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 神父に会いに来たテオジェンナは、いつも開いている聖堂の扉が閉まっているのを見て首を傾げた。


「お留守だろうか」


 テオジェンナは閉まっている扉の前で足を止めた。

 ふと、扉の前に何かが落ちているのが目に入り、屈んで拾い上げる。


「ハンカチか……ん? なんだか見覚えがあるような……」


 拾ったハンカチを広げて、施された刺繍を目にしたテオジェンナの脳裏に、幼き日の光景が蘇る。


「ああ! 私が刺繍したハンカチじゃないか。懐かしい」


 いつもロミオ達に混じって剣を振り回してばかりいるテオジェンナの将来を心配してくれたルクリュスの優しさに感動して、「小石ちゃんが尊いぃぃぃぃっ!」と泣いたり咳き込んだり床を転げたりしながら刺した刺繍だ。


「まだ持っていてくれたのか……くうっ! 小石ちゃんが天使すぎて生きるのが辛いっ!」


 扉の閉まった聖堂の前でハンカチを広げて号泣する少女。という、一寸近寄りがたい状況のテオジェンナだったが、にわかに騒がしくなった校舎の方からやってきた教師に鋭く声をかけられた。


「生徒は今すぐ校舎に入りなさい! 指示があるまで自分の教室で待機すること!」


 緊迫した形相の教師に、何かあったのかと戸惑いながら、テオジェンナはハンカチをポケットにねじ込んで教室へ戻った。

 すでに帰宅した生徒も多い。テオジェンナの教室にも数人しか残っていなかった。


 常ならぬ雰囲気に不安になりながら、生徒達は指示通りに教室で待機した。

 テオジェンナもまた、おとなしく席について窓の外を眺めていた。


(何があったんだろう? ルクリュスにハンカチを返したいけれど……今、ルクリュスの教室に行くわけにはいかないな)


 それから小一時間ほど経っただろうか。ようやく担任教師が教室へやってきて事態を説明した。


「一年の生徒が不審な二人組に襲われた。幸い、他の生徒が助けに入って無事だが、二人組は逃走。まだ捕まっていない」


 生徒達はざわめいた。テオジェンナも顔を強張らせて息を飲んだ。


 王侯貴族の子女が通う学園で、外部からの侵入者に生徒が襲われるなど前代未聞だ。


「現在、各家に連絡を入れている。勝手に帰宅せず、迎えのものが来るまで待つように」


 すでに帰宅してしまった生徒の家にも連絡を入れ、無事を確認しているということだ。また、事態が事態なので王宮にも報告を入れ騎士団の派遣を要請していると明かし、教師は動揺する生徒達を安心させようとした。


(大ごとだな。ルクリュスが不安がっていないといいが……)


 不意に、何故か嫌な予感がして、テオジェンナはポケットの中のハンカチを握りしめた。





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