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 セシリアはうきうきと運動場へ向かっていた。

 毎週、この曜日にはロミオは友人達と一緒に運動場で剣の手合わせをしているのだ。

 それを、誰にも邪魔されないベストスポットでじっくり見学するのがセシリアの目下の最大の楽しみだった。


「今日もロミオ様の素敵なお姿を目に焼き付けるわよ~」


 るんるんと軽い足取りで運動場を見渡せる人気のない木のそばにやってきたセシリアは、運動場に集まる青年達の中にロミオの姿がないことに気づいて首を傾げた。


「ロミオ様、まだいらしてないのかしら?」


 セシリアがぽつりと呟いたその時、周囲の植え込みががさっと音を立てて揺れた。

 振り向いたセシリアは、植え込みから二人の男が飛び出してくるのを目にした。


「えっ……」


 覆面で顔を隠した男達が襲いかかってくるのを見て、セシリアは一瞬硬直した後で悲鳴をあげた。


「き、きゃああっ!」


 男達の手がセシリアに伸びて、体を掴まれそうになった。

 だが、そこへ割って入った者がいた。


 ロミオは男達の手を叩き落とすと、セシリアを背に庇い男達の前に立った。


「なんだお前達は!?」


 明らかに不審な二人組に、ロミオは声を張り上げた。


 いつも通りならば、ロミオはすでに運動場にいるはずだった。

 テオジェンナの話に付き合ったために運動場に来るのが遅れ、そのためセシリアの悲鳴を聞いて駆けつけられる位置にいたのだ。


 にわかに辺りが騒がしくなった。ロミオの声を聞きつけた友人達が運動場から駆けつけてこようとしている。

 二人組の男は舌打ちをすると身を翻し、素早い動きで逃げていった。


「待てっ!」


 ロミオと友人の何人かが追いかけるが、すぐに見失ってしまった。


「くそ。逃げ足の早い……セシリア嬢、怪我はないか?」

「は、はい。ロミオ様が来てくださったので……」


 セシリアはどくどく早打つ胸を押さえ、潤んだ瞳でロミオを見上げた。


「ロミオ様は、いつも私を助けてくださるのね……」

「ん? 何か言ったか?」

「いいえ。何も……」


 セシリアは胸を押さえたまま微笑んだ。


 友人達が逃げた二人組のことを教師に報告しに行き、ロミオは保健室までセシリアを送り、そのまま付き添っていた。


 少し冷静になってきたセシリアは、先ほどの状況で一つ不自然な点があることに気づいた。

 セシリアが立っていたのは学園の裏側の人気のない場所である。運動場に行く生徒が近くを通りかかる以外では誰も近寄らないはずだ。

 何が目的だったのかわからないが、生徒を狙っていたのなら何故あんな人の通らない場所で待ち伏せをしていたのか。


(まさか、私を狙って……?)


 セシリアが毎週この曜日にあの場所で運動場を眺めているのは、他に誰も知らないことだ。セシリアの行動をある程度見張っていたのなら、あの場所は絶好の襲撃場所であるが、セシリアには狙われる心当たりがない。


「平和な学園でこんなことが起きるだなんて……」


 セシリアが震えた声で呟くと、ロミオが安心させるように笑った。


「なあに、すぐに捕まるさ。王都の警備兵にはうちの兄貴もいるしな!」

「ええ……そうですわね」


 気を取り直したセシリアは、もし次にまた同じことが起きた時には自らの手で犯人を取り押さえられるように拘束技を身につけなくてはと考えていた。


(奥義「蜘蛛の糸」……お母様に伝授してもらわなければ)


 セシリアはそう決意した。





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