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いかにしてルクリュスが連れ去られるのを阻止すべきか。
スゴイーケンリョーク王国(注:実在しない国)の暴挙を防ぎ大切なルクリュスを守らなければならない。テオジェンナはそう決意した。
『王女モッテルーナ(注:実在しない人物)よ! 貴様がいかにすごい権力を持っていようと、天からこの世の可愛さの象徴として地に降ろされた小石ちゃんを悲しませることは許さない!』
『ほほほほ! 侯爵令嬢ごときが身の程知らずな! そもそも、貴女とこの子はなんの関係もないでしょう!』
『小石ちゃんは大切な幼馴染だ!』
『小さい頃から知り合いだというだけで、婚約者でもなんでもないのでしょう? でしたら、どうのこうの言われる筋合いはないわ! ほーほっほっほっ!』
『な、なんだと……』
『婚約者でもない貴女には何の権利もないじゃない! ほーっほっほっほっほっほっげほっごほっ!』
想像の中で嘲笑されて、テオジェンナは唇を噛んで握った拳を震わせた。
(確かに……私は小石ちゃんにとってはただの家が近所なだけの幼馴染……モッテルーナのようにすごい権力で押してくる相手だけじゃない。世の中には人を騙す悪い奴も存在する……小石ちゃんが悪女に騙されたらどうしよう!)
テオジェンナは頭を抱えて首を振った。
教室から一人また一人と生徒が逃げ出していく。
いつもなら授業が終わった後も大方の生徒が教室に残って無駄話に興じるのだが、妄想に取り憑かれた侯爵令嬢が悶えている教室には誰も残っていたくないのだ。
(たとえば……たとえば、小柄で髪がピンクの見た目は可愛いけれど野心的で身分の高い令息を狙っている平民の編入生ヒロインナ・アザットイスが、中庭で木に登って降りられなくなった子猫を助けようとしているのを小石ちゃんがみつけて、それがきっかけで「私ぃ、平民だからって貴族の令嬢からいじめられてるんですぅ」とか相談されて、でもそれは全部嘘でヒロインナは小石ちゃんの他にもいろんな令息に媚びを売っているのに、小石ちゃんは純粋にヒロインナのことを……!)
「うがあああああっ!」
テオジェンナは頭を抱えて床を転げ回った。
最後まで残っていた生徒三人が慌てて教室から逃げ出した。
「おのれヒロインナめ! 小石ちゃんの心を奪っておきながら!!」
ヒロインナ・アザットイス(注:架空の人物)の決して許せない所行に、テオジェンナは傷つけられたルクリュスの心を思って涙を流した。
(いや、モッテルーナ(注:実在しない人物)やヒロインナ(注:架空の人物)だけじゃない。世の中には可愛すぎる小石ちゃんに嫉妬して危害を加えてくるようなニック・マーレヤック(注:実在しない悪役)もいるかもしれない!)
なんてことだ。世の中には悪い奴や危険が多すぎる。
モッテルーナ(注:実在しない人物)やヒロインナ(注:架空の人物)やニック(注:実在しない悪役)のような人を人とも思わない輩から、汚れを知らない純粋なルクリュスを守るために、自分に何ができるのか、自問自答したテオジェンナは苦悩の末に一つの答えにたどり着いた。
(ただの幼馴染のままでは、小石ちゃんに近寄ってくる悪者の前に立ちはだかることができない……ならば、婚約者になればいい!)
テオジェンナはがばりと顔を上げた。
「そうだ! 小石ちゃんにふさわしい「世界で二番目に可愛い子」をみつけるまでは、私が婚約しておけばいいんだ!」
婚約者という肩書きがあれば、ルクリュスをたぶらかそうという女が現れても追い払う権利が手に入る。
ルクリュスを守るためだ。彼が運命の相手に出会うその日まで、テオジェンナはそばで守り続けるのだ。
テオジェンナはそう決意した。




