクリードはぎゅっと眉をしかめた後で、溜め息と共に頷いた。





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