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 目の前の少女は、ルクリュスのただの八つ当たりを親切な忠告だったと思っているのだ。

 そして、それに感謝しルクリュスのことを優しい子だと思い込んでいる。


(嘘だろ……)


 ルクリュスは頭を抱えたくなった。


(どうやったらこんな善良な人間が育つんだ……?)


 人を疑わないにもほどがある。


(まっすぐ過ぎて嫌みが通じないのかな? 脳天気でいいなあ)


 とはいえ、貴族としてはどうなのか。腹芸の一つもできないで魑魅魍魎の跋扈する社交界で生き残っていけるのか。

 なんだか心配になってきて、ルクリュスは胸がはらはらするのを感じた。

 この分だと、いつかろくでもない連中に騙されたり手酷い目に遭わされたりするんじゃなかろうか。


 自分の兄達もまっすぐで裏表のない性格だ。だから、テオジェンナのことが他人事に思えなくなってきた。


 そうだ。彼らは自分とは全然違う。

 ルクリュス自身は疑り深い性格だし、誰かに忠告されたって素直にそれを受け取れるような可愛げもない。外見はこの世の愛らしさをすべて集めて織り上げたように可愛いが、中身はそれなりに世の中の汚さを知っているのだ。


 そして、ルクリュスは自分が汚れていると知っているから、兄達やテオジェンナのような綺麗な存在がどれだけ尊いかよく知っていた。


(……体格が小さいとか非力だとか、そんなことで腐っている場合じゃないぞ……)


 この、善良でまぬけな少女を守らなければならぬ。世の中の汚い連中から、襲いかかってくる危険から。

 そのためにはうじうじと悩んではいられない。体格に恵まれなかったのなら、別の力を手に入れなければ。


(そうだ。強さとは、腕力だけじゃない。僕は兄さん達とは違うやり方で強くなってやる!)


 挫折してひねくれていた心に、めらめらとやる気が燃え上がってきた。


 岩石侯爵家の小石ちゃん。上等じゃないか。

 小石には岩石にはできない戦い方ができるはずだ。


 岩石になれなかったと嘆くだけで終わってどうする。


 かつてないほどに前向きな気分になってきた。目の前の道が開けたような気がする。


 目の前の少女によってもたらされたこの清々しい気分に、ルクリュスは口角を上げた。


 この日、この瞬間、世の中に一人の腹黒が誕生した。





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